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題名
【競作企画】祝福の膏油
登場人物
ブーレイ、スウェン
投稿者
琴美
投稿日時
2006/3/18 23:20:22
王都オラン。大陸有数の大都市であり、古代王国時代の遺跡を背後にする街。
東方の要として、日常生活品から貴重な文物まであまたの品が溢れかえる。
たとえば古代王国に由来する品も、流通量や質による制限こそあれど、入手もさほど困難ではない。ただそれが魔法の品となると、やはり価格は跳ね上がる。
魔法の品が持ち主に与えるのは、さまざまな力。
それが己に不釣合いなものであっても、求めるものは後を絶たない。
王都の片隅で、黒髪の少女が荷をまとめながら考え込んでいる。もうすぐ初めての遺跡探索に挑む予定の彼女の名はスウェン。貧乏な駆け出しの「鍵」である。
彼女の穴熊としての目標は、形見屋と呼ばれる男を超えることなのだが、その最初のステップを踏むに当たり、やはり不安は尽きず、どこか落ち着きをなくしている自分に苛立っていた。
こんな状態で、仕事をこなせるのだろうかと思うなんて、軟弱にもほどがある。
そう自分を叱咤激励していたときだった。目の前に置かれた仕事道具の一つに目が留まり、表情が揺らぐ。脳裏に浮かぶのは、自分の目標とするその男の顔。ピック一つを自在に、魔術のように扱うであろうその指先。
「悔しいけど、やっぱ、あれしかないかな」
しばし悩んだ末、そう呟くと、彼女は目の前の道具を取り上げて隠しに収め、自宅を飛び出した。
* * * * * * * *
とある木造の酒場にて。
「おいコラ、人の後ろに立つんじゃねえ。色ボケ中年半妖精んとこの下っ端」
「あ、ばれた? へへ、やっぱり判るか。よいしょっと、隣座るよ」
「同意する前に座ってやがるし……まあいい、そういやテメエ遺跡に行くんだって?」
「さっすがー、それも知ってるなんて”形見屋”の兄さんは耳が早いっすねー」
「褒めてもそのエールは奢りにならねぇぞ。腸詰もやらん」
「けっちー、茹でたてなんだし一本くらいいいじゃないすか。 ま、それはさておき」
「茹でたてと奢りには関係が全然ねぇぞ! 勝手に摘むな! んで、何だ。改まった顔して。お前が死んだときの形見探しでも頼みたいのか?」
「うはっ、きっつい新人シゴキか愛のムチってヤツっすか? 残念ながらアタシはそれを頼む気なんざさらさらねぇっすよ。大体んな気でいるなら最初から行かないし」
「それは道理だな。で? ……や、やめろ、恥らうなっ、気色悪ぃっ!」
「すげー、ツルッパゲでも微妙に鳥肌立ってるっぽい。おもしれー」
「ハゲじゃねぇ、ヘアスタイルだ! で? 何なんだ一体!」
「んー? んとね、ちょっとさ。あたしの中に照れくささとか、ためらいがあるんだよね。だからそのまま動かないでほしいんだけど」
「また背後に回りやがる。あー、もう好きにしやがれ」
「んじゃ、ありがたく。せーの」
ぺち。ごりごり。
「冷てっ、テメェ何しやがった!?」
「よし、ばっちり頭のアブラがくっついた。きっちり磨けば魔法の鏡っぽくなるかな。
いやさー、付与魔術ってのがあるんだろ? 魔法の道具作ったりするやつ。アンタの頭のアブラくっつけて磨いたら、この古い手鏡も遺跡でばっちり役立つんじゃないかってね……おあ、血管切れそうだよ兄さん」
「てめえの理屈は判んねぇぞこのクソガキ! 人の頭に鏡を擦り付けといて何言ってやがるっ」
「ふふ……言ってみればさ。『アンタの力と強運と輝きを、分けてくれよな』ってこと。じゃあねっ」
「……………………言うに事欠いて何を口走ってやがるんだあいつは! そこ! 笑うんじゃねぇっ。
……あいつがまた来たら言っとけ。お前の形見なんぞ拾いに行くのは御免だ。何が哀しくて自分の油のついた鏡拾いに行かなきゃならん、ってな。てか輝きってなんだコラ」
* * * * * * * *
目標とする相手の力を借りたふがいなさは、いずれ追い抜くことで払拭する。
借りが増えれば増えるほど、返すものも倍加する。でもそういうプレッシャーなら、きっと負けはしない。
悔しさすらも道具にして、走り抜けられる。
木造の酒場からの帰り道。
懐にしまった自作の「魔法の鏡」を服の上から押さえながら、スウェンは挑むような笑みを浮かべた。
そして、口説き文句のレパートリーを無尽蔵に持っている上司に付き従っていて良かったと、生まれて初めて思ったのだった。
■ あとがき ■
スキンヘッドでも鳥肌は立つらしいです。ビバ立毛筋。
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うゆま
さんの感想
(2006/4/15 1:41:04)[2]
うぬ、なんだかいいですなぁ・・・羨ましい関係って感じです。
しかし・・・魔法のアイテムに本当になりそうで不思議。
松川
さんの感想
(2006/3/26 23:31:52)[1]
立毛筋の謎が解けました。
上司PLとしては、最後の一文に多少の引っかかりをおぼえるのですが、まぁそれはまた今度じっくり、ということで。ふふ。
御利益のありそうな、自作マジックアイテムですね。それでスウェンがうまいことやって無事に帰ってくると、ブーレイのもとには盗賊たちが殺到しそうです。……お肌の輝きを保つ化粧水でもプレゼントしましょうか。
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