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題名
【競作企画】“仲間”というものについて
登場人物
アスリーフ、アル、ホッパー
投稿者
U-1
投稿日時
2006/2/01 1:24:16
暮れ行く年の置き土産とでも言うのだろうか。
最後の月に値上がりした油は、ボクの懐具合と編纂の進行に甚大な被害を齎した。
そもそも、ボクにとって夜間の灯火用油代というのは、戦士達が武具の手入れに費やすお金と同じだと言っても過言ではない。
昼前に起き、定宿の給仕と後片付けを手伝うことからボクの一日は始まる。以前は買出しの荷物持ちで宿代の減額をしてもらっていたが、最近は、その時間帯を別の用事に充てている為、昼食時の手伝いをするのだ。それが一段落した頃に遅い昼食を済ませ、剣の稽古に出向く。日暮れぐらいまで体を動かした後、ラーダ神殿なり、学院なりの図書館で過ごしながら夕食時が過ぎるのを待つ。それから師のお宅で雑務を手伝ったり、教えを請い、夜が深まれば、酔客の集う酒場を巡りながら竪琴で日銭を稼ぐ。そんな一日なのだ。
夜半に宿に戻って初めて落ち着いて羊皮紙に向かい合える。けれど、油の高騰でその時間を削らざるを得なくなっていた。夜間に街を徘徊する以上、明かりを欠かすわけにはいかない。それでなくても酒場から酒場へという短い距離で、火を灯したり消したりを繰り返している為に芯の消耗が早い。根元まで使い尽くす前に火の点きが悪くなって交換しなければならないこともあるほどだ。
悴んだ指で即座に竪琴を演奏できるわけもなく、去年は気にもしなかった指先の防寒の為の高い手袋を購入しているというのも懐が寒い原因の一つだろう。雪の湿り気や逆に乾燥した空気から竪琴の弦を守る為に買った覆いも中々に高い代物だった。酔っ払いが、そんな微妙な音の違いに文句を言うはずも無いとは思うが、冒険に出た時、普段の手入れが悪くて呪歌が使えないでは、話にならない。この辺りは仕方ない出費なのだ。
とすると、やはり削れるのは、宿に戻ってからの油の消費以外にない。食費も切り詰めてはいるが、最低限の食事だけはしておかないと咽喉に変調をきたすような精霊力の不均衡が怖い。同業者の多くが同じような状況にあるのか、過ぎ越しの祭りでもベテランが精力的に活動し、ボクは期待したほどの稼ぎにありつけなかった。読みたい書物は図書館で済ませ、食事の少なさを睡眠時間で補い、どうにかこうにか日々を暮らしていたが、油の値は、なかなか元に戻ってはくれない。
やむを得ず、師に数日の休みを頂き、冒険者としての仕事を探す。普段のように安定した収入が得られる保障はないが、まとまった額の報酬を短期間で得られるかもしれないというのは、なかなか魅力的なものだ。問題があるとすれば、ボクを仲間に加えて仕事をやろうという人が居てくれるかどうか。戦士としては駆け出し以前。魔法が使えるわけでもなければ、奇跡が起せるわけでもない。弱い妖魔や猛獣なんかが相手なら、どうにか自分の身を守るくらいは出来るだろうが、戦力として考えてもらえるほどではないし、知識や呪歌にしても現状では、あるだけマシという程度でしかないのだ。こういう時は、まだまだ、精進が必要だと、普段以上に思い知らされる。
※ ※ ※ ※
久しく足をむけていなかった≪きままに亭≫で自分の参加できそうな依頼を物色していると不意に店内が騒がしくなった。見ると体格の良い戦士風の男と細身の男がテーブルを挟んで喚き合っている。同じテーブルに居た大地母神の神官が、二人を宥めようと立ち上がりはしていたが、何をどう言えば分からずにいるようだ。もう一人の連れは「くだらん」とはき捨てるように言った後、自分には関係ないとでも言うように鞄から取り出した本を広げた。
「仕事で持ちかえった金品が紛失したとかが原因で大喧嘩だそうですよ」
遠巻きに耳に入った情報を二階から降りて来て面食らった状態の知人に説明する。
「用事があって来たんですが。まさか、喧嘩の場面に出くわすとは」
「喧嘩って・・・」
ホッパーさんは信じられないといった風に呟き、呆然と今にも掴み合いを始めそうな二人を見詰める。
「誰かが盗んだとかという一言。それから言い争いですよ」
仲間内で、そんな発言をすれば揉めるのも当然だ。不用意な発言をしてしまった戦士風の男も自身の失言には気が付いているだろうが、一度発してしまった言葉を引っ込めることも出来ずにもう一人の言葉に反発している。神官が泣きながら助力を請うが、連れの魔術師は一顧だにせず店を出て行った。
「いい加減止めないと危ない。それに・・・」
それに……何と言うつもりだったんだろう。無意識に何かを言おうとして、でもその言葉を我知らず飲み込んで。ともかく仲裁する為に前に出ようとした。
「アルさん、僕も」
そうホッパーさんが言いながらボクに続こうとする。けれど結局は、フランツさんが一喝することで、その場は納まった。勿論、その場だけだったが。
※ ※ ※ ※
≪きままに亭≫で思うような仕事を見つけられなかったボクは、もう少し簡単な依頼が集まる店へと移動した。冒険者の店としての格が違えば、自ずと集まる依頼の質も上下する。依頼人が依頼先を選別してるのか、店主たちが横のつながりを利用して店に集う冒険者に相応しいと思える依頼を斡旋しあっているのかは知らないが、場末のあまり繁盛していない店の方が、宿代同様、手軽な依頼に出会える可能性はある。
狼退治や犬頭鬼討伐という駆け出し向けの依頼と合わせて、旦那の浮気調査や家出猫の捜索といった冒険者というより、便利屋としての仕事もあり、ボクは実入りと拘束時間を考えながら、それらの依頼を眺めていった。そして、そんな仕事探しを数日繰り返す内に≪きままに亭≫で喧嘩をしていた戦士……カウルと再会したのである。
先日の喧嘩の後、フランツさんにずいぶん絞られはしたが、内心おさまらず、盗難の容疑者である盗賊にも、我関せずと自己中心的だった魔術師にも嫌気が差し、新しい仲間を探そうとしていると彼は言う。おそらく、仲間たちにもそう言い捨ててきたのだろう。反発心と怒りと勢いが、その言動を後押ししたであろうことは想像に難くない。けれど、ボクより歳若い彼の表情は、それが半分強がりで、残りの半分は、認めたくないと思いながらも自分の失言が過失の原因だと知っていて、そのせいで居辛くなった。だから抜けてきた。そう語っていた。だが、彼は、それをひた隠すかのように仲間たちへの不満を言い続けた。
いつも最前線で危険と対峙しているのは、自分なのに。
自分がみんなを守っているのに。
自分の力が無ければ、今回の仕事だって成功しなかったはずなのに。
それなのに、そんな自分の苦労の結晶とも言える実入りの上前をはねる奴が仲間の中にいただなんて……などなど。
一通り話しを聞いた後、色々と思うところも無いではなかったが、何も言わず彼と一緒に依頼を受けることにした。内容は狼退治である。実入りとしては、高が知れてるが、ほぼ生粋の戦士であるカウルと半人前の戦士であるボクだけで受けられそうな仕事は、とりあえず、それだけだった。
元々、依頼元である村の裏山には狼の生息する小さな洞窟があったらしい。だが、狼たちが人里まで出てくることもなく、頭数自体も少なかったことで、猟師たちが注意する以外、ほとんど気にもかけていなかったそうだ。ところが、今年は雪が多く、山に食料が少なくなったのか、村の周囲でも時々、狼が目撃されるようになったという。そうすると危機感がわいてくるのが人の常。しかし、実被害も(今はまだ)無く、頭数も少ないということで、巡視などは、なかなか動いてくれないらしい。それで冒険者に依頼ということになったのだろう。ねぐらも判明しているし、単純にそこへ向かって狼を駆逐する。ただ、それだけの単純な仕事だ。
「なぁに、荒事の大半は任せてくれて構わんからな」
「よろしくお願いしますね」
気軽に請け負うカウルにそう挨拶をして、その日は別れた。
※ ※ ※ ※
「で? 首尾はどうだったのさ?」
「なんとか……と言ったところです」
苦笑しながらアスリーフさんに報告する。依頼を無事……というより、言葉通り、なんとか完遂して数日後のことだ。
「まぁ、そうだろうね。あいつらは、意外としぶといし」
犬頭鬼の方がアルとしては楽だったと思うよ。そう彼は続けた。今日もだが、時々、剣の稽古をつけてもらっているので、彼はボクの攻撃が軽いのを知っている。当てること自体は、そこそこ上達してきてはいるが、深手を負わせられるかといえば、答えは否だ。腕前が上がれば、多少は変わるのだろうが、現時点では武器の重さ(や種類)に頼る以外に威力を上げる方法はなく、ボクが扱える武器では、どだい無理な話なのである。結果、一匹の狼を屠るまでに、こちらも相当の反撃を被り、結局、駆逐しきる頃には満身創痍という有様だったのだ。
「それで? なんとなく予想はつくけど、その後どうしたのさ? その、カウルだっけ?」
「ええ。彼は、まぁ……元の仲間のところに戻るそうで……」
やっぱりね、と言ってアスリーフさんは笑った。それは、依頼を受ける時点でボクにも予想できてたことだったけど。
村へ向かう間……いや、実際に狼たちと戦うまでの間、彼は陽気で、新しい仲間と冒険する喜びに満ち溢れているかのようだった。喧嘩別れした仲間を思い出さないように無理に明るくしていたという面もあるだろうが、ことあるごとに話しかけてきたのである。
戦闘は自分の役目だ。
大船に乗った気で任せてくれ。
信頼関係が何より重要だから、自分の戦士としての腕を信用してくれ。
そういった類のことを繰り返し、繰り返し言っていた。正直、相槌を打ちながらもボクは彼の言に否定的だった。信頼関係云々は同意だが、これは自分の役目。あれは誰々の役目。そう性急に定義づけしてしまうことには同意できなかったのだ。
足りない部分を補い合う。自分の得意分野で周りに貢献する。そういった考えは間違っていないと思う。熟練者の邪魔をしないように配慮するというのもボクのような駆け出しにとっては、必要な考えかもしれない。けれど、そういった考えは自分の出来ることを精一杯やるという前提での話だろうし、周囲の精一杯を疑わない信頼関係の中で成立することだろう。一朝一夕の間柄でしかないボクらの間にそんな信頼関係は、あるはずも無い。そういう関係が手軽に作れないからこそ仲間は貴重なのだ。それなのに……。
「だけど、本当に戻れるのかね〜?」
「さぁ、どうでしょうね。難しいかもしれませんけど、どうにかするんじゃないですか?」
それは、もう、ボクの知ったことではない。おそらくカウルは、今回の仕事の顛末を梃子に仲間達に許しを請うだろう。
狼たちと出くわした時に野伏でもある盗賊の警告があれば……。
予想以上に数の多かった狼たちに魔術師が【眠りの雲】をかけてくれいてたら……。
囲まれそうになった時にいつも背中を守ってくれる盗賊がいれば……。
受けた傷を癒してくれる神官の奇跡があれば……。
不手際だらけで役に立たない駆け出しの冒険者と組んでみて、
失ってみて初めて気がついた。
そう言って自分の考え方が間違っていたと、改心したと、周囲に伝えるだろう。それを容れるかどうかは、それこそ、彼らの信頼関係次第だ。実際、彼が話すであろうことは、事実でしかないのだから、ボクはボクで、彼らの行く末を追いかけたり、損な役回りだったと思って忘れたりせず、もっともっと精進しなければ。
※ ※ ※ ※
結局のところ、喧嘩の現場でボクが思ったことがなんだったのか。それが判ったのは、こうしてアスリーフさんと話している時だったかもしれない。
(それに…見るに耐えない)
それが、正直な感想だったのだろう。
一緒に冒険に出る仲間がいるくせにという多少僻みまじりのところも無いではなかっただろうが、それでなくても仲間が疑い合う場面なんか見たくないのだ。
意見の食い違いや価値観の違いによる衝突は仕方ないとしても(無いに越したことは無いけど)、生死を共にするかもしれない相手を疑うなんて言語道断。
それが、ボクの信条である。
なぜなら、仲間ほど得難く、貴重なものはないのだから。
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枝鳩
さんの感想
(2006/3/12 23:10:11)[4]
うゆまさんのEPからのつなげ方やアルの専業の冒険者ではない感じの語り口が印象的でした。
冒険者としてはややスタートが遅めの彼ですが、それだからこそのものの見方ができてるな、と思いました。
琴美
さんの感想
(2006/2/24 0:11:00)[3]
アルの語り口にはやはりどこかしら詩人らしさを感じます。客観性ゆえなのか、天賦のものなのか……。
彼の飲み込んだ言葉の数々を、聞き出してみたいものです。
深海魚
さんの感想
(2006/2/23 21:24:43)[2]
うゆまさんのEPとリンクしているのは「やるな」と思いました。
仲間と喧嘩した戦士を見る目のあたり、アルは大人だなあと感じました。
アルと組んだ事で戦士君は成長したでしょう(笑)
うゆま
さんの感想
(2006/2/23 0:32:35)[1]
随分と遅れてしまいましたが、ようやく感想をば・・・。
まさかこうなっていくとはっ!!
ネタ振りになったようで嬉しく思いますが・・・くそう、何だか悔しいよぅ(笑)けどHGJ(ハードにグッドジョブの意?)ですよ、U-1さん。
仲間と言うものの貴重さと得難さ。
アル氏の体験を通して語られたと思います。
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