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題名
弓兵教官 完結編
登場人物
サイカ
投稿者
蛇
投稿日時
2005/2/01 3:31:36
実地演習
前進する兵士の兜に黄色く色づいた丸い葉が舞い落ちた。
兵士の群れは、一列縦隊になって徒歩で山道を進んでいる。全員が背負い袋を背負い、
皮製の鎧を着けて、頭は鉄製の兜で固めている。
腰に巻いたベルトには鞍壷がつけてあり、10本ほどの矢羽が外に覗いている。
焼け付くような夏の日差しは過ぎ去って、白く輝く太陽が浮かぶ空は青く、遠い。
切れ切れになった白い雲が風に乗って、ゆっくりと東から西へと走っていく。
山肌の木々は紅葉には程遠いが、ところどころに黄色や赤いものが混ざり始めている。
山地の冷えた空気があたりを満たす。時折吹き付ける風は、冬の寒さすら予感させる。
歩き続ける兵士たちの顔は紅潮している。
1日分の着替えと食料、水、防具、武器及び武器の手入れ具、寝具、火口箱など、
兵士たちが運ぶ荷物の重量は、小さな子供を背負っているに等しい。
戦闘を想定して作られた軍靴は農作業で履く靴とは比べ物にならないくらい頑丈だが、
その分重たく、履きなれないうちは靴擦れができて使用者を苦しめる。
背中に背負った荷物の重量はすべて背負い袋の肩紐と腰紐にかかり、息の詰まりそうな
負担と不快感を与え続ける。
腰につけた水袋は錘となって腰に巻いたベルトを地面に引き寄せ、体と摺れた部分が
赤く擦り剥けてゆく。
経験の浅い新兵たちが適当に荷物を詰め込んだ背負い袋は、歩くに連れて形が崩れ、
左右の均等を失って、少しずつ、少しずつ、持ち主の歩行を困難にしていく。
そして、新兵たちの最後尾には彼らを追い立てる一匹の犬がいた。
「下を向くな!敵地を歩く訓練だぞ!下を向いてたら敵が襲ってきても判らんだろうが!」
サイカは最後尾から前を進む新兵たちを怒鳴りつけた。
サイカも新兵たちと同じ荷物を背負い、同じだけの距離を歩いている。
しかし装備に慣れ、歩くことに慣れ、警戒に慣れ、経験を積んだサイカの疲労度は、
新兵たちとは比較にならないくらいに軽い。
追い立てるサイカの声が心理的な圧力になり、疲労をさらに増大させる。
あせり、不安、恐怖。後ろ向きの感情は体を硬直させ、動きの自由を奪う。
山腹を削って造った道は、新兵たちの正面100mほどで、谷を大きく回りこんで左に
カーブしている。新兵たちの左手に浅い谷があり、小さな沢がせせらぎを造っている。
谷を挟んだ山肌は新兵たちの位置から80mほどであり、彼らの通っている道が続いている。
突如、弓なりの音がして、新兵たちの前に数本の矢が突き刺さった。
先頭の兵士が呆然として足を止める。
すぐ後ろを歩いていた別の新兵が、突然停止した仲間の背中にぶつかった。
ひゅっ、ひゅっと音が響いて、さらに数本の矢が固まった新兵の足元に突き刺さった。
「このバカが!何をぼけっとしてやがる!射撃されているだろうが!」
最後尾にいたサイカが先頭に向かって駆け出した。左手に赤い旗を持っている。
「散れ!とっとと隠れないと全滅だろうが!ボケッ!」
一人が襟首をつかまれて山肌に叩きつけられた。隣にいたもう一人は蹴りを入れられて
谷側に転げ落ち、斜面から突き出た木に引っかかって止まった。
「射ち方やめ!射撃はするな!絶対に射つなよ!敵の位置は左の山!敵状監視!」
サイカの怒鳴り声が響き渡り、兵士たちは木陰に身を潜めて左手の山肌を睨んだ。
「敵が見えるか!」
サイカの声に続いたのは沈黙だった。
「どうなんだ!」
「見えません!」
何人かの新兵が、やけくそ気味に怒鳴り返した。
「よおし。状況終わり!その場に立て!」
新兵たちがゆっくりとその場に立ち上がる。緩慢な新兵の動きを見て、サイカの怒りが爆発した。
「集合しろ!急げ!」
新兵たちが走って集まってくる。彼らもどうにかこのくらいのことは出来るようになった。
全員が集まるのを待って、サイカは山肌を振り返った。
「見事に待ち伏せを食らったな。相手が本気だったら全滅だ。あそこに俺の仲間が
4人隠れているが・・・・見える奴、いるか?」
サイカは山肌を指差した。秋とはいえ、草木が密生してどこに誰がいるものか、
素人目にはさっぱりわからない。
「ジャッカル!立ってくれ!」
サイカの声に応じて、4人の傭兵たちが立ち上がった。全員が顔を木炭や泥で塗り、
衣服や鎧の端々に葉のついた木の枝を差し込んでいる。
目だけが白く見えるその姿は、遠目には誰が誰なのか区別がつかない。
「見てのとおりだ。襲撃者は4人。谷を挟んで射撃をすれば、側面から一方的に
攻撃できる。シャムス!飛び道具で攻撃されたら、普通どうするか、知ってるか?」
「ええ・・・懐に飛び込んで間合いを詰めます。」
「よし。よく出来た。それじゃ、この地形でどうやって接近するか見てみようか。」
サイカに促されて、新兵たちは正面の道に進んだ。
「谷を横切る、という方法もあるにはあるが、そうすると上から一方的に射撃を
受けることになる。普通は道路を前進するな。しかし、この地形だと、横から
射たれる危険は避けられない。先頭!そのまま歩け!」
新兵たちは前進を再開した。
「あっ!」
10歩ほど進んだところで、先頭を歩いていた新兵が声を上げた。
次の瞬間、兵士たちの行く手を阻むように、右手の山から広葉樹の若木が
飛び出してきた。切り倒した木を横倒しにし、草木で隠蔽したうえで、
しならせた木をカタパルト代わりに使って発射したのである。
「止まれ!さすがジャッカル。芸が細かいな・・・・・」
一人つぶやいてから、サイカは走って先頭に追いついた。
「罠に引っかかって道はふさがれた。さあ、どうする?」
新兵たちはいつものように沈黙した。方策など思い浮かばない。
「よく見ろ。ただの木じゃないぞ。枝には棘を巻きつけてある。馬も人も、ちょっと
通るには難儀するだろうな。おまけに横からは矢が飛んでくる。」
「何とか乗り越えて前に進みます・・・・」
「うん。いいな。強引に踏み破る。突進されるのが一番怖い。だからこそ罠を
仕掛けておく。」
発言した新兵が、得意そうに顔を上げた。
「しかし、それも考えて対策をとってある。この奥に、罠がもう一線あるんだ。」
サイカは横倒しになった木の向こう側を指差した。
「あそこに罠線がもう一本張られている。ジャッカルが仕掛けた奴だから、俺は
どういう罠があるのかは知らない。なんにしても、あそこで罠に引っかかったら、
前後を挟まれて余計に危険になるだろう。」
「いいか!弓ってのはこうやって使うんだ。まず、敵が突進できないような場所を選ぶ!
そして時間の許す限り、罠を仕掛けたり、堀を掘ったりして敵の足を止める。
弓ってのは罠や地形障害と連携して使う。」
サイカは新兵たちの顔を見回した。
「1度じゃよくわからんだろう。しかし・・・・1度でも奇襲を受けてみろ。絶対に忘れないぞ。
その戦法で横にいる仲間が死んでいくんだからな。」
新兵たちの顔色がわずかに変わった。サイカや傭兵たちから何度も言われていることだ。
「何か質問は?」
「ええと、こういった待ち伏せできるような場所は、ほかにどんなのが?」
「いい質問だ。川のある場所、道を見下ろせるような高い丘、ここにあるような道路の
屈曲部、開闊した場所のはずれにある森、谷の底。そういったところだな。
自分が隠れられて、相手が横に迂回できない場所を選ぶのが基本だ。罠のある
位置を回り込まれてしまうからな。」
「他には?・・・・ないか。・・・・・・・・・・・・・・それじゃ、最後に一つ教えておこう。」
「シャムス!お前、仲間が弓で射たれて、動けなくなっていたらどうする?」
「もちろん、助けます。」
シャムスは力強く答えた。
「自分が危険で、助ける余裕がなかったら、殺してやれ。」
「・・・・・・・・」
サイカのあまりの言葉に、新兵たちは硬直した。
「弓使いの常套手段の一つだ。足に矢が刺さって動けなくなった敵兵を、わざと
殺さずに放置しておく。仲間が助けに入るところを狙い撃ちだ。誰も助けに来なければ
なぶり殺しにする。肩口とかを狙ってな。」
「敵を減らすには有効な手段だ。マイリーの司祭が見てなければ、よくこの方法を
使ってくる。だから、そうなったら殺してやれ。一人の兵士を助けるために3、4人が
死ぬことになる。」
「しかし、お前たちはたとえ劣勢でもなぶり殺しはやめろ。なるべくあっさり倒せ。
卑怯だからとか、残酷だからとかじゃない。そのほうが安全だ。」
言い捨てるように最後の言葉を吐き出すと、サイカは谷の向こう側にいる、
傭兵たちの方向を向いた。
「撤収作業に移る!罠をきれいに掃除して帰隊するぞ!痕跡を残すなよ!」
ジャッカル
石造りの広い部屋に木製の長机が3列並んでいる。肉や野菜を煮込んだ臭いが部屋中に
たちこめている。一日の仕事を終えた兵士たちが、思い思いの席に座って食事を取っている。
暖炉に火がくべられている。辺境の山地は冬の足が速い。日中は穏やかでも、夕暮れから
早朝にかけての冷え込みは、かなり厳しい。
「失礼します。」
長机の端にジャッカルの姿を認めて、シャムスは一礼して彼の隣に腰を下ろした。
ジャッカルは30を幾つか超えている。傷跡の入ったやせた細面の顔にぼさぼさの黒髪。
目じりがやや垂れ下がっていて鈍そうな印象を与えるが、顔の印象とは裏腹に
かなりの切れ者であり、腕も立つ。二月ほどの訓練を通じてシャムスはそのことを
思い知らされていた。
ジャッカルはちらりとシャムスを睨むと、無言で食事を続けた。
彼に愛想がないのはいつものことなので、シャムスは気にせず、隣に腰を下ろした。
「ジャッカルさん・・・・・この間の教官の話で、どうもよくわからないことがあるんですが?」
ジャッカルは再び黙って顔を上げた。平素から無口な男だ。
「仲間が弓でなぶりものにされたら、って話ですよ。あの時教官は「なるべくあっさり倒せ。
そのほうが安全だ。」って言ったんです。」
ジャッカルの眉がぴくりとあがったことに、シャムスは気付かなかった。
「「そのほうが安全だ」っていうのはどうもよくわからないんですが。自分で言ってましたけど、
あの人が騎士道精神で動くわけもないし。」
ジャッカルは黙っている。両目を心持ち普段より大きく開いて、食事を続けたまま虚空を睨んだ。
「恨みを残した敵、って奴は怖いぞ。」
「は?」
ジャッカルは木製のコップを取り上げて、残った水を飲み干した。食事を終えた兵士たちが
ぽつぽつと席を立ちはじめている。
「強い恨みを持った敵は本当に怖い。それがたとえ弱い奴でもな。」
「どういうことでしょう?」
「・・・・・・水を汲んできてくれないか?」
シャムスがコップに水を汲んでくると、ジャッカルは一口だけ口をつけた。
「昔の話だ。ある砦の攻防戦で、サイカが言ったような状況が起きた。」
「弓でなぶり殺しに?」
「そうだ。守備隊が策を使った。攻め手が遠距離にいるときはわざと射撃をしないで矢が尽きた、
と思わせておいて、城壁の下に来たところで不意に集中射撃を浴びせたんだ。守っている
側のほうが当然劣勢で、数が少ない。敵を少しでも殺すためにあの戦法を使った。」
ジャッカルは珍しく多弁だった。
「攻め手の一人が足を射抜かれて動けなくなった。まだガキだったな。そいつを助けるために
何人かが飛び込んで犠牲になった。ひとり、最初に飛び込んだ奴がいてな。そいつにつられて、
危険も顧みずに助けに入ったんだ。」
「そういうこともあるんですか?」
「ああ。我慢できるか?仲間が殺されかけてる。横の奴は助けに行った。それでも
お前は黙って見ていられるか?仲間を射殺したくはないだろう?」
嫌な光景が頭に浮かんでシャムスはあわててその想像を追い払った。
「そのガキは助かった。そいつを助けるために2,3人が死んだがな。」
兵士たちのほとんどは食事を済ませて立ち去り、広い部屋の中に人影はまばらになった。
窓の外に見える空は灰色になり、細い夕月が浮かんでいる。
「守備隊は時間を稼いで撤退した。攻め手は何日もしつこく追いかけた。
しかし守備隊は逃げ切った。お前たちに見せたような、待ち伏せ戦法とか、ありとあらゆる
戦法を使ってな。」
「逃げるほうも大変だったでしょうね。」
「ああ、大変な戦だった。追う側が怒り狂ってたからな。だが俺が話したいのは撤退戦の
話じゃない。その戦から2年後の話だ。」
「2年後・・・・ですか。」
「ああ。2年後、二つの部隊はまた戦場でかち合ったんだ。お互いにすぐにわかった。
長い間戦っていたし、旗印にも見覚えがあった。ただし、追うものと追われるものの立場
が逆転していたけどな。」
のどが渇いたのか、ジャッカルはコップに口をつけた。
「・・・・・守る側だった弓兵隊、お前たちが使っているような長弓隊だな。それが重装騎兵
と一緒になって攻める側、城に攻め込んでた部隊は、重装歩兵とクロスボウの隊。それが
撤退戦の最後尾になって、細い平原に横隊になっていた。」
「守るには、あまりいい地形じゃなかった。ちょっと正面幅が広すぎて、重装歩兵の横に
クロスボウ部隊が並んで守ってたんだ。騎馬隊からすればおいしい餌に見えた。
重装歩兵は簡単には崩せないが、弓隊なら突破するのは簡単だ。味方の弓隊で射撃
して混乱させれば、正面から受ける射撃も最小限ですむ。長弓隊で射撃支援させて、
騎兵がクロスボウの部隊に向けて突撃した。セオリーどおりだな。」
この男がこれだけ話しているところを見たことがない。シャムスは内心の驚きを隠して、
黙って話を聞いた。なんとなく口を挟むのがはばかられたのである。
「攻める側からすれば、逃げる敵を追いかけ敵が防御しにくいところで、こちらのペースで
戦える、という腹だった。しかし、敵の陣形はかなり周到に準備した罠だったんだ。」
シャムスの驚きをよそに、ジャッカルの饒舌は続く。
「敵の、防御側のクロスボウ部隊の前には、巧妙に隠された馬防柵と堀があった。
突進していった騎馬隊がそれに気付いたときは手遅れだった。騎馬隊ってのは
いったん足を止められてしまうと脆い。柵で転倒したり、堀にはまったりして混乱している
時に、まず正面から一斉射撃。間髪要れずに横から重装歩兵が突っ込んだ。
長弓隊は何も出来なかった。騎馬隊が前にいるからな。それに、思わぬ罠にはまって
行動が遅れた。」
いつしか食堂にはジャッカルとシャムスの二人だけになっていた。暖炉の火はまだ燃えて
いるが、がらんとした食堂は、人の体温がなくなって寒々しく感じられた。
灰色だった空が真っ黒に変わっている。すんだ大気の果てには星が青く瞬いている。
「重装歩兵とクロスボウ部隊の動きは反対に素早かった。騎馬隊の横を突いた
重装歩兵は、そのまま騎馬の縦隊をぶち抜いて、反対側に回り込んだ。
散り散りになった騎馬隊に、クロスボウの一斉射撃が降ってきた。騎馬と歩兵が
離れたんで、長弓隊も射撃したが、重装備歩兵相手じゃ決め手にはならない。」
「残った長弓隊が重装歩兵相手に効果の薄い射撃をしている間に、騎馬隊を撃破した
クロスボウの隊が陣地を移動して包囲にかかった。あとの戦は一方的だった。
逃げようとした奴はクロスボウで狙い撃ちにされた。最後に重装歩兵が突撃して、
最初は攻めていた方がほぼ全滅して、戦は終わった。」
「復讐完成・・・・ですか。」
「その通り。しかも、おまけ話がある。敵のクロスボウ部隊の指揮官、そいつは前の戦で
足を射抜かれて、仲間に助け出されたガキだったんだ。前の戦から2年経ってたから、
もうガキ、って齢じゃなかったが。」
「弓でなぶり殺しにされかかってから、よほど弓の勉強をしたんだろうな。復讐するために。
前の戦で殺しておけば、あの長弓隊があそこで全滅することはなかったろう。」
ジャッカルは、また一口杯の水に口をつけた。
「サイカが言ってたのはそういうことさ。敵はさっさと殺せ。殺せるときに。なるべく素早くな。」
どこかで梟がほう、と鳴いた。
怨霊
砦の一角に立派な石造りのドームがある。
外壁の一部をそのまま壁として利用した構造で、厩に匹敵する大きさがある。
ドームには薪を焚くための釜がついている。かまどから伸びた煙突から、白い煙が昇っている。
すぐ近くに井戸がある。捕虜にした蛮族の戦士に「井戸を掘り当てたら自由にする」
という条件で、16年の年月をかけて完成した、といういわく付きの井戸だ。
ざばりと頭から水をかぶり、ジャッカルはドームの扉を開けて中に入った。白い蒸気が
噴き出して、ジャッカルの前髪を揺らした。
ドームの中はほんのりと灯りが点っている。蒸気に縁取りされた光の中に、先客がいた。
「余計な昔話をしていたようだな。」
「盗み聞きたあ、趣味が悪いな。」
ジャッカルはサイカの正面に腰を下ろした。床に置いた桶の水をひしゃくですくい、
焼けた石の上に撒いた。水は一瞬で沸騰し、新たな蒸気が立ち上った。
「お前にとってもあまり楽しい話じゃないだろうに。」
サイカの言葉には答えず、ジャッカルは手ぬぐいで額の汗をぬぐった。
二人とも全身に傷跡がある。刀痕もあれば槍で突かれた傷もある。白く丸く肉が
盛り上がっているのは矢傷だ。返しのある矢じりが突き刺さると、肉が裂けて
大きな傷跡になる。
ジャッカルの前に座ったサイカの右足には、普通の矢傷よりやや小さな跡があった。
矢が体を貫通すると、矢じりを引き抜く必要がないため、普通の矢傷より小さい傷跡になる。
「なあ。あの時お前を助けに入った奴・・・・誰だったんだ?」
サイカはちらりと裸のジャッカルに視線を向けた。
「兄貴さ。血のつながった正真正銘の兄弟だ。」
「・・・・・・それでよく俺を生かしておいたな。」
「お前の悪いところを真似ることはない。そう思っただけだ。・・・・・殺したくなったか?」
「性質の悪い冗談はよせ。お前こそどうなんだ?」
サイカは手ぬぐいで体を拭き、絞り上げた。しみこんだ水分が床に落ちた。
「今の俺があるのは、ある意味あんたのおかげだ。あの追撃とあんたのしぶとい撤退戦闘が
なかったら、本を読んで戦法を研究しようなんて気は起きなかったろう・・・・・・・
それに今は頼りがいのある部下だ。」
「怖い上司だねぇ。」
サイカは無言で体をぬぐうと、たたんだ手ぬぐいを片手に立ち上がった。
「これからも頼むぜ。師匠。」
手ぬぐいで顔を覆い、ジャッカルはぺたりと石の壁に体を預けた。
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井戸で水を浴びると、サイカは別に用意したタオルで体を拭き、服を着替えた。
最後のボタンを留めて上着を羽織ると、たたんだ手ぬぐいを取り上げた。
次の瞬間、サイカの手元から銀色の光芒が走って、井戸のつるべに突き刺さった。
井戸に歩み寄り、小ぶりな短剣を引き抜くと、サイカはそれを井戸に放り込んだ。
しばらくしてから、井戸の底から音が響いた。16年分の恨みの音だ。
「弓兵教官」完
この作品の感想をお寄せください
うゆま
さんの感想
(2004/12/03 2:13:49)[1]
いやはや、弓についてのEPかと思いきや。
最後の最後でキャラの過去、即ち生立ちに繋がるとは・・・
しかし、描写が細かい。しかも、動きを文章で説明するのは大変。
罠など戦術云々に関しても同じ。
終始説明に終わらず、キャラの体験談なども交えるところが面白いと思いました。
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感想
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