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No. 00005
DATE: 1998/05/31 19:57:40
NAME: ペグビー
SUBJECT: 闇の襲撃(後編)
俺はスキを見て、とっさに横転しながら跳ね起きた。右手には、冷たい武器の感触がある。身体は自然に前屈みになり、戦闘態勢を取った。
だが、相手は動じた風もない。
「なんのつもりだ?」
「てめえら暗殺者ってのはよ、コソコソ陰でやるから怖えんだ。真正面からやりあえば、俺に分はある。みろよ、この魔法のダガー」
だが、そう聞いても、相手は薄気味の悪い笑いを浮かべるだけだった。
「それが盗み出した品の一つだな。フ、それを返してもらえばギルドへの面目もたつ・・・」
男は無言でショートソードを抜いた。
しばらく俺たちは相対していたが、この空間の重圧に耐えきれなくなり、
俺はついに攻撃をしかけた。
「くたばれ!」
相手の喉笛めがけ、ダガーを持って突進すると、暗闇に白い軌跡が残った。
たが奴はその最初の一撃を、身をそらして紙一重でよけた。そして、続く弟二撃を、これは腰の辺りを狙ったのだが、そこに隠していた刀剣で上手く防御した。
殺気を感じて、俺は飛び退いた。俺がもしデブだったら、きっと腹の肉を切り裂かれていたであろう位置に、短剣が振り払われていた。
「危なかったぞ。こっちの剣には毒が塗られているからな・・・」
相手が暗殺者だということを忘れていた。
だが、俺は臆しなかった。
「悪いが、昔から毒には抵抗が強ええんだ。効きゃしねえよ」
「ならば、喉を切り裂けば済むことだ」
俺はその迫力に気圧され、ごくりと唾を飲み込んだ。
やべえな。こりゃ、勝てる相手じゃなかったか・・・
命乞いをするか?
そう思考が頭をかすめた時、恐ろしい速さで奴は俺の懐に飛び込んできた。
「お、おい、ちょっ、待っ・・・」
しかし、奴の動きは止まらなかった。皮鎧で覆っていない、首もとの部分に深々と刃が刺さるのを俺は感じた。
暗殺者は、急所を刺されて倒れたペグビーを、悠然と見下ろした。 彼にとって、魔法の品のすべてを取り戻すことはどうでもよいことだった。どうせ、持って帰ってもギルドの長に返すだけのことだ。
ペグビー暗殺が第一の任務。それをこなしさえすれば、あとは各人の判断である。
彼はふとペグビーの死体の脇にある、ダガーに眼を走らせた。
ほう、だがかなりよさそうな一品だな。
彼はそう思い、かがんでその武器に手を伸ばそうとした。
その時だった。
ペグビーの手が信じがたい速さで動いたと思うと、ダガーをつかみ、暗殺者の喉笛を差し貫いた。
「な、何・・・貴様・・・何故・・・」
ペグビーは白目を向いた相手の顔をにやりと笑って見つめた。
「俺が盗んできたもののなかに、ちょっとした逸品があってよォ。スケープドールっていうんだが・・・身代わりになってくれるっていう便利なお人形
でなぁ」
相手にそれが聞こえていたかは、ペグビーにも分からない。
死体を脇に、彼はホコリを払いながらゆっくりと立ち上がった。
「さぁて。くくっ、ついにギルドメンバーを殺っちまった。これで済むはずはねぇよな、多分・・・」
すでに夜は明けはじめていた。彼は頭を巡らせた。このまま一人で隠れて
いても、いずれ発見されるだろう。何か、対策を考えなくてはならない。
「だが、疲れたぜ。酒場にでも行って考えるか・・・」
そして、血の臭いのするその場を離れた。
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