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題名
【競作企画】蝙蝠は獣と鳥に悩まされる
登場人物
ワーレンと関係者
投稿者
うゆま
投稿日時
2006/4/15 0:19:18
人間、『ついてない時』というのが、あるもんで…。
どこぞの役者の三文芝居がかった台詞か。
或いは儲け損なった商人の捨て台詞か。
または間抜けな泥棒をとっ捕まえた時に聞いた言葉だったか。
いや、そんなことはどうでもいい。
人に限らず命あるもの、幸運と不幸の天秤に常に晒され続ける運命にある。
何が幸運で不幸かはそれぞれとしてではある、が。
俺としては『ついていない時』など日々日常のこと。
下手すると人生の”そのもの”だったりするかもしれない、が。
俺はワーレンっていう、ここオランの衛視、だ。
そして同時に盗賊もやっている。
犯罪を取り締まる仕事をしているのに犯罪を働く泥棒稼業。
相反するものにも関わらずだ。
しかし、得な事は全くと言っていいほどない。
むしろ双方から疑われ常に監視される。
そんな俺は皮肉もこめて”蝙蝠”って呼ばれている。
獣でもない鳥でもない、どっちつかずの生き物って、な。
ま、だから、いいように双方からこき使われる事で一先ずの信用を得ている。
そうでなければ、とっくの昔に闇に葬られていただろう。
おっと、話がずれた。
そんな俺だから、常に「ついていない時」なんて当たり前。
死ぬまでこんな感じだろうと半ば諦めもある。
まぁ、「常に退屈しない人生」と思えばいいだけ、だ。
で、具体的に「ついていない時」というと。
例えばつい最近のことだ。
事件の捜査も無事に終わり、さぁ明日は休暇だ。
ツレに頼まれていた買い物のリストを確認する。
同僚には「相変わらず尻に敷かれているな」とからかわれる。
うるせぇとてめぇもさっさと相手見つけて尻敷かれ同盟になりやがれと笑う。
そこへ上司のリリエ”第三衛視隊隊長”がにこやかな笑顔でやってくる。
「ワーレン、御苦労様」
「お、リリエ隊長。お疲れさん」
「ええ。それでね、先日の”偽ファリス神官の壷詐欺”の事件の報告書のことだけど」
「ん?昨日全部提出しただろう?今日早く帰るためにって速攻で」
「えーとね、もう一度同じもの急遽書き上げて本部へ持っていてもらえないかしら?」
「は?」
「実はね、手違いで本部の人が報告書処分しちゃったらしいの」
「だったらそいつに責任を」
「それが本部のお偉いさんで衛視隊副隊長補佐代理っていう役職の人らしいの」
「初耳だな、つか、つくっただろその役職」
「やっぱり上の人に文句言うのは今後の昇進も関わるしここはあえて穏便にね」
「聞け。つか、俺を見ろ。明後日の方向を何故向く」
「結論としてはそこはそこで恩を着せる為にもこちら側で何とかしますわ、と言う訳」
「お前さんの野望はどこまで行けば気が済むつぅか」
「私がいなければ貴方だって衛視として働いていけないのではなくて?」
「いや、まぁ事情知っている上で色々世話になっているのは事実だが、それと」
「じゃ、よろしくねー。」
「おぃ待て帰るのか、つかよろしくねーじゃないっ!」
「今日中に提出できなかったら明日の休暇無しね」
「それはマズイ!リテとの約束が、破ったらまた何されるか!」
「可愛い奥様の為にも、綺麗な上司の私の為にも、じゃ、頑張ってね☆」
固まる俺の肩を同僚がぽんと叩いて帰っていく。
死ぬ気で、記憶の全てをフル稼働し真夜中直前まで書き上げた。
こういうときに盗賊で培った記憶術が役に立つのが微妙に悲しい。
さて、この日はこれでお終い、とはいかない。
まだまだ「ついていない時」というのは続くものなのだ。
「おーかーえーりー、ワーちゃーん」
本部詰め所の宿直に報告書を渡した頃には真夜中をとうに過ぎていた。
そして疲労困憊の俺を待っていたのはツレのリテだ。
図体の俺には釣り合わない小柄な身体つきで幼さの残る顔つき。
実際は俺と同じぐらい歳をとっているはず…だが言ってはいけない。
はっきりいって俺にとって頭の上がらない相手なのだ。
そんな彼女が家の扉の前で仁王立ちして待ち構えていた。
はたから見れば怒り仁王立ちする姿も可愛いだろう。
だが俺にはその後ろに”食人鬼”オーガーすら恐れる巨大な気配が見える。
「こんな時間まで何してたのかしら?夕食作って待っていたのに」(にこり)
「ま、待て!悪いのは俺だが、これには理由があって」
「理由?」
「上司に突然仕事を押し付けられて急遽仕上げなくてはならず…」
「うんうん、それで?」
「できるだけ早く仕上げようと努力してようやく今しがた終わったところだったんだ」
「そうだったの。てっきり、明日休暇だから翼でも広げてきたのかと思った」
「すまない!だが、衛視の仕事をくびになる訳にはいかず…すまない」
「分かったわ、ワーちゃん。それは仕方ない理由ね」
「許してくれるのか…」
「ええ。ところでワーちゃん」(にっこり)
「ん?」
「見たところ手ぶらのようだけど」
「え?」
「まさか忘れたのかしら?」
「は?」
「今朝頼んでおいた買い物」
「あ」
「忘れたのね」
「い、いや、その、ほら、もう真夜中だから買い物しようにも店が、その」
「…問答無用ーッ!!」
「た、タスケテー!!」
その夜、月の下で惨劇について語る事は思い出すのも嫌なので割愛。
そう、悪いことは続くもの。
例えば雨が降れば川が増水する如く。
ん?あぁ、「ついていない時」って話だった、な。
さて…ここからが本題、だ。
ここはどこだか分かっているよな?
そう、衛視詰所の取調室だよな?
なんで捕まったか分かっているよな?
そんでわざわざ俺が今の話をしたか分かるよな?
元役者で商売に失敗して最後は慣れない事して失敗した間抜けな泥棒さん、よ?
俺は今日こそ早く帰ってツレから頼まれた買い物をしなきゃならない。
しかも明日の休暇は絶対に守らなければならない。
そんな時にドジして捕まったあんたの為に余計な仕事をしなきゃならなくなった。
言いたい事は分かってくれるよな…俺はまたも「ついていない」って事、だ。
それで機嫌の悪い俺が取り調べ担当になって「ついていない」な、あんた。
ま、お互い「ついていない時」ってあるもんだよなぁ…?
【終わる?】
■ あとがき ■
「ついていない時」ってのは本当にあるもんですねぇ。
いえ、実際に最近ついていない時というのを実感しまして。
ただワーレンのような目にあった訳ではないですヨ?
まぁ、ワーレンらしい「ついていない」ってこんなもんかと。
であであ。
この作品の感想をお寄せください
琴美
さんの感想
(2006/5/08 23:25:39)[2]
リテに見捨てられてない(それは死を意味するはずだけど)ことだし、まだどん底じゃないなぁとか、「ついてない」程度ならワーレンらしくて良いなとか、考えてしまった自分が怖い。今後も活躍に期待します。
松川
さんの感想
(2006/4/17 0:32:57)[1]
っていうか、ワーちゃんはいつでも「ついてない」ような気がするんですが、キノセイでしょうか。
そんなワーレンに合掌(しつつ、今度ワーレンを困らせてみようかと企んでいることは秘密)。
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