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題名
【競作企画】Fellow feeling
登場人物
ダーティン他
投稿者
Ken-K
投稿日時
2006/2/01 18:34:28
冒険者の渡世は太く短く、という意味合いの文句がある。別にそのように生きなくてはならないというわけじゃない。明日も知れぬ生活なのだから、生きている間にできるだけ華やかな生き様を晒しておこうじゃないかという、刹那的なスローガンなのだ。
穴熊と呼ばれ、自らもそのように名乗る遺跡荒らしの探検家、その中でもこのパダに集まる連中には、とりわけ生き急ぐ傾向が強い。そして、それだけが理由というわけでもないのだろうが、気短な奴が多いように思う。
今、俺の目の前で、舌戦を展開しているラモルウッドとリドリーも、どちらかといえば短気な方だわな。
リドリーはまだ抑えているが、ラモルウッドは限界が近い。そろそろキレる頃合だ。
「もう一度いうぞ。六人じゃ厳しい。俺たちだけでは、絶対に抜けない。だが手数を増やせば最後まで辿り着けるんだ」
「だからといって、連中と組む必要はねえだろうが。探せば他に幾らでも当てはあるぜ」
リドリーとラモルウッドが卓上で睨み合う。二人の間には張り詰めた空気が生まれ、今にも火花が爆ぜそうだ。ラモルの背後で食事をしていたグラスランナーの二人組が、そそくさと立ち上がる。
パダに数ある「冒険者の店」の中でも老舗の「五剣亭」の中だ。俺たちは店の隅に陣取り、次の仕事の打ち合わせついでの会食をしている最中なのだが、リドリーとラモルウッドの意見が噛み合わず、険呑な空気が漂い始めていた。リドリーが助っ人を頼んだ連中の中に、ラモルウッドと不仲な奴がいたのが、その原因だ。
二人以外の面々、つまり俺を含めた四人はというと、そんな間近の紛争危機をまったく意に介さず、それぞれ好きなことをやっている。俺とキャロモはカード勝負に興じ、ウェシリンは火酒を傾け、モイットレムは木彫の人形を磨いている。この木像がまたいかがわしい雰囲気の代物なんだが、今はさて置く。
「剣が二振りに、薬一瓶だ。合わせて三人くらい、なんの造作もねえ。今すぐ声をかけようじゃねえか」
「時間が勿体無い。俺たちと釣り合う奴らをかき集めて、それから取り分の交渉に日程の調整だ。そんなことしてたら年が暮れちまうぞ。悪くすりゃ先を越されることだってある。ベレグとはほぼ話がまとまってるんだ。こっちにいい条件でな」
カード三番勝負は二勝一敗でキャロモに軍配が上がり、金貨は奴の財布に収まった。金が絡んだ勝負になると、どうも俺は弱くていけない。ウェシリンの前に置かれた火酒の壷は、もう半分は空いているだろう。モイットレムは木像に鴉の羽をつけている。背の部分に羽を差し込む穴があいているらしい。
「どうしても奴らが必要なのかよ」
「今の状況じゃ、それが最適ということだ。いい加減に聞き分けろ」
俺とキャロモはチェスを始めることにした。俺が黒軍、キャロモが白軍だ。ウェシリンは手付かずになっているリドリーのワインに火酒を混ぜると一息にそれを煽った。モイットレムは木像を掌に乗せると恭しく頭を下げ、木像を乗せた手を左右に振りながら何事か呟き始めた。羽がすっぽ抜けてリドリーのスープ皿に落ちる。
「けっ、勝手にしやがれ」
「おい待て、ラモル」
帰ろうとするラモルウッドの肩をリドリーが掴んだ。ラモルウッドはリドリーの手を払い、こちらを振り返ることなく、店から出て行った。
「あの分からず屋め」
舌打ちして座り直したリドリーは、飲もうとしたワインが空になっていることに気付いた。リドリーの眉間に皺が寄る。
一つ深呼吸をしたリドリーがスープ皿を見ると、真中に黒い羽が浮いていた。リドリーのこめかみに震えが走った。
「なあ、リド。この局面なんだが、司教と騎士、お前ならどっちを討つよ」
いいながらリドリーを見たキャロモの横面を鉄拳が掠めた。
「お前らもいい加減にしろよっ」
リドリーが拳を卓に叩きつけた。チェス勝負は黒白両軍とも倒れて全滅、火酒の壷は卓から転げ落ち、モイットレムの手から木像が飛び出した。
「リドがキレたな。俺の勝ち」
席を蹴って立ち去ったリドリーの背中を見ながら、キャロモが俺に手を差し出す。
金が絡んだ勝負になると、どうも俺は弱くていけない。
二人減った卓で、俺とキャロモは対局を仕切り直す。ウェシリンは椅子に凭れ、卓の上に足を投げ出して、黙って目を閉じている。眠っているように見えるが、頭の中は冴えているのだろう。モイットレムは混雑した店の中から木像を見つけ出してきて、熱心に磨き直している。
「ダーティンよ」
「ん」
「ラモルが今度の仕事を降りたら、リドの計算が狂うわな」
「俺たち六人を前提にしてるからな。ラモルに代わる前衛を探すのは手間がかかるぞ」
「ベレグとラモルが、何が原因でこじれてるのかは知らんが、先方はあまり気にしてないと思うぜ」
「リドとラモルが組んでるのを知ってて誘いに応じてるんだからな。手打ちに持っていけるんじゃないか」
「しょうがねえなあ。一つ骨を折るか」
キャロモがほろ苦く笑う横でウェシリンが目を開いた。
「僕はリドに声をかけておこう。つまらないことで臍を曲げるなってさ。そのベレグという奴の件よりは簡単だ」
いうなり、すっと立ち上がって帰り支度を始める。先ほどの深酒は何程のものでもないらしい。
「そっちは巧くやりなよ。じゃあ、お先に」
ウェシリンの子どものように小さい後姿が人込みの彼方に消えるのを見送ってから、俺とキャロモは顔を見合わせて笑った。
「俺はラモルを捕まえとくわ。お前さんはベレグへの繋ぎを頼む」
「K、ミスター・キャロモ」
「モイット、お前はここで待っててくれや。ラモルが戻ってくるかもしれんしな」
木像を掲げて再び祈祷めいたことを始めたモイットレムを置いて、俺たちは席を立った。
冒険者の渡世は太く短くという。
だが、明日も知れぬ生活だからこそ、大事にしたいものもある。
そういうことさ。
■ あとがき ■
今はなき「斧と槍亭」のキャラクターたちを使って書いてみました。
各キャラクターのPLは以下の通りです(敬称略)
リドリー:MASASHIGE
ウェシリン:戌亥隆
キャロモ:赤鴉
モイットレム:樽野
ダーティン:Ken-K
ラモルウッド:「斧と槍亭」管理者共有
なお、作中では明記していませんが、ラモルウッドが引退する以前の出来事ですので、時代設定は512年以前としています(それ以上の細かい設定はありません)
また作中でラモルが”剣が二振りに、薬一瓶”と発言している箇所ですが、ここで用いられている剣、薬はそれぞれ戦士、癒し手(多くは神官)を指す用語のようなものです(「斧と槍亭」で言葉遊びの一つとして用いられていました)よって”剣が二振りに、薬一瓶”は、”戦士が二人に、癒し手が一人”というほどの意味になります。
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琴美
さんの感想
(2006/2/24 0:13:59)[5]
喧嘩になるのも、取りなすのも仲間ゆえ。
思い切りぶつかり合う緊迫感は、信頼のひとつの形でもある。良いなぁ……
深海魚
さんの感想
(2006/2/23 21:31:06)[4]
いや、良いですねー。
2人の言い合いを聞いていないようで聞いていると言う・・・此処サイコー。
何が悔しいって、今のまに亭には此処まで信頼で結ばれたパーティは居ないって所です(コンビは別ですよ)
うゆま
さんの感想
(2006/2/23 0:40:56)[3]
なんといいますか・・・雰囲気が凄いです。
まさに冒険者。
そして仲間。
互いを知るからこそ語られる重みある言葉。
劇画チックな挿絵が思い浮かんだのは気のせいでしょうか?
まつかわ
さんの感想
(2006/2/09 23:20:17)[2]
ちょっとうらやまぴ(笑)
なんかいいね。
自分のが書き終わったのであらためて感想を……と思ったんだけど、うまく言葉に出来ませんでした。
樽野
さんの感想
(2006/2/04 0:47:27)[1]
おぉ。このくつろいだ雰囲気。慣れて緩んで、勝手にやってる日常の空気。
あらたまって言葉にするようなものでもなく。いいですなぁ。
何も、肩を組んで賑やかにすることだけが友情ではないんですね。
モイットレムのPLとしては、最後のたぶんキャロモの台詞がたいへん味わい深かったりします。
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