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題名 【競作企画】オランの風
登場人物 クヴェル(NPC)、キア、ユーニス、ロビン
投稿者 高迫
投稿日時 2006/8/06 2:01:38


 アタシは空を仰ぎ見た。前に来た時と比べると日差しが強く刺さるように暑い……当たり前の話だ。前に来たときは1の月だった。もう8の月、夏なのだから。
 街の中も騒がしい、それもそのはずだ、今は丁度チャ・ザ大祭の真っ只中。本当はまだ先にするつもりだったのだが、チャ・ザ大祭には興味があったから、よしとしよう。
 何よりも祭りというものには心踊るモノがある、アタシはそう思う。妹も深く頷いていた。だからこそ予定を繰り上げてこの街に来る事にしたのだ。

 そう、アタシは今、いつもいるロマールの地を離れオランにいる。

 「ねーちゃーん!」
 普段は一緒にいなくても聞きなれた声というものはソンザイする。聞きなれたような気がしているだけなのかもしれないが、昔はよく聞いていた声なので聞きなれているのだろう、多分、きっと。
 難しく考えると頭が混乱してきそうなのでこの辺でやめておいて、アタシは声の主のほうを振り向いた。
 アタシと同じ茶色い髪に、アタシと同じ碧色の瞳。小さいのは種族的な問題なのでおいておく。アタシと違いもともと括る事を目的として伸ばしてはいない、ほったらかしにしてたら伸びてしまいました、という長さの髪を無理矢理括って、笑顔でヒトの足の合間を縫うように走ってくる。今年はまだ髪を切ってないのか……。

 「クヴェルねーちゃん!」
 それはアタシの前にたどり着くと、笑顔で改めてアタシを呼んだ。

 「久しぶりだな、キア」
 アタシは頷いて、妹の名を呼んだ。


 久々にあって積もる話をしながら、祭りで賑わうオランの街を歩く。とはいえ屋台なども立ち並ぶ中だ、時々買い食いしたり屋台に止まって覗き込んだり思わず目を奪うような個性的なモノを見つけてして話が中断してたりしたが、それはとっても仕方がないことなのでよしとしよう。

 早食い大会の場所に差し掛かると、キアに沢山の声がかかった。人気者という感想を抱くには少し無理がある光景だったが、今年は勝てるかとか、まだ受付してないって聞いたぜとか……。

 「よう、チビすけ!今年は出ないのか?」
 その中、ひときわ通る声に揃って振り向く、がっしりとした筋肉質の中年オヤジがそこにいる。

 「よっす、ヴァーベスのおっちゃん……んー、今年はやめとこかなって」
 「なんだなんだ、優勝候補のおめーが出ないと、張り合いがねーだろ」

 二人の会話を聞く限り、どうも揃って常連参加者らしい。大会か、そういえば酒飲み大会とか言う単語も聞こえてきていた。アタシとしては食うよりもそっちのほうがいいが、妹は食道楽だ。姉妹だというのにそこは似ていないとアタシは思っている。ロマールの仲間に言わせれば、十分に似ているから安心しろとのことだったが。

 「今年はねー、ねーちゃんがこっちに来たから、一緒に見てまわろと思ったン。あ、でもいつものぼーがい工作のお菓子はありがたく貰うンよ?」
 「おいおい、出ないのにやっても意味ねぇだろ」
 そんなことを言いながら、結局キアとアタシにハチミツ菓子をくれたわけだが。
 しかし、こんな形で妹が有名(?)になってるなんて、昔のアタシは夢にも思ってなかっただろう。しかし、有名(?)になる事も悪い事でもないから、いいか。

 大食い大会の会場を離れ、剣術大会の会場付近を通ると、キアが「紹介したいヒトがおるンよ!」と手を引いて会場へとアタシを引っ張った。
 アタシとしてはもう少し先でやっているという酒飲み大会に大いに興味があるのだが、紹介したい人というのもそれはそれで気になるので大人しく引っ張られることにする。
 もしかしたらキアもそういう年頃なのかと一瞬思ったが、人といった上にキアだから、まずそんなことはありえないと一瞬で否定。
 そこで一瞬で否定出来るような妹である事は喜ばしい事なのか悲しむべきことなのかも一瞬考えたが、キアの人生はキアのものなのですぐに考える事をやめた。大体アタシがとやかく言って改める様だったら、この変なアクセントが残った共通語も直っていないとおかしいから。
 良くも悪くも、昔から変わってないな、とだけは、思った。

 少しして、女性ながらになかなかしっかりとした身体つきの人間の前にたどり着いた。 

 「ユーニスー!第1試合かったんねー、おめでと!」
 「ありがとうキアちゃん、見てってくれたんだ!あ、でもお姉さんを迎えにいくって言ってなかった?」
 「うみ、見て行っても間に合いそーだったから、見てからいったん」

 あぁ、だから走ってきてたのか、と、ユーニスと妹に呼ばれていた女性を見て先ほどの事を思い返した。そしてすぐに頭を横に振る。別に間に合っても間に合わなくても、あれは走ってくるだろうからな。

 「そだそだ、ねーちゃん、ユーニス、ユーニス、ねーちゃん」
 キア、それは紹介なのか? 振り付けがないとなにが言いたいかさっぱりだぞ?

 「あ、キアさんとお仕事でご一緒しているユーニスと申します。お仕事以外でもとってもお世話になってまして、助かってるんですよー」
 あんな紹介でもちゃんと伝わったらしい。彼女はにこにことヒマワリのよーな笑顔で自己紹介をしてくれた。

 「その場合、むしろ世話になっているのはキアのほうだろう。キアの姉でクヴェルという。いつもありがとだ」
 もちろん、アタシもちゃんと自己紹介をする。後ろでぶーぶー言っている抗議は無視。

 「あの、折角ですし、もっとお話したいと思うんですが、私今大会に出場している最中で、今はまだあんまりここを離れなれないんですけど、あの……でも今年はレナード商会という所ががお祭り限定の蔵出しワインを出すんです、良かったら後でご一緒しませんか?」
 「ねーちゃん酒好きだもんねぃ」
 「それは願ってもない話しだよ。是非……キア、通例の飲み明かしは明日にするぞ」
 「あいあいさーって、明日の夜だったら大会も終わってユーニスも来れるンね!ララも誘っとるん、一緒にど?」
 キアの言葉に、遠慮がちにユーニスがアタシを見る、ちゃんチキ騒ぎは嫌いじゃないのでアタシとしては人が増える事は別に気にする事じゃないから、頷く事にした。
 
 「じゃあ、私もお邪魔しようかな」
 アタシが頷いた事でやっとユーニスも首を縦に振った。キアも嬉しそうなのでなおよしだ。やはり楽しい事はみんなでやるともっと楽しいからな。

 「ところで、2試合目てまだ先?」
 「うん、参加者が多いから、まだ先なんだ、もう対戦相手は決まってるんだけどね」
 ユーニスが視線を向ける方向は、すでに終わった試合の発表の高札を張り出している場所だ。
 二人から離れてその場へ行くと、ユーニスの対戦相手はつい先ほど発表されてたらしい、というより、相手のほうが先に試合が終わっていたようだ。対戦相手の名前は、ロビン。
 
 横脇を見ると、なにやら騒いでいる人間がる。

 「くそ、あの野郎。俺の札で不戦勝なんて、しかもバシリナに決め台詞を言うタイミングまで奪いやがって……その上あんな嘘で俺をはぐらかすとは! あいつとはこの試合場で絶対決着をつけてやる。オレ様の必殺技、ロビン・アタックが唸るぜ!」

 なるほど、あの人間がロビンか……。腕はよさそうに見える、ユーニスも次の試合は大変かもしれない、そんな感想を抱きながら戻ると、一度この場を離れるという話しで、キアとユーニスの間で決まっていたようだ。

 「そか、じゃー先にねーちゃんとちこっと見て回ってくるから、あとでねー」
 「うん、あとでね」

 一礼してくるユーニスに礼を返すと、アタシの隣「あれとねー、これとねー」と並べているキアの言葉を「おい」と声をかけてさえぎった。

 「……にゃ? もしかしてねーちゃん、ユーニス誘うのやだったん?」
 「そんな事はない、というか其処じゃない。お仕事でご一緒って……パーティ組んだのか?」
 「うん、そだよぅ、ユーニスと、ファントーと……ファントーってんはね、ラスにーちゃんの弟子でー……」
 「前に来たときは組んでなかったな?」
 「うみ、あの後だねぃ」

 何も変わらないと思っていたが、これはこれで信頼する仲間を見つけて冒険者としてこの街を拠点にやって言っているのかと思うと、ちょっと時間を感じた。
 もうアタシの後を追いかける子供じゃないんだな。

 「そういえば、キア、お前昔、旅に出るときは世界中を回っておいしいものを食べた言って言ってたな……」
 「うみゅ、今でも思っとるよ」
 「でも、オランからどこかにあまり行こうとしないんだな」
 「うみ、旅に出るのは何時でもできるんけど、オランで出来た仲間と一緒に過ごすのは、今でないとー」

 笑う妹のその顔は、とても今を楽しんでいる顔だ。こうしてオランの風と一緒に走りながら、こいつはこいつのまま思うままにこの街で過ごすんだろう。そして、かけがえのないものを得るのかもしれない。
 その時またこうやって、その先を見に来るのも悪くはない。

 「あ、ヘネカの屋台!ねーちゃんよってこー!ミラルゴ風まんじゅー!ねーちゃんもミラルゴの味が懐かしいっしょ!」
 ……………………まだ子供か………。
 小さく溜息をつくと、先ほど思ったことを自分の中で前言撤回し、アタシは走って行ったキアの背中に声をかけた。

 「キア、アタシは2つ、いや3つだ!」

 まぁ、どう思ったかはどうあれ、美味そうなんだから食いたいのは当然の事だろう?


■ あとがき ■

自分でお題出しておいて、一人は一瞬しか出ていない、という(滅)
まぁ、でも一応出てるので許してくれるとアリガタイデスヨ。

知らない間に成長している妹の姿に時を感じる姉、のつもりだったのですが、揃って馬鹿やってるだけかもしれません、グラランだし(何)


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小町小町さんの感想 (2006/8/20 15:42:28)[3]

いやっ、可愛い……!(くねくね)
キアさんはすごく可愛いんですけど、可愛いだけじゃなくて一本通ったものがあるのですよね。ちゃんと妹のことを考えつつ、自分もちゃっかり乗ってるクヴェルさんも可愛い可愛〜ってくねくねしてました(するな)
松川さんの感想 (2006/8/20 0:52:24)[2]

おねーさんも食いしん坊なんですね?(笑)
なんだかグラランらしく、楽しそうな姉妹です。
琴美さんの感想 (2006/8/13 1:04:14)[1]

愛らしくてしっかり者のキア嬢には拙キャラ達が大変お世話になっておりますが、この作品を読んで改めてその魅力にひきつけられております。温かさや思いやり、賢さがとても自然に表現できる彼女が、これからも着実な成長を重ねてよりステキなグラランになってくれることを切に願います。
お菓子ちゃっかりねだる辺りも憎めなさが滲んでました(笑)
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