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No. 00027
DATE: 1998/07/03 18:30:18
NAME: セシーリカ
SUBJECT: 白い肌の妖魔
これは、セシーリカがまだ、オランをめざして旅をしていた頃の話である。
自由人たちの街道を、オランに向かっててくてく歩いていたセシーリカは、三人の男に襲われているフードの人物を発見した。
「ちょっと、なにしてんの!」
セシーリカはあわてて駆け寄った。どうやら、三人の男たちはいずれも暗殺者であるらしいことが見て取れた。
ならば、どちらにつくのかは、もちろん決まっている。
「そこのフード! 加勢するよ!」
セシーリカは叫びながらレイピアを抜いた。三人の暗殺者たちは、セシーリカを新たな敵と認めて、臨戦態勢を取る。
戦いが始まった。
戦いは、数分も経たずにけりが付いた。足下に転がる暗殺者たちの死体。倒れているフードの人物。セシーリカはすぐにフードの人物に駆け寄って、傷を癒そうとフードを取った。
現れたのは、浅黒い肌のエルフ。
「・・・見たのか!?」
エルフががばっと起きあがる。顔を覆ってセシーリカをにらみつけた。
「・・・? お兄さん、エルフ? 日焼けが激しいけど、エルフも日に焼けるんだね」
セシーリカの言葉に、男は言葉を失った。
「傷の手当させてよ。あたし、マーファの神官だから」
何にも知らないセシーリカは、にっこりと微笑んだ。
エルフの男はラクレインと名乗り、ひとりぼっちの旅が二人になった。何度か暗殺者が二人をおそったが、どれも返り討ちにあって倒された。
ラクレインがフードを決して取らない理由がセシーリカには分からなかったが、暗殺者に追われている以上、何か事情があるのだと思い、あえて何も聞かなかった。
ラクレインは、次第にセシーリカに過去のことを話すようになった。
自分はドレックノールの盗賊ギルドにいたこと、暗殺の仕事がいやになって逃げてきたこと、自分を追いかけている暗殺者はギルドの追っ手であると言うこと。
セシーリカも自分の過去を話した。二人は次第に信頼しあうようになった。セシーリカはラクレインを兄のように慕い、ラクレインはセシーリカを妹のように思った。
・・・そして、事件は起こった。
ザインまであと二日、という地点で、ふたりは二人組のエルフと出会った。
なんとかやり過ごそうとしたラクレインだったが、風の精霊のいたずらにより突風が吹き、フードを飛ばされてしまう。
エルフにとっては、ダークエルフは不倶戴天の敵である。当然のように問答無用で襲いかかってきたエルフ二人に、セシーリカは困惑した。彼女はダークエルフを知らなかったから、ラクレインが襲われる理由が分からない。
ラクレインもまた困惑した。他人を手に掛けること、他人に涙を流されることが嫌で逃げてきた。そしてそれが間違いでないことを彼は今までの旅の中でセシーリカに教わっていた。このままでは彼女までダークエルフの仲間、として殺されてしまう。
ラクレインは、とっさにセシーリカをつかまえ、その首筋に青く光るミスリル銀のダガーを押しつけた。
「それ以上近づくと、この女の首をかっ切るぞ!」
ラクレインは、セシーリカを人質に取ることで、彼女が自分とは無関係な被害者に仕立てようとしたのだ。
そして、その試みは成功した。
エルフ二人はセシーリカを攻撃目標からはずし、ラクレインめがけてバルキリージャベリンを放った。
バルキリージャベリンを立て続けに受け、ラクレインは倒れた。セシーリカはあわてて彼に駆け寄ろうとしたが、ラクレインに来るな、と目で止められる。
呆然とするセシーリカには気がつかず、エルフ二人はラクレインに止めを刺した。
セシーリカが見ている、まさに目の前で。
・・・数日後、セシーリカは、忌まわしい現場に戻った。
まだ血の跡が痛々しく残っている街道脇に、盛り土をされた場所があった。
セシーリカは瞑目してマーファに祈りを捧げると、彼の形見になってしまった青いダガーを握りしめ、木片に文字を掘った。
そして、それを盛り土の上に静かに立てると、唇をかみしめ、すでに涙の乾いた目をもう一度こすって、その場を去った。
木片には、こう書かれていた。
“白い妖魔に殺された黒い兄弟、ここに眠る”と。
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