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題名
ザンテの眼窩
登場人物
カイン、ジッカ、テケレッツ、レツ
投稿者
赤鴉
投稿日時
2006/3/06 22:46:25
手だれの情報屋"三文"フィドラーより巨大遺跡群墜ちた都市の一角"ザンテの眼窩"と呼ばれる尋常ならざるクレーターと、そこより続く巨大回廊より発見された新たな通路の話しを聞いたカイン、レツ、ジッカ等三人の穴熊達。魔法もこなす元一匹狼の遺跡潜りカインは学院で、古株の遺跡潜りジッカは割高だが情報の詳細さと確実性で定評のある"風上の"ネイより、今までの発見された情報、及び未だ発見されていないと目される通路の情報を集めた。巨漢の戦士レツは荷物の整理と調達、そして必要になるだろうと思えた神の奇跡を備えた司祭をこの冒険に誘った。
準備を整えた一行はザンテの眼窩へといざ赴く。数々の冒険者の命を奪った魔窟は、先達の犠牲と努力により、魔法の仕掛け、物理的な罠の多くは壊れていた。そして、新たな通路へと入った彼らは幾度もの危機を乗り越え、さらに奥深くへと向かって行った。
手元から放たれる仄かな光を除いては、食われるような闇に覆われた遺跡の中を四人の男達がゆっくりと歩いていた。
「カイン、Bブロック左だ。道幅は…ざっと4ヤードだな。そろそろなんじゃないのか」
先頭の提灯を持った男が、最後尾を歩く男に声を掛ける。
「いや、そこは違う。図面にはあるが何があるか分からん。次の左折だ。」
見えるかどうかも難しい明かりの中で、目を凝らしながらカインと呼ばれた男は羊皮紙を眺め答える。
「なんだ、おいカイン、ビビッてるのか。いいじゃねぇか、どうせその内そっちも調べるんだろ。なぁ、ジッカ、左側いっちまおうぜ」
ジッカと呼ばれた先頭の男のすぐ後ろを、鎚を構えて歩いていた巨漢がガハハと笑い飛ばす。
「馬鹿野郎、レツ。そんじょそこらならともかく、今回は微塵の油断もできないんだよ。とにかく、まずははっきりとした目的を優先させるぞ」
だが、すぐにカインが叱咤する。レツは体を縮めて押し黙った。
「まぁまぁ、皆さん。そう、ピリピリなさらずに。どうでしょう、そろそろ食事でもなさいませんか。きっとお腹が減っているから怒りっぽくなっているのでしょう」
にこやかに微笑みながら、真ん中を歩いていたチャ・ザの聖印を持った男が声を上げた。声には恐怖も緊張も無い。逆に嬉しそうですらあった。そして他のものが反応する前に立ち止まり、背嚢から乾し肉を取り出す。
「おい、こっちの話は聞かずにかよ。ったく、相変わらずマイペースだな。この糞神官」
「有難う御座います」
微笑み返すチャ・ザ神官。
「ジッカ、相手にするな。テケレッツのペースに巻き込まれたら、また金ふんだくられる事になるぞ」
「有難う御座います」
微笑み返すテケレッツと呼ばれた男。
「ガハハ、いいじゃねぇか。なぁ、テケレッツの旦那。俺も飯食うぜ」
「有難う御座います」
テケレッツが突然立ち止まり、食事を始めたため、やむを得ず全員そこで食事を始めた。奇襲に反応できるよう、奥にはレツが右膝に鎚を立て他に背を向け食事を始める。
カインとジッカの苛立ちは絶頂に達しようとしていた。すでに幾度かの危機による怪我はチャ・ザ神官テケレッツの手によって、驚くほど綺麗に癒されていた。だが、同時に彼は神殿で要求するものと同じ額を要求してくる。一体何の為の仲間なのだろうか、とさえ思うがこの男がそのような男であるという事は幾度かの冒険を共にしていた以上、承知していた事であった。なにしろ、貴重な冒険に出てくれる神官なのだ。例えマイペースで、馬耳東風で、厚顔無恥で、金に汚くとも命を買う為だと思えば、拳を握り締めるだけで我慢できるというものだろう。
軽い食事を済ませた後、四人はゆっくりと先へ進んでいった。カインの調べてきた書物を信じるのであれば、目的の場所はもう少しだと言ってもいい。ただし、未踏の地には常に危険が付きまとう。例え10フィート先に目標があろうとも油断できるものでは無いのだ。まして幻術師ザンテの残したこの回廊は、目で見たもの全てを信じられるという事は無い。常に肌、耳にも注意を配って動かねばならない。神経の磨り減るような歩みで進んでいると、不意に先頭のジッカが止まる。
「どうしたジッカ」
レツが不思議そうに尋ねる、見た所特に何も無い。ただ、今まで通りの廊下が広がっているだけであった。
「罠か」とカインが尋ねる。
無言で腰の袋から砂を取り出したジッカは床にばら撒き始めた。すると正面の方で、どう見ても床があるようにしか思えない空間のあちこちでパラパラと砂が通り抜けて落ちて行く。
「幻術の定番だ。今までなかったのが不思議なくらいだぜ」
笑いながらジッカは砂の被っている床の上を飛び歩き進んで行く。
すると慌ててレツがジッカの腕を引き戻した。態勢を崩し、驚きながら床に手を付くとレツに文句を言い出そうとするが、レツがジッカの飛び越えようとした砂の被っていない床の上の空間に、小石を投げるとキンッと耳に心地よい音を立てて跳ね返った。見えない壁かなにかがあったらしい。後ろへ砂が通っている事を考えると鋭利な刃が置いてあるのかもしれない。
「ジッカ、油断大敵だぜ。こりゃ俺に一杯奢らねぇとな」
カラカラと笑いながら手柄を誇るレツ。
「全くですよジッカさん。ついでに私にも一杯奢って下さるときっとチャ・ザ神はお喜びになります」
「テケレッツの戯言はどうでもいいとしても、レツが気付いたってのは俺も驚きだな。ジッカ、素直に感謝しとけよ」
「おや、戯言とは。ですがこの扱いも神の試練。皆さんがじっくりと心を開いて下さる事を私は」
「うるせぇテケレッツ、おめぇは黙れ。まぁ、レツよ。今回は感謝しとくぜ。だが、いつもは俺がおめぇを助けてやってるってぇ事を忘れんなよ! 」
「ガハハ、素直に有難う御座いますって言っとけジッカ。大人げねぇぞ」
そして四人は腰の獲物を前に翳しながら再びゆっくりと進んでいった。
巨大回廊を抜けると光が射し込める。その光へ足を踏み出すと、4人は再びクレーター地上部に抜けた。
「おい、こいつはどういう事だ?結局スカってか」
ジッカとレツが辺りを見渡しながら失望の混じった顔で呟く。本来ならばこの先にはもう一つの通路があるはずなのだ。
「いやぁ、残念でございましたねえ。まったくもって無駄骨、まさに徒労。あなた方の努力も報われず、これまさに悲劇。私思いますに、これも貴方がたがチャ・ザ神殿に入信していないせいだと思うのですよ。さぁ、これに懲りたらレッツ入信♪」
「うるせぇぞテケレッツ!てめぇはちゃっかり俺らから治療費ふんだくってんじゃねぇか糞ったれめ!」
微笑みを絶やさずふざけた事を言うチャ・ザ神官にジッカも切れた。レツも止める気配はない。カインはというと、考え込んでいた。
「ジッカ、少し静かにしてくれ。ちょっとここは可笑しくないか?」
そういって耳をすます仕種でカインは辺りを歩き回った。ジッカもテケレッツを殴る手を止め、周囲に注意を払う。
「どうした、一体何が変なんだカイン?」
今までの収穫の整理をやっていたレツが問う。カインはそれに応えず地面を触りながら空を見上げた。
「……そういう事か!ッカ〜、一杯食わされたぜ!」
カインのその様子を見ていたジッカが叫ぶ。カインもそれにニヤリと笑みを返した。
「おいおい、いったいどうしたってんだおめぇら。赤字だったんで気でも違いやがったのか?なんかわかったってんなら俺にもわかるように説明してくれや」
「へっへ、レツよぉ。上はこんな良い天気なのによ。なんか寒くねぇ?地面はどうだ?触ってみろよ」
ニヤニヤしながら言うジッカに応えてレツは地面を触ってみる。その地面は恐ろしく冷ややかだった。そしてそう言われれば確かに肌寒い。まるで迷宮内にいるかのようだ。
「おお、成る程。これも幻覚なのですね。いやぁ、チャ・ザ神。このような加護を与えて下さるとは。これも、私の日ごろの信心ゆえでしょうか。さぁ、皆さん、神に感謝、感謝♪」
ジッカの振り上げた拳はそろそろ誰も止めなかった。
To be continued ?
■ あとがき ■
競作企画のお題からはもう外れているようなので、普通に投稿という事で。
続くかどうかはさっぱりわかりません。
この作品の感想をお寄せください
うゆま
さんの感想
(2006/4/15 1:50:00)[4]
微妙なバランスの上で成り立つパーティ御一行。続きが気になるのは言うまでもありません。
結末や如何に!?
琴美
さんの感想
(2006/3/19 22:06:05)[3]
遺跡探索の緊張感と、仲間同士の関係に魅せられます。テケレッツには感嘆です。
私も続編を希望いたしまする。
樽野
さんの感想
(2006/3/12 5:33:38)[2]
やはりこのトリオは良いですな。テケレッツの存在感も光ります。
抑制の効いた文章が味わい深いと思いました。
これだけでもいいですが、出来れば続きもお願いしたい所ですね。
松川
さんの感想
(2006/3/08 22:50:08)[1]
テケレッツから目が離せません(笑)。
是非続きを希望いたしたく!
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