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題名 【競作企画】”仲間”というものについて
登場人物 ホッパー、そして可能な限りの大勢様
投稿者 うゆま
投稿日時 2006/1/23 1:16:16


「お前ってさ、決まった仲間っていねぇの?」

 朧げながら、随分前にラスさんにそう聞かれたことがある。
 確かに僕には決まった仲間で仕事をする経験が少ない。
 そして、言われてから何となく気にする事はあったのは事実だ。

 しかし。

 日々の勉学の研鑽や簡単な依頼、その他の事で過ごす毎日にすっかり忘れていた。
 なのに、急に思い出した・・・正確には、最近見た夢がきっかけだけれども。

 冒険者になり立ての頃の夢だろうか。
 たまたま一緒になったのが縁で知り合った人達と会っている夢だ。
 ただ、楽しくたわいもないお喋りをしていたのだと思う。
 何を話していたかは全く覚えてはいないが、気にする事では無い。
 暫く会っていないので一番覚えている姿のままで変わっていない。
 ただ、自分だけが少し変わっているぐらいで。
 楽しい時間だったと思う。
 そして気付けば一人去り、また一人去り・・・僕一人取り残されて目が醒める。

 そんな夢。

(仲間ってなんだろう?)

 急に気になって学院の図書館にある”一般言語録辞典”というものを紐解いてみる。

 仲間=一緒に物事をする間柄、地位・職業等の同じ人々、分類等で同じか似た種や類のもの。

 ぱたん。(←本を閉じる)
 分かったような、分からないような・・・

 とりあえず、今日も”気ままに”亭へ赴く。



 椅子に座り店内を見まわしてみる。
 何かの仕事を無事終えて共に祝いあう冒険者のグループが目に付く。
 彼らは時々見かけ、いつも同じ人で組んでいる。

「ああいうのが、仲間・・・なのかな?」

「え?お替りですか?」

 店員のバザードさんが聞き間違えて注文を受けに来る。
 訂正し様としたが、それは悪い気がするので、お替りを頼む。
 以前よりも手慣れた手つきでお替りのワインを持ってきた。
 同時に先ほどのグループの円卓に呼ばれて注文を受けに行く。
 かなり言葉を交して戻って、注文を厨房へ伝え様として・・・もう一度聞きにいく。
 見ているとどうにも注文が多い様だ。
 暫くしてから注文の嵐に解放されて戻ってくる。

「いやぁ、いいですねー。あの人達、仕事を無事に大成功させたらしいですよ」

 バザードさんが忙しいながら教えてくれる。

「仲間っていいですよねー。前に僕、遺跡に連れていってもらって・・・」

 きっと仲間として信頼関係が良いのだろう。
 笑顔で酒を酌み交わし、少々騒がしく喜び合っているのを見てそう思った。

「羨ましいですね・・・」

「あ、そうですかー?でもホッパーさんも仲間・・・」

 僕には、仲間と呼べる人は・・・たぶん、いないと思っている。

 僕なりに結論を出す。
 それなりの時間を共有し、共に苦労と喜びを知る。
 何かあっても、常に信頼を置く間柄・・・それが”仲間”なんだろう。
 そして、ここで出会う人達の中にも特定の人と常に組んで仕事をしている。
 互いに信頼を置き、時に背中を預けて困難を潜り抜けてきたと聞く。
 僕には過去にはあった・・・最近はどうだ?

 僕が考える”結論”を正しいとするならば?

 本当に”仲間”といえる存在はいるだろうか?

 僕自身を”仲間”と認めてくれている人はいるだろうか?

「・・・ああ、そうなのか」

 だとすれば僕は寂しいものだと思った。
 ワインを飲み干して、久しぶりに酔いつぶれそうになった。
 結局、そのまま”気ままに”亭に泊まった。



 夢をまた見た。

 どこかの酒場。
 
 僕は誰にも見えない存在として一人の人物を見ていた。
 そのおじさんは・・・飲んだくれていた。
 襤褸切れのようになったローブを纏い、無精髭だらけ、髪はぼさぼさ。
 体格は貧弱で、腕など肌の見えるところは汚れで見るに耐えないほど酷い。
 飲みすぎて顔は真っ赤、だらしなく机に突っ伏していた。
 誰も周りには近付かない。

「おぅぃ・・・おかぁ・・・わり・・・」

 野太いが酔って呂律が回らず、其の上掠れた声なので聞き取りにくい。
 誰も答えない。

 無言で抗議のように今度は空の杯を力無く持ち上げて、そして落としてしまう。
 だが、器用にも壮年の店員が杯を床すれすれで掴み、そして仁王立ちになる。

「駄目だ・・・飲み過ぎだ。止めとけ」

 おじさんは恨めしそうに、同時に怯えた視線で店員を見る。

「ケチなこと言わないでくれよ・・・飲まないと、賢者の知識が出てこないんだよぉ」

 店員の手にある杯を掴もうとするが、手が震えて動きがぎこちなく届きもしない。

「ツケも払わず、あまつさえ簡単な依頼すら満足にこなせないアンタに飲ます余裕は無い」

 店員は杯を遠くにやり、代わりに其の手にツケの書かれた羊皮紙を渡す。

「これぐらい・・・何とかするからぁよ・・・そう言わないで・・・」

「だったら、質草代わりに預かっている例のアレ、売ってもいいんだな」

 おじさんの顔が急に赤から青くかわる。

「あ、あ・・・そ、それだけ、アレだけは駄目だ・・・頼む!アレは売らないで・・・!」

 床にへたり込み、頼む頼むとうわ言の様に繰返して懇願し、店員の服の裾を掴む。

「だったら、酒飲む理由に知識云々言わず働くんだな、飲んだくれの冒険者気取り!」

 軽く突き放されて、それだけでおじさんが床に転がる。
 返す言葉も無く、うめき泣き始める。

「ま、今のアンタにゃ、大した仕事なぞ無いだろうがね!ましてや一人でなんてな」

 おじさんは立ち上がらない。

「信頼するされる仲間もいない・・・哀れなもんだ、一人ってのは」

 哀れみと軽蔑の入り混じる視線を投げかけて、店員はカウンターに戻っていく。

「う、ううう、うぅ・・・」

 おじさんは嗚咽と共に立ち上がり出口に向かっていく。
 誰も振りかえらない、気にもかけない。

(いくらなんでも、ひどい・・・せめて、僕だけでも)

 大丈夫ですか?

 そう思って声をかけようとする。
 肩を貸そうとする。

(あれ?)

 ふと気付く。
 おじさんはいない。
 肩を貸そうと差し出した僕の手が痩せこけている。
 身にまとう衣服が襤褸切れのようになっている。

 僕は酒場の外にいた。
 近くの水溜りを見る。
 其の姿は・・・僕はおじさんになっていた。

 悲鳴をあげようとした。
 水溜りに写っているの僕、いや、おじさんの僕が笑う。

『これが仲間なんていないお前の末路だよ』



 朝早く。

「×××!!」
「○○○!!」
「□□□!!」
「△△△!!」

 何だかよく分からないが、とても凄い罵声で、夢から無理矢理醒める事になった。
 何事かと階下を覗くと、昨日のグループが二つに分かれて言い争っていた。
 言い争いの中心は戦士らしい巨漢の男性と、盗賊らしい細身の男性。
 どっちつかずの神官らしい女性がおろおろしている。
 痩せぎすの魔法使いの男性は我関せずと無視を決め込んで机で静かに読書している。

「仕事で持ちかえった金品が紛失したとかが原因で大喧嘩だそうですよ」

 皆が遠巻きに見ているところに、アルさんが隣に来て言った。

「用事があって来たんですが。まさか、喧嘩の場面に出くわすとは」

「喧嘩って・・・」

「誰かが盗んだとかという一言。それから言い争いですよ」

 昨日まで肩を組んで酒を飲み騒いでいたのに。
 あんなに笑顔だったのに。
 仲の良さそうな仲間だったのに。

 今や互いに掴みかからんとしている。
 神官の女性は涙を流しつつ魔法使いに仲裁の協力を頼んでいる。
 しかし、魔法使いは軽く一瞥しただけで、煩わしいとばかりに店の外へ立ち去ってしまう。

「いい加減止めないと危ない。それに・・・」

 何かを言いかけて、前へ出ようとする。
 知識神と同時に交流神を信仰するアルさんのことだ。
 此れ以上は見ていられないのだろう。

「アルさん、僕も」

 がたん!

 椅子がひっくり返る。
 店員のバザードさんが仲裁に入れず戸惑っている。

「やめんかっ!!馬鹿野郎ども!!周りにいる奴らも何してる!!」

 他の店員に呼ばれ、駆け付けた店長代理のフランツさんが一喝して場を静める。
 大喧嘩はそれっきり終った。

(仲間って、そう簡単に喧嘩するものなの・・・?)

 僕なりの”仲間”の結論がますます歪んでいく。



 いつも静かに考えたい時に行く秘密の河原。
 同じように秘密の河原を知っているキアさんと会った。
 だからと言う事でも無いが、朝の出来事を話すことにした。

「へー、そんなことがあったのん?やーねぇ、ササイなコトでケンカなんてよくないの」

「そうですよね・・・仲間って思えてた人達が、まさか些細なことで喧嘩なんて・・・」

「そーそー。あ、でもねー、仲間だからたまにはー・・・」

 キアさんが自分なりの考えを次から次へと話している。
 なのに失礼な事に僕はちゃんと聞かず一人考え込んでいる。

(あれが”仲間”の要因ならば、僕には”仲間”は・・・)

 あ、そうか。

 僕は一人のほうが気が楽・・・になっているのではないのだろうか?

(じゃぁ、僕は・・・ずっと)

 今朝の夢を思い出す。

(信頼もせず信頼されず仲間なんていない・・・あれが僕の将来?)

 頭を振る。

「どーしたん?ホッパー?」

 心配そうにキアさんが僕を見る。

「もしかしてー・・・恋の悩みー?フユなのにハルが一足早くきたんー?」

 にひひっと言って笑う。

「ち、違いますよっ!」

「あははー真っ赤だー。やっぱクレフェ言ってたのホントだったんねー、にひひっ!」

「ちょっ!」

「ミルテさんだっけねー?うまくいってんのー?どこまでいったんのー?」

「大声で言わないでー!キアさーん!あと誰にも言わないでー!」

 僕の悲鳴がよく晴れた冬空に吸い込まれていった。



 ”気ままに”亭に戻ると、あのグループはすっかり沈んでいた。
 相当フランツさんに絞られた様子だ。
 喧嘩の中心の二人は特に。

 仲直りしたかどうかは計りかねるが・・・

「あら、ホッパー君じゃない?」

 クレフェさんが来ていた。



「ごめんなさいね。つい、お酒の席でね・・・」

 怒ろうにも綺麗な女性の微笑には勝てない自分の性が哀しい。

「でも、キアにはちゃんと口止めしてあるから他の人には喋らないわ。安心しなさいな」

「それなら良かったですけど・・・」

「・・・にしても、本当のところどうなのかしら?彼女との進展の方は?」

「か、彼女って、まだそこまで・・・」

 赤くなるのが分かるようになっている自分がまた悲しく、そして何故だか嬉しい。

「よ、クレフェ・・・お、ホッパー、聞いたぞ。お前、付き合っているってよ」

「な、なんで知って・・・」

 逃げの態勢に入る僕。

「ま、気にするな。んで、どこまでいった?コトによっては相談も受けてやってもいいぞ」

 笑顔で肩を両人に”ぽむ”とされてしまった。
 逃げられない。
 目の前にワインが置かれた。

「まずは口を軽ーくしようか?」



「はっはっは、若い若い!いいねぇ、恋!」
「正直に吐けー!」「飲めませんよぉ」「真実を探るのも賢者の」
「まだ隠してるな?」「きりきり喋れっ」「あほらし・・・」
「お客様、お替わりなさいますか?」「注文のまだー?」
「何の話ー?」「知った事か」「俺なんて恋は常に・・・」
「おめーは自惚れてるだけだ」「んだとぉっ!誰だ今言ったのっ!」

 何故だか周囲には僕の噂を聞いたりして根掘り葉掘り尋問の場と化していた。
 結局、噂は広まるもの・・・痛感。

 大分時間が経って、ようやく尋問は有耶無耶になって終ろうとしていた。

 でも、嬉しい。
 こうやって、何の理由も関係も無く、騒げる。

「でも、仲間とは違うのかな」

 思わず言葉にしていた。
 今朝方見た夢が思い出されて涙が込み上げてくる。

「僕には仲間はいるのかな・・・できるのかな・・・」

 感情が混乱していた。
 コントロールできない。
 涙が止まらない。
 自分が分からなくなる。
 周囲の喧騒が聞こえない。

”こつん”

 誰かが頭の上に拳骨を軽く落とす。

「あぅ」

 涙目で顔をあげる。

「クソ真面目に考えて煮詰まりやがって。これだから頭でっかちは・・・」

 夢で見たあのおじさんの自分・・・僕の横に座っていた。

「・・・お前が仲間だと思わなければ、誰もお前を仲間なんて思わねぇよ」

「でも」

「デモもクソもカモもあるか」

 おじさんが笑い、その姿が歪む。

「喧嘩もするから信頼も出来る。仲間なんてそんなもんじゃ」

 お爺さんが優しく微笑んで、小さい時のように頭を撫でてくれる。
 そして姿が朧げになる。

「周りにおるじゃろう?お前を囲んでくれておる人達を・・・」

 もう一人の僕が立っている。

「そして、僕が冒険者としてここに訪れた日から、皆と知り合えた日から・・・」

 そうか。
 なら、仲間って・・・。



 ぐぅぐぅ・・・。

 誰かが言っている。

「おぃおぃ、カンペキ寝ちまったぞ、ホッパー?」

 誰かが答える。

「飲ませ過ぎるからよ。ま、でも・・・良い顔してない?」

 誰かがそれに失笑を漏らす。

「んー・・・つか、気味悪ぃ」

 誰かが言った。

「ま、吹っ切れたんだろうよ。まだまだ若いからな、悩みもあるさ」

 溜息混じりに誰かが言った。

「だと良いんだが、な」



 仲間=まだまだ考える余地あり。でもとりあえず、深くは考えない様にする。

 だって、結論を出せるほど僕はまだ人生を送っていないから。

【完結・・・はしない。】


■ あとがき ■

えーーーーーっと・・・・・・・・・(汗)

すいませんっすいませんっ!!!
何だか勢いで書くとイケナイ例みたくなった気がします。
でも、私なりにホッパーを通して考えてみました。

それがこれかい!!!

ってツッコみを自分でいれておきます(汗)

とはいえ、せっかくのEPイベント、参加したかったので投稿しちゃいました。
それではっ!!(逃走)


この作品の感想をお寄せください
枝鳩さんの感想 (2006/3/12 23:01:05)[6]

思い悩むホッパーの姿がよく描かれているEPだと思います。
彼を中心に回りに描かれたPC、NPCも生き生きと動いているようすが素敵です。
また一つ前向きに動き出せたホッパー。これからも楽しみです。
Ken-Kさんの感想 (2006/2/25 10:48:36)[5]

仲間とは何か、友とは何か、考え始めると難しい問題です。その問いに若きホッパーが足をかけて、今まさに昇り始めたわけです。楽な道のりではありませんが、がんばってもらいたいもんですね。未来の可能性として現れた自身の姿を乗り越えられるように。
深海魚さんの感想 (2006/2/23 21:20:16)[4]

読みながら、ホッパーそんな事はねぇ。お前には沢山仲間がいるよ!と心の中で叫んでしまいました。
飲んだくれのオッサンがいつの間にか未来の自分になっていると言う部分が結構好きだったりします(笑)
小町小町さんの感想 (2006/2/19 21:16:39)[3]

ホッパーさんと、彼を取り巻き、彩る人々。
読後感の優しさと、ああ、これがホッパーさんなんだぁという感覚。いいなぁ、楽しかったです♪
U-1さんの感想 (2006/1/25 13:33:42)[2]

迷いながらも自分なりの答えを探し続けるホッパー。
彼らしさを愛しく思い、支えたり励ましたりする人々。
本当に素敵な仲間たちだと思わせてくれた作品でした。
企画のスタートとして、また個人的にナイスだったネタ振りに全力でGJ!(笑)
琴美さんの感想 (2006/1/23 1:26:47)[1]

テーマを活かしてホッパーらしさを描きあげたことに惜しみない賞賛を。
そして、彼をついつい構ってしまう周囲の温度にも納得。読後、ほんのりと胸が温かくなりました。
競作EP企画のこれからが楽しみな好スタートですね。私も頑張ろうっと。
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