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題名
雨の森 4
登場人物
ソレイユ、リヴァース
投稿者
いりしお丸
投稿日時
2008/11/10 23:22:50
■■■ 終章
そして、ベノールに戻る。
商会に報告に出ると、バラミが詰め掛けてきた。船員から先に事情を聞いていたのだろう。
「あんた、チュバで何をやったんだい。炎の鳥が舞い上がって、島中に光の粉が降り注いだら、森からにょきにょき樹が生えて、魚がどさどさ獲れるようになったっていうじゃないか」
人の噂の翼は、地上をなぞる足より、大分早いらしい。さらに言えば、誇張されて伝わるものである。
人には言わないようにと念を押して、かいつまんで、いきさつを説明をした。
「黄金樹にフェニックス、ねぇ。あぁ、もう、何で早く言ってくれなかったんだ! そんな面白いことがあるのなら、あたしが率先して行ったし、いくらでも効率よく焼き送ってあげたのに」
と、破壊の専門家の魔女は、悔しそうに言った。
「忙しいから行かない、と言っていたのは、婆さんじゃないか…」
「知ってたら何を置いてでも駆けつけていたさ。それにしても、世の中まだまだ、面白いことがあるねぇ。当分棺おけは要らないね」
「あんた、星界で待っている旦那はいいのか」
「いまさらもう10年や20年待たせても、文句は言われないさ。あの世じゃ時間がたつのは早いそうだからね」
そういうバラミの目は、未だに現役の冒険者よりずっと若い。この婆さん、後一世紀は現役で勤まりそうだ、と思った。
まだ終わりではなかった。もともと話しを持ちかけてきた商務省の文官に報告に行く。漁獲量の減少の原因は取り除かれ、これから回復するであろうと説明すると、渋い顔をされた。
「そなたらの行いに対し、学者から文書での申し立てがあった。そなたが、国の許可無しに、私的財産である林を焼き、事業を破滅させ、人々の生活を危機に落とし入れた、との由だ。申し立てを無視にするわけにもいかぬ」
思わず息が詰まった。
「アウンティ先生、頑張りますねぇ」
傍らのソレイユが感心して言った。
申し立ての内容として、これまで彼が砕身して整備してきた森林を、こちらがいかに無思慮に焼いて破壊し、人々の生活を危機に陥れたか、ということが、つらつらと文書で述べられている。
恐ろしいのは、彼の申し立てそのものは全て見ようによって事実であることである。無根の嘘は一つもない。
「も、勝手にしてくれ…」
脱力する。これほどもまでに、意思疎通が困難で、固陋な人間がいるとは思わなかった。
話を聞いてみると、どうも、チュバ島の村人が、これまでに彼に払っていた顧問料を、アウンティに返せと要求したそうである。そして、それはこちらの差し金であり、アウンティはなおもこちらが彼の名声を貶めようとしていると、被害妄想を抱いているようだ。それが皮肉にも彼を復活させた。そして、先手を打って宮廷に申し立てをした。
「一つの側面を、それがさも全てであるように誇張して、自分こそが善であると捻じ曲げて一方的に伝える。やりきれんな」
あまりに面倒くさすぎて、もうどうでもいいという心境ではあった。悪人ならは改心の余地もあろうが、彼自身は自分が善であると信じきっている。度し難い。ただ、放置するとバラミの商会の名にもかかわる。また、島の住民達の不安が煽り立てられてしまうのは、望ましくはなかった。放っておくわけにもいかない。
「それ以上虚言を吐くと、あなたのブローカー行為も共に広めますよ、とでも、彼にしたためますか?」
ソレイユが、そう提言してくれる。
「そうしたいのは山々だが。同じ次元で立ち向かって、また自分が『不当』に罵倒されたと、ムキになられそうだ。こちらにとっての事実を、ただありのままに述べよう。そうすれば、立場が悪くなるのはあちらのほうだ」
説明に困ることはなかった。資料を示しながら、起こったことを筋道立てて述べれば良い。アウンティ自身の同意書もある。証人が必要ということなら、時間はかかるが島の漁師や村長にあたってみることもできる。幸い、担当の文官はすぐに納得してくれ、書類に「処理済」のサインをしてくれた。
こうした諍いは、商業国家においてはしょっちゅう起きているものらしい。植林を焼く際に前回にベノールに提出しておいた書類が役に立った。手続き事項は煩わしいのは確かだが、問題が起こったときにスムーズに処理するのに不可欠のものである。
こうした紙一枚一枚が、世界を前へ動かすのだ。
「人間にも色々と…本当に、色々と、いますねぇ。まったく勉強になります」
と、一通り片付けてから、ソレイユは感慨深げに云った。
「どうも、変なのに関わって、火傷してしまった感じだ。自分が正しいと信じこんでいる人間と付き合うのは、金輪際やめておこう」
と、肩を竦めあった。
その後、さらに宮廷から呼び出しがかかった。アウンティがまだ吼えているのかと思いきや、今度は、農業を管轄する大臣の名であった。
何を咎められるかうんざりしたが、国の呼びたてに逆らうわけにも行かない。監獄行きだろうかと嫌な予想をする。いざとなったら、いつでもアザーンから逃げ出せるように、大陸行きの船の出航予定を確認した。
「馬鹿だね、あんたをしょっぴくなら、問答無用で警吏が踏み込んでくるさ。それより粗相のないようにちゃんとした格好で行くんだよ」
と、バラミは口やかましく言った。
大臣は穏やかな目をした初老の貴族だった。地位に見合うだけの見識と思慮を持っている者で、ベノールを支える柱の一つであった。平和な世にはなくてはならない人物であろう。そして多分戦乱になると真っ先に殺される類の人間だろうと、失礼なことを思った。
そして、用件である。
ユーカリ植林廃棄のために提出した書類に書いた森農の計画について、詳細を説明するようにとのことだった。ひとつの都市と無数の群島からなるベノールは、平地に乏しく、農業生産地として利用できる土地は多くはない。都市を支える農産物を確保し、食料を貿易によらず少しでも自国で生産できるようにするのは、国としての課題である。そう大臣は説明した。また、大臣は、材木のための違法な森林の伐採にも頭を悩ませていた。森林が少なくなると地は衰え海にも影響がでる。過去にアウンティの植林が国の補助を受けたのはそうした理由もあった。
森農はそうした状況を改善するための画期的な方法であり、これからも国内で適用してみたいということで、大臣は提言を求めてきた。
自分には農業自体の知識も経験もなく、適当かどうかは分からない、という前置きをした上で、これまでに考えてきたことを述べてみる。また、ソレイユもエルフの立場から助言を呈する。
まず、農地確保である。既存の農地と森林は避け、未利用地を用いるのが望ましい。焼畑という手もあるが、それはエルフの反対が大きい。緑の島マフォロをはじめとして、ベノールにはエルフの住民が無視できない程度には存在し、彼らの反感を抱かせるのは国策としてうまくはない。一方、森農は、エルフと人間の連携を促す事業にもなる。
植える果実や畑の作物などの組合わせは未知数なので、その土地に合ったものを、思考錯誤していくしかない。そのために、ベノールや他国の農業について、賢者の学院や神殿などから既存の資料を収集整備し、公共のものとして誰でも閲覧しそれを管理できる体制を作る必要性がある。また、資料は常に更新されるべきであること。
実施の際、必ず記録や図面を残す事。植樹する木の種類や配置、伐採したもの、経費や資金の流れ、実施体制、その森の地質・地形条件、天気や気温の記録などは、後の貴重な資料となる。
住民の組織と制度作りが肝心要である事。とくに住民のリーダーの素質が最も事業に影響が大きい。住民の訓練も必要であろう。そのための担当の部署と責任の所在も明確にすること。
計画初期の2〜3年は独自で採算を取るのは難しいので、支援のための資金を拠出する必要がある。これらは貸付として、後の収益から返済されるようにする。返済が必要となるほうが住民は事業に真剣に取り組むからだ。利子は低く設定し、5年程度の猶予期間を設けることが必要であろう。
また、マーファやラーダをはじめとした各神殿と協力すること。神殿にも文献はあるだろうし、神官は布教のための農村開拓の経験を積んでいる。神殿の事業として、国からの寄付という名目の資金援助を神殿にし、計画を神殿に委託するのも一つのやり方であろうこと。
それから、エルフの協力を仰ぐ際は、彼らの価値観を良く知り、こちらの考え方や生活様式をしっかりと伝え、最初に深くお互いの違いを話し合って良く理解すべきであること。特に木を切る際は、それがどんな若木でも決して軽視せず、彼らと細部まで話し合う事。諍いが起きやすいので、ソレイユのように人間とエルフ双方の慣習を熟知した調停者も必要になるだろうこと。
そして、チュバ島を計画の実証試験地として選定し、国が管理してはどうかと提案した
実際の植林だけではなく、組織や貸し付けなどの制度も、うまく働くか試験的に行う。
そして、他が真似し学ぶ模範とすること。最初の模範が最も難しい。それがあるかどうかで、物事はうまく進むかどうか決まる。石臼を挽くのに最初の力が最も大きく必要であるのと同じだ。これは口にはしなかったが、黄金樹とフェニックスの恩恵により地味は豊かになっているから、生産高は確保されるだろう。
大臣はこの計画に同意し、これは大臣命令ですぐに行おうと、快く受け入れてくれた。そして同席した書記官に、その場で手配を命じた。
そうした議論をいくつか大臣と行った。有益な点は、ベノールの農業開発計画に取り入れようと、大臣はいちいち真摯に考え込み、実施に移す方策を検討するよう文官に命じた。
それにしても、人の縁とは不思議である。混ざり者の流れ者が、一国の大臣と国の発展について論じるようになるとは。こうした伝を作ったのは、書類である。書類は記録として、そこにある情報を必要とする者の手を回る。それは時に、国そのものを動かす力にもなりうる。誰もに、客観的に同じことを説明することができる書類の力というのが、いかに世の中において大切か、身に染みてわかった。
最後に、大臣より、このまま二人でベノールで森農の制度を整えないか、という誘いがあった。
ソレイユはもとより、彼の人探しの目的がある。ひとつの国に落ち着くわけには行かない。ただ、アザーンにいるときならば、助力はしたいと答えた。
自分にとっても、ありがたい話ではあるが、返答には窮した。しばらく考え込んでから答えた。
「わたしはこの国が好きだ。ベノールは良い国だと思う。この土地の力になれるとしたら嬉しいし、光栄なことだと思う。ただ、ベノールの名を背負って働くのは、その土地に生まれその名に愛着を持ちながら育ってきた人間にこそふさわしいと思うし、そういう者にこそ、人はついていく。貴方方の国を思う心には心打たれる。一方、自分は流れ者であるし、ひとつの国のために尽力できるような身の程ではない。今後は、民が知恵と力をつけて、自分たちで発展を志し、国に助力を求めることも増えるだろう。そうした際に、民の助力者という立場から、力になりたいと思う」
そうした者も必要であると、気を悪くした風もなく大臣は頷いた。そして、これからの活動に必要なものがあればできるだけ取り計らおうと、応えてくれた。
本音を言うと、失敗が怖いのだ。一国の事業に責任を負うような羽目にはなりたくない。そう思ってしまうのが、自分の格としての限界である。
一方、その国というもの、国の民の生活というものへの責任を、目の前の大臣たちは負っている。彼等は皆、真剣だ。大きな重圧のなかで、悩み、失敗し、試行錯誤を繰り返して、前へ進み、少しずつ発展している。そして少しでも有用な知恵がありそうなら、このような流浪の人間からも声を聞き知恵を求める。国を良くしたいという、その想いは真摯だ。ただ、万能ではない。人の力も時間も金も、制限がある。無限にはできないから、不満もある。偏りが出るのは仕方が無い。人は皆わがままで、他人の富を羨む。そうした中で責められ詰られながらも、最善を模索する。
国を背負う人間の気概を感じ、こうした人間たちが世の中を作っているのだと、素直な尊敬の念が沸いた。
ベノールの港を発つ。これからアザーンの玄関ザラスタに向かい、その後大陸に戻る。胸の服の下には、黄金樹の枝を紐に掛けて吊るしている。これをもってマエリムの影の森へ向かい、妖精界の入り口に赴く予定だ。
「大陸に戻る? やめときな。あんたみたいに扱いづらい奴を、うまく使いこなせるところなんて、そうないさ」
そういって、バラミは最初は引きとめてくれた。
「あんたほど容赦なく人をこき使える奴も、大陸にはまずいないだろう。今回だって単なる魚が減った原因調査のはずが、土石流に巻き込まれ死に掛けた上、古代から生きる大いなる種を滅ぼすなんて羽目になってしまった」
「知らないよ、そりゃ、あんたが好き好んでやったことだろう」
バラミには、マエリムの樹海にある妖精界の入り口に行きたい旨を伝えてあった。
「妖精界から戻ったら、またそのうちこちらに来ようとは思っている。サバスもチュバも、その後が気になるところだし」
そう言うと、まったく、とバラミは息を吐いた。
「いいさ。川は流れてこそ川だろうからね。水は望みの通りに流れる。流れねば澱む。そういうことなんだろう」
そう言ってバラミは、皮袋を投げてよこした。中には宝石と魔晶石が入っていた。チュバがいい金づるになったことへの報酬さと、バラミは偽悪ぶった。チュバ島の森農模範事業のための、資材や産物の運搬を、これから商会が受け持つことになる。商会にはそれなりの収入源になる。バラミの目論見は、いちおう当たったことになる。
「達者で。また来る」
「あまり遅いと、先に逝っちまうよ。あんたが趣旨変えしない限り、死んで星界で再会、ってわけにはいかないんだからね」
「死にそうになったら変化の魔法で若返ってくれ。今も既に300年ぐらい誤魔化しているんだろう。あんたは、人を限界まで扱き使って究極の状況にまで追い込んで否応がなく進化させるという、偉大な使命を神々から授かっているんだから」
「誰のことじゃっ!」
そう言って笑いあった。
一方、ソレイユはもうしばらく島に残るという。後回しになっていた恋人探しを再開するためだ。
「お前の気持ちを疑うわけではないが。どうもお前は、恋人を探すために人の世に居るのではなく、人の世にいる理由のために恋人を探すことにしているのではないか、という気がする」
そう言うと、ソレイユは怒りもせず苦笑した。
「死んだ恋人の生まれ変わりを探している。この話をすると、大抵の方が、頭がおかしいのではないのか?と仰います。自分でも時々、私はこれで正常なのかと不安になります。でも、会えるかどうかもわからない恋人を捜し続けている、その姿こそが私なのです。貴方の仰るとおり、それをこうやって大陸各地を旅して回る良い口実にしています。でないと、居心地の良い街に居着いてしまいますから」
街に居つく。それは旅をする者にとって、抗い難い誘惑だ。基本的に旅は辛いし面倒なものだ。旅人は常に旅をする理由がなければ、旅をすることはできない。ソレイユは、エルフとか人間とかいう以前に、この旅人の感覚を知っている。だから、共感がある。
「エルフは、いわば、恵まれた不可侵の奇麗な池に棲んでいるのでしょう。そして汚されない様に必死になっている。しかし、もし、池に毒が入ってきたら、その池は死滅するか、回復に大きな時間がかかる。とても脆弱なのです。 しかし、人間の世界のように変化する、常に流れ続ける川のようであるならば、汚れた物は流され、新しい水が流れ込んでくる。停滞ではなく循環しているほうがずっと強い。そして、川のようにあるためには、人間との交わりが不可欠です。」
ソレイユもまた、エルフという種について考え、不安を持ち、行く先を模索していることが、その言葉から伺えた
「いずれ、すべてのエルフが人間たちと交わるような日がくるのではないかと思います。私は、森を出て、いかに我々エルフが人という者たちを知らずにいたか。それを痛感しました。確かに、人とは相容れない考え方もありますが、我々エルフも見習わなければならない部分も多い。より多くの人間を見て、近い将来訪れるであろう、エルフと人間との本当の交わりの時に、適切な助言ができるようにすること。それこそが、私のような、人の世界に根を下ろしたエルフの成すべき事だと思っているのですよ。旅をするのは、より多くの人の考え方に触れるためでもあるのです」
そうソレイユははっきりとした口調で言ってから、少し照れくさげにいつもの穏やかさで微笑した。
「貴方のような方は、世界に貴重だ」
ソレイユのようなエルフが増えれば、それだけ、迫害を受け不幸な思いをする半妖精は少なくなるだろうと思った。
「貴方は、これから故郷に向かうのですか」
何気ない別れ際のその質問に、しばし逡巡した。
「焼け落ちた故郷に赴くことは一生無いだろうと思っていた。わたしがエルフから名づけられた名は、ユークリュアスという。"ユーク"はユーカリと同じ発音だ。それが『良き強き』という神代の古語の意味であると、ソレイユは教えてくれた。わたしは混ざり物の忌まれ子だったとずっと思っていたけれど。名づけ親が、たとえ生まれた瞬間だけでも、その意味を込めてくれたというのは、わたしには祝福だと思えた。森のエルフはもう戻らないが、せめて故郷の森を、在りし日のように再生させたい思った。焼いたユーカリ林と同じく。それは償いだ」
その答えに、ソレイユは、赤い目を細めてとても優しい表情を浮かべた。
「心から、応援します。そして願っています。祈っていますよ。貴方が貴方の故郷と再び出会えることを」
「ありがとう。願いに感謝する。貴方に出会えて良かった。そして、貴方が、探し人と出会えるよう、心から祈っている。…ソレイユ。元気で。またどこかで会おう」
そう言って、手を出す。
「えぇ、必ず」
二人、しっかりと手を結びあった。
乗船しようとすると、にゃぁ、と足元で猫が鳴き、頬を足に寄せてきた。
琥珀の目の黒猫。尾は一本だった。
「何ゆえに化けて出てきた。妙な予言が、まだ残っているのか」
警戒しながらじろりと猫を見て言った。
「我輩の不肖の息子猫が、人間に浚われ大陸へ連れられてしまったのである。取り戻さねばならぬ」
不本意げに猫は答えた。
「それは難儀なことだ。手伝いは必要なのか?」
「双尾猫の沽券にかけて、人の手は借りぬ。ただ我輩が船に乗るため猫のフリをする伴をさせてやろう」
確かに、飼い主のいない猫は船に乗り込めない。野良猫として見つかったら、水夫達に追い出される。
「猫は苦手なのだが」
「ではカメレオンでも蛇でも蛙でもよかろう。我輩はえり好みはせぬ。選ばせてやろう」
この上からの目線は立派だと思った。
「…そのままで良い。黒猫殿。では大陸までお供させていただこう」
そう言って猫の腹を、抱え上げた。にゃあ、と泣き声が漏れる。
退屈だという、船旅の最大の問題点は、解決しそうだと思った。
そして大陸を目指し、海原を漕ぎ出す。
世界は広く深い。
地と空は、水で繋がっている。
海から立ち上る気流は、空で雲となり、雨となって地に降り注ぐ。
地の養分を得た水は、川となって海に注ぎ、また、光を受けて、また天に還る。
世は、循環している。
あらゆる生き物はこの循環の中で、奪わねば生きてはいけない。
それは生き物のもつ本質的な哀しさである。
そして再生は、その原罪ともいうべき哀しさにさらされた世に対する、始原の巨人の希望の心。
世界の理はこんなにも深遠だ。
そして、知りうるすべては、手の届きうるほんの表面だけを指でなぞっているにすぎない。
その世界を癒すために。世界により癒されるために。
世界を旅し行こう。
________________
その後、大陸に戻り、マエリムの森へと赴く。影の森には、その存在をひた隠しにするエルフがいた。影の森を通過するために彼らとの折衝を繰り広げた。その果てに、妖精界にたどり着く。そして、予ねての約定通り、妖精界にて黄金樹フローレスタと再会を果たした。
物質界へ精霊界から精霊の力を紡ぐという、妖精としての本来の使命。黄金樹や妖精たちの教えを受け試行錯誤しそれに取り組むが、一生費やしても木一本成長させる精霊力を紡げるかどうか、という有様だった。
物質界で生まれた自分たちには、もはやその能力はないことを悟った。そして、生き物の故郷たる物質界において、精霊の力を調和させ、人々の生活の場を持続可能な形にする知恵と工夫を求めることが自らの本分である。改めてそう決意した。
妖精界と物質界では時の流れは異なる。物質界に帰った時には、既に5年が経過していた。
その後、故郷のノミオル湖畔の森に赴いた。
過去に戦で焼け落ちたノミオルの森は、20年の歳月の中で、既に自力で再生していた。
湖のほとりに、一本のトネリコの木があった。焼け残った木だった。焼けた傷跡から青々と枝葉を空に向かって伸ばしていた。
―― 再生は、大いなる巨人の希望の心。
その摂理に触れ、ただひたすらに、この世界を愛しく感じた。
(終)
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参考
アザーンについて:
虹の水晶宮 (ソード・ワールドRPGシナリオ集4)
(但し雨の島チュバはオフィシャルに在りません。地図に無く大陸には知られていないということでオフィシャルへの非抵触を担保できればと思います)
世界樹・黄金樹・魔法樹・フェニックスについて:
ソードワールドワールドガイド P79-81
西部諸国ワールドガイド P15-16
ソードワールド・サポートI P8-P19
「ロマールの罠」収録「立ち枯れの森」
「ハイ・エルフの森」
「ロードス島戦記2 炎の魔人 P333-335」
アイテム・イメージ画像
この作品の感想をお寄せください
琴美
さんの感想
(2008/12/29 23:46:29)[4]
濃密で豊かな世界を、巧みに描いたEPでした。
ずいぶん昔、探検記の類を胸を躍らせながら読んだ記憶が呼び起こされ、フォーセリア世界に一層の親しみを抱かされました。
巨人の孤独の末に生まれた世界の、豊かな広がりを歩み続ける旅人と、そのPLに敬意を表します。
素晴らしい作品を読ませていただきありがとうございました。
樽野
さんの感想
(2008/11/22 5:21:10)[3]
就職決まったら世の中の問題なんかどうでもよくなっちゃった。(熊猫の様にサーカスの玉と戯れながら)
そんな状態の自分でしたが、億劫さをこらえこのエピを読むと、緩んだ腹に一寸の間、じわりと込み上げるものを感じたのであった。
その高い意識に──
それが書かれた労力、紡ぎ手を突き動かした力に。
敬意を払わずにいられないと感じた。
やっぱ半端ねぇな、いりさん。
三月兎さんのソレイユの描写も見事。
惜しむらくは・・・長すぎた・・・粗筋を読んだときのテンションを
持続したくとも、できなかったのが残念です。ゴロゴロ。
三月兎
さんの感想
(2008/11/13 0:30:30)[2]
実体験に裏打ちされた文章……読んでるだけで容易に情景が目に浮かぶほどの“文圧”とでも言うのでしょうか、重みが違いますね、はい。
読んでいるうちに、自分のキャラというのもありますが、本当にリヴァと冒険に出てるような気分にさせていただきました♪
というか、私よりソレイユのことを良く分かってらっしゃるくらいでw
あやつのほんわかとしつつもシニカルな面を上手く表現していただいて、本当にありがとうございます。プレイヤーとして、これほど嬉しいこともございません。
リヴァースの思想や葛藤などをかいま見ることもでき、まさに眼福の言葉につきます。
ぜひぜひ、このエピを酒の肴にリヴァとソルで語り合いたいものですw
まつかわ
さんの感想
(2008/11/11 4:25:56)[1]
どこに行ってるんだろう、コノヒトは……。
イメージ画像で写真をつける人ってなかなかいないよね!
そして最後、遠慮したよね(謎)。
何はともあれ、リヴァースの旅の一端が読めてよかったです。
すさまじく充実し、そして細部に妙なリアリティのある、素晴らしいEPでした。
ぜひ、キャラチャの予約を(笑)
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