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No. 00014
DATE: 1998/06/18 11:08:04
NAME: カール
SUBJECT: 岐路 (前編)
「カール、こっちに何しに来たの?」
目の前にいる私にそっくりな男が言った言葉は禁句であった。
「…ん…なんていうのかな…」
武者修業と称して国を逃げてきたなど口が裂けても言えない。
紹介が送れたが私の名はカール・クレンツ。西部諸国の1つベルダインの騎士だ。
そして目の前の男は双子の弟でシシリー魔術師ギルドの正魔術師だ。
「武者修業を兼ねて、親書を届けにきたんだよ」
とりあえず、事実を言う。言いたくない点は一部除外したが…
「それで親書はもう届けたんでしょ?」
「……」
「…もしかして届けてないの?」
あまりにも図星であったために思わずビクっとなってしまった。多分わかっただろう。
「どーして!?」
思わず立ち上がり問いただしてくる…まあ、当たり前か。
国王から国王への親書を届けていないのである。普通だったら不忠義で極刑である。
「なんかこれ届けたら帰還しざるおえないなーと思って…」
これは本音だ。
「だからって届けないって…」
少し冷静になって周りの視線に気が付いたらしく席に着いた。
酒場だということを忘れていたようだ。
「確かに問題だとは思ってるんだが。」
私は蒸留酒を飲みながら何気なくポツンと言った。
「カールさあ、お前本当に騎士なのか?」
思わずという感じで聞いてくる。
「気ままに亭と違ってここの蒸留酒いまいち。」
「ごまかすな!」
くそ、ばれたか。
「なんかさ、最近自覚無くなってきたな、旅に出て3年だもんな。」
……もう3年も立つ。
ベルダインの上級騎士にして、厳格なファリス信者である父に反発しての結果かは分から
ないが私はチャ=ザの声を聞いてしまい、騎士叙任と同時に武者修行と称して、国王から
許可もらい旅に出たときにはまだ16歳の少年だった。
「ずっと冒険者みたいなことやってたからすっかり忘れてた。」
「忘れてたって、お前な…」
完全に呆れている。そりゃそうだな。
「2年前に、国元から父上の手紙とお前の鎧が送られてきて、手紙に“しばらくしたらカ
ールが来るそのときにこれをやつに渡せ”って書いてあって、待てども待てども来ないか
らまさかなーと思ってたが…」
シシリーは12の時にオランの魔術師ギルドに預けられている。7年ぶりの涙の再会だと
いうのに感動もへったくれもない。
「それでいつにするの?」
「…いつって?」
「親書を届けに行くのいつだって聞いてんだよっ!!」
ついにキレやがった。こいつこんなに気が短かったっけ?
「気が向いたらと思ってるんですけど。」
シシリーのあまりの迫力に思わず“です・ます調”になってしまう。
「気が向いたらじゃない!!明日にでも行け!!すぐに!!」
「…はい」
私にはこの言葉しか出てこなかった。
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