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No. 00006
DATE: 1998/06/06 22:49:35
NAME: シェリル
SUBJECT: 風の行方(前編)
「ふざけないでよ! その時間あたしとセフィーは一緒に居たって言ってるでしょ!」
「さっきから身内の証言はあてにならないと言っているだろ。まして盗賊の言うことなんてな」
こちらを見もしないで、なにやら作業をしている。その態度があたしの感情をさらに逆撫でた。
「・・・盗賊の言うことは全てあてにならないと?」
「全てとは言わないが、セフィーの姿を見たという証人が大勢居るのだからな。おまけに犯行におよんだ弓はめったに有るもんじゃない。その弓はセフィーの持ち物で、おまけに家から見付かってるんだ」
「その弓は事件の前から盗難にあっていた! 事件当時手元にない弓でどうやって事件を起こすと?」
「しかし、事実セフィーの家から見つかったんだからしょうがないな」
「だから、弓を盗んだ犯人がセフィーに罪を着せるために返したんだって言う可能性は考えないの?」
バンッ! と机が激しい音を立てる。
「シェリル、落ち着けって」
見るに見かねてそれまで黙っていたセフィーが声をかける。
「これがどうして落ち着けるって言うのよ! セフィーが濡れ衣着せられるかもしれないのに!」
「調査が進めば俺が犯人じゃないってことも分かってくれるさ」
「さ、セフィー。そろそろお時間なんだが?」
「あぁ、わかった。・・・シェリル。おとなしく待ってるんだぞ。すぐ帰ってくるから」
「絶対だよ。セフィー」
・・・そしてセフィーは何日待っても帰ってこなかった。
あたしはシェリル。ラムリアースの南のとある町、そこに生まれ育った。家は、盗賊の修行をはじめた頃に勘当されてしまったから、今は何の関係もない。勘当されたあたしが転がり込んだのが恋人のセフィー・ディバイス所だった。セフィーはそこそこ名の通ったレンジャーで弓マニア。珍しい弓をコレクションするのが彼の趣味だった。この趣味が結果的に彼の首を絞めることになる。
事の起こりはあたしがようやく盗賊ギルドになれはじめた頃に遡る。
「おはよう、シェリル。今日はどうしてここへ?」
この人がこの町の幹部のガルバーニ。噂によると相当の切れ者らしい。あたしは少々この人が苦手だった。理由は簡単。どうも気に入られたらしく事あるごとにちょっかいをかけて来るのだ。ギルドに出入りする時は注意しようと考えていた矢先だったのに、この日運悪く捕まってしまった。これがすべての始まりだった。
「おはようございます。罠解除の仕方を習おうと思いまして」
「そうか。・・・なら私が教えてやろう」
「は?・・・でも、貴方ほどになると仕事がたくさんあるのでは?」
「私ほどになると案外仕事は回ってこないんだ。それとも私では不服か?」
「いいえ、そういう訳では。それではお願いします」
教えてもらっている間、ガルバーニは事あるごとにあたしに触れてくる。さりげなく躱すもののうっとうしい事この上ない。
「今日はありがとうございました」
「いや。気にするな・・・・・・ところでシェリル。今付き合っている奴はいるのか?」
「どうしてですか?」
「私の愛人にならないか?」
「せっかくのお言葉ですがわたしには恋人が居ますから」
「なら、その者と別れて私の愛人にならないか?」
「申し訳ないですけれどお断りします」
「・・・そうか。わかった。まぁ気が変わったら教えてくれ」
それからというものセフィーの身に妙なことが続いた。セフィーに関する根も葉もない噂が広まり仕事が出来なくなっていった。おかしいと思い噂の出所を調べると思ったとおりガルバーニに行き着いた。あたしは無駄だとは思いつつ、ガルバーニを問い詰めた。
「なぜセフィーの根も葉もない噂を広めるんですか?」
「さて何のことかな。私にはさっぱりわからないな」
「しらばっくれるのも結構ですが、そういう事をしても無駄です。あたしの気持ちは変わりませんから」
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