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題名
雨の森:あらすじ
登場人物
ソレイユ、リヴァース
投稿者
いりしお丸
投稿日時
2008/11/07 1:58:54
アザーン諸島、ベノール国南部の絶海、雨の島チュバ。100年ほど前に発見され、少数の人間により漁業と銀鉱石の採掘、木材の植林が行われている。その他は深い原生林に覆われている。この島で、近年、漁獲量が激減している問題が発生していた。一方、島の銀鉱山の経営を取り仕切る商会の代表が、老魔術師バラミである。バラミは魚の減少が商会の鉱山が原因ではないかと懸念する。バラミからの依頼を受けて、精霊使いのリヴァースは原因究明のためにチュバ島に赴いた。
リヴァースはチュバ島の漁港にて、恋人の生まれ変わりを探しているエルフ、ソレイユに偶然再会する。彼は魔術師でもある。パロというオウムの使い魔を連れている。
ソレイユと共に銀鉱山に赴く。一見して鉱山の管理は適正であり、付近の生態を乱すようなものではないと見られた。また、銀は生物に害はないので、漁獲量減の原因であるとは考えにくかった。
一方、島では、慈善事業家の学者アウンティが、ユーカリの植林を行っていた。植林は10年以上前に始められ、徐々に規模を大きくし、今では島の四分の一を覆う規模に成長していた。ユーカリは数ヶ月ですくすくと育ち、2,3年の短い期間で成木し、木材となる。ユーカリ木材はベノールから本島に輸出され、貴重な島の産業となっていた。
ソレイユは、ユーカリが、その旺盛な繁殖力と成長力ゆえに、植物の精霊力と地力を極度に消耗する植物であることを指摘した。魚の数の減った原因は、鉱山ではない。ユーカリ植林が島の大地の滋養を奪ったため、陸地の養分が海に流れ込まない。そして海が貧栄養となり、海の小さな生物が激減した。そのために、小さな生物を餌にしていた魚が減じたことによるものだった。
二人は学者アウンティにそれを指摘する。正しいものと信じていた植林事業を否定されたアウンティは、激怒し反発した。
一方、島の裏手には、立ち枯れたユーカリの森の一角があった。ユーカリに地力を吸い尽され、もはやユーカリすら育たなくなったほど疲弊しきった森だった。土は地の精霊力を痩せ細らせ荒野のようになっていた。ただでさえ元々雨の多いチュバ島では、土や養分は水に流され、大地は地力に乏しくなる。このまま植林を放置すれば、いずれ島全体がこのような死の森になると懸念された。
リヴァースはアウンティに、ユーカリ林を焼き、ユーカリが奪った養分を土に戻して、多様な木々を再植林することを提案した。ソレイユもそれに賛同したが、森の守護者であり木々を家族のように親しむエルフであるソレイユにとってそれは辛い選択だった。一方、ユーカリ植林事業主のアウンティは激しく反対した。アウンティは二人を、島の主要な産物であるユーカリを島民から奪い島の生活を破滅させる簒奪者、破壊者であるとして村に告発した。
かくなる上は、ベノールに戻り国に植林破棄の命令をしてもらうべきかと相談する二人。そのためには客観的な資料が必要だ。一方、村長が所有している代々の島の物産記録により、植林面積・木材搬出量の増加と漁獲量の減少の因果関係が、明らかになった。これに対しアウンティは、資料を隠蔽し、ユーカリの地力収奪の証である立ち枯れの森を焼いて証拠の隠滅を図ろうとする。
折からの豪雨により、島の地盤は緩んでいた。土砂崩れが島のあちこちで発生していた。立ち枯れの森を焼こうとそこに向かったアウンティは、途中の谷底で土石流に襲われる。谷に下りたリヴァースは、アウンティの前に地の精霊の壁を立てて土石流を防ぎ、アウンティを救出した。
ユーカリ林が地力の消耗させ、下生えをなくし、地を支える根がなくなり、斜面が崩壊しやすくなった。このため土石流が発生した。この因果をソレイユはアウンティに説く。そして、ソレイユはアウンティに、ユーカリ林を廃棄することを同意させた。
ユーカリ植林は国の補助を受けていた。ために、二人は一度ベノールに説明のために戻り、国からもユーカリ林を焼失させる認可を得る。そしてチュバ島に再度戻った。
ユーカリ林を焼いて、灰を地に戻す。人の都合で植えられた木々が、人の勝手で燃やされる。そのやりきれない哀しみの中で、ソレイユはリヴァースに、この島の本質的な問題を伝える。
チュバ島の森は、聖古老と呼ばれる黄金樹より生み出された古代の森だった。黄金樹は太古種族である世界樹の末裔であり、物質界の森の母たる存在である。この島のエルフに隠蔽された森の深部に、黄金樹は現存していた。この黄金樹は、すでに肉体の寿命を迎え、自らの体を支えるために島の森の生命力を吸い取って生きていた。魔力に満ちた黄金樹の体を支えるため、島の地力と植物の力は著しく疲弊していた。
ソレイユは、リヴァースに聖古老に会うべしと言い、聖古老の元まで案内する。リヴァースは、黄金樹の場所に至る途中、杉を絞め殺して養分を奪って生きる山車や榕樹など、乏しい地力の森で生き物が必死に激しい生存競争を繰り広げる、森の真の姿を見る。
二人は、黄金樹の在所まで来る。そこには、聖古老を護るエルフたちが住んでいる。リヴァースは黄金樹に拝謁し、その記憶に触れた。
黄金樹の名はフロレスタ。彼女は最初、妖精界の統率者の一人として、創造されたばかりの妖精界に生み出された。一方、物質界は、神々の大戦で焼かれ、激しく傷ついた。世界樹の枝から挿し木された古代樹は太古の森を生んだが、その森もまた、太古竜の炎で焼け爛れていた。太古の森を癒し再生させるために、古代樹は、フロレスタを妖精界から物質界に召喚した。フロレスタは一本の杉をかりそめの肉体として選び、物質界を癒すため新たな森を創造した。
やがて物質界も癒え、フロレスタは役目を終えた。しかし、彼女の召喚者はすでに滅び、フロレスタは妖精界に帰れなくなっていた。フロレスタは一本杉の大樹として生きた。魔力に充たされたその身を維持するために、妖精界から紡がれる植物の精霊力を大量に消費し続けた。フロレスタは、隔離された島と共に、緩慢に滅びるつもりだった。
一方、長い年月の中で、島には彼女と彼女の森以外の者が住みはじめた。若い杉や木々、動物、鳥、昆虫、エルフ、そして人間。しかし、彼女はそこにあるだけで、周囲の精霊力を消費し続け、島を消耗させる存在であった。乏しい養分の島で、すでに生き物は、雨の中で熾烈な生存競争を繰り広げていた。フロレスタは速やかな死を望んでいた。そして、島を全く自然のものとし、これまで奪ってきた島の養分を、自らの灰をもって還元することを希っていた。
リヴァースは、フロレスタの体を焼いて地に戻し、魂を妖精界に送還すべきと、結論付けた。ソレイユも聖古老を護るエルフたちも、その結論をすでに承知していた。彼らは知恵ではなく、森の母を焼くという行為を行える外来者を欲していた。聖古老を護るエルフはソレイユに、それができる者を探すことを依頼していたのだった。自分の手を汚すことを嫌い、大樹を焼くという罪悪を他人に行わせようとする独善。ソレイユとエルフの傲慢さをリヴァースは激昂して責めた。
フロレスタはそのリヴァースに妖精界の光景を見せ、妖精界に戻ることはまた故郷に還る歓びであると説いた。妖精界のイメージを見たリヴァースは、フロレスタに、物質界から妖精界に至る方法を尋ねる。そして、物質界に精霊の力を紡ぐ妖精たちが果たす業を自分が行って、ユーカリを焼いた森、さらに過去に焼け落ちた自分の故郷のノミオルの森を、自らの手で回復させたいと願った。フロレスタは願いを聞き、前例は無いが、リヴァースが妖精界に来るのであれば共に試そうと約束した。
ソレイユはフロレスタの樹肌に茶を植えていた。茶は黄金色に輝き茂っていた。それは、フロレスタから人の世に混じるエルフへの贈り物だった。
リヴァースは、フロレスタの内部、腐り落ちた大きな空洞の中に、炎の壁を立てる。フロレスタ自身から落ちた枝や葉を燃料として、炎の壁は燃え上がり、黄金樹の身を焼いた。しかし、炎の下級精霊の力では炎は勢いが弱く、フロレスタを長く苦しめるばかりであった。
ソレイユは、意を決して破壊の炎の古代語魔法を唱え、フロレスタの空洞の炎を爆発させた。ソレイユが一生用いることはないと思っていた破壊の魔法であった。この世界で人間と交わり生きるからには、エルフだけが、自分だけが、手を汚さずに無垢なままででいられることは、もはやありえない。誤ったもの、奪うものを阻止し、次代に本当に必要となるのであれば、忌まれた力を用いることも是とせねばならない。汚れ、痛む覚悟も必要である。その決意故に、ソレイユは破壊の魔法を用いたのだった。
もしも破壊が、破壊したものを補って余りあるその次代の生のためとなるのならば、それは汚れや穢れではなく、陣痛である。そう言い、ソレイユの覚悟にリヴァースは敬意の念を覚えた。
フロレスタは、炎の中でリヴァースに自らの体の一部である「黄金樹の枝」を渡す。そしてこれを持ち、妖精界と物質界の接点があるマエリムの影の森に来れば、妖精界にて約束を果たすと告げた。マエリムの地下の大空洞は、溶岩に呑まれた古代樹の亡骸であると言われていた。
二人とエルフたちは、燃え行くフロレスタを見送りながら、森の再生を切実に願う。そこに精霊語の詠唱が轟く。続いて天を劈くような鳥の声。フロレスタを包む炎が真紅の色に染まる。そして、青白い炎を羽とする巨大な火の鳥が出現した。エルフたちの祈りを汲み取り、フロレスタが自らを焼く炎を用いて、炎の精霊王フェニックスを召還したのだった。再生を司る炎の大鳥は天空を旋回し、フロレスタを巨大な炎に包み、その灰を島の森に降らせた。森に再生と癒しの力を与えて、フェニックスは炎の精霊界に去っていった。
かくして、フロレスタの魂は、本来の住処である妖精界に還った。後には、フロレスタがかつて肉体を預けた姿の一本の杉の樹が残された。聖古老の森のエルフたちは、この杉を友として、後を生きることになる。
ソレイユとリヴァースは、フロレスタのフェニックス召喚の詠唱により、「再生」とは大いなる巨人の「希望の心」であることを知った。
チュバの島の海と森は、命の力を回復した。
ソレイユは、聖古老の森、そして雨の島の森が持っていた哀しさは、世界に普遍的な傷であると悟った。奪わねば生きていけない。それは世界に生きとし者たちがすべて持つ、大きさや形こそ違えど、本質は同じ痛みの傷である。ありとあらゆる生き物は、奪わねば生きていけない。そして奪いすぎぬためのたゆまぬ働きかけが必要である。森のエルフたちにはそのための知恵がある。それを人間とエルフ双方に語ることが役割であると思った。
リヴァースは、ソレイユは、恋人を探すために旅をしているのではなく、旅をする目的とするために恋人を探すことにしているようだと指摘した。ソレイユは、人間にはエルフが見習わなければならない部分が多いと感じている。そして近い将来訪れるであろう、エルフと人間との本当の交わりの時に、その助言者となること、そのためにはより多くの人間に触れることが今の自分に必要なのだと答えた。
ベノールに戻った二人は、農業大臣より呼び出しを受ける。大臣は、彼らの提案したユーカリの火入れの後の森の再生計画に目を留めた。木々の下生えに畑を作り、森の育成と畑の栽培を組み合わせて、植林と農業を両立させる計画である。貿易国の小国ベノールは、食料の自給率を高めるために、島の農業と森林の保全の両立を考えねばならない。彼らの提案はそれにそぐうものであり、具体的な方策を大臣と議論しあった。
そして二人は、チュバ島の元ユーカリ植林地を、森林農業計画の実証試験地とすることを提案する。他の村が学び真似するめの模範事業としてである。石臼を挽くのに最初の力が最も大きく必要であるのと同じく、最初の滑り出しが最も難しい。それがあるかどうかで、物事はうまく進むかどうか決まる。農業大臣は、その場でチュバの計画を国の事業として、自らの責任で進めようと約束した。
国を良くし民の生活を豊かにするために、人は、大きな重圧のなかで、悩み、失敗し、試行錯誤を繰り返して、少しずつ前へ進む。国を背負う人間の気概というものをリヴァースは大臣から感じた。こうした気骨ある人間たちが世の中を作っているのであると、素直な尊敬の意を感じた。
その後、ソレイユは恋人探しを続けるために暫くアザーンに滞在する。一方、リヴァースは大陸に戻る。そして、黄金樹の枝を手に、妖精界の入り口があると教えられたマエリムの森へと赴く。リヴァースはマエリムの朱の森と影の森で、エルフとの折衝を潜り抜けて妖精界に至り、黄金樹フロレスタと再会する。そこで、物質界へ精霊界から精霊力を紡ぐという、妖精としての本来の使命に取り組んだ。
試行錯誤の末リヴァースは、物質界で生まれた自分たちには、もはやその能力はないことを悟った。そして、故郷たる物質界において、精霊の力が破壊の形にならぬよう、人々の生活の場を持続可能な形にする知恵と工夫がこそが、自らの本分である。改めてそれを知った。
妖精界と物質界では時の流れが異なる。リヴァースが妖精界に居た時間は長くはなかったが、物質界に帰った時にはすでに5年の時が経過していた。
その後リヴァースは、過去に戦で焼け落ちた故郷のノミオル湖畔の森へ赴く。そして、焼けてから20年の歳月の中で、森は既に自力で再生していたことを知った。
再生は、巨人の希望の心である。
その摂理を、噛み締めるのだった。
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