No. 00043
DATE: 1998/07/15 23:48:31
NAME: シェリル
SUBJECT: 幾つかの思惑(前編)
「・・・はぁ・・・」
今日は過ごしやすい良い天気で、本当なら気分も浮かれる良い日なのに、あたしを憂鬱にさせる出来事が今日もまた起こった。
「お客さんか。どうするんだ?」
隣を歩いていたセリカが問い掛けてきた。
「追っ払う・・・かな。面倒だけど。早速力借りる事になっちゃったね」
「俺は護衛として雇われてるんだから、気にするなって」
諸悪の権化はここオランの盗賊ギルドの下っ端幹部のゲイル。コイツが同じギルドの幹部のウィルとあたしが仲良くなったのを聞きつけ、自分の地位を危ぶみはじめたのが事の発端。まぁそれからさして強くもない部下を性懲りもなくまとわり付かせる事。鬱陶しいにも程がある。それでも最近は数の暴力に訴えられてあたしが怪我をする事が多くなってきた。
昨日も少し怪我をしてしまった。が、大した傷じゃないので気にせずきままに亭にいった。その日もきままに亭はたくさんのお客で賑わっていた。あたしが入るなり皆、怪我を心配してくれた。本当にここに来る人たちはいい良い人たちばかりだと思う。いつもなら怪我を治してもらうんだけど、この日はちょっと事情が違った。あたしはこの間、またウィルに悪戯をしたのでウィルから逃げ回っていた所だったのだ。店の中にウィルの姿を見つけるとあたしは逃げだそうとした。が、怪我を治そうとスノーが側に来て手をしっかり握っていた。
「スノー、ごめん!」
そう言って、スノーの手を振り解き、その日はきままに亭を後にした。
(スノーに悪い事しちゃったな。今度謝っておかないと)
ある程度きままに亭から離れ、一息ついた時突然後ろから声をかけられた。
「おい、シェリル」
驚いて振り向くとセリカが立っていた。どうやら追いかけてきていたらしい。
「俺になら話してもいいだろ?」
「何の事?」(・・・何で『俺に』ならなんだろう?)
「しらばっくれるなよ。俺が気付かないとでも思ったか? 大方アホどもだろ。俺を護衛に雇え。ちったぁ名の知れた戦士だからな」
そのセリフを聞いてあたしはあっけに取られた。まさかこんな話を持ち掛けられるとは思っても見なかった。
「聞いていい? どしてあたしにかまうの? どしてあたしの事情知ってるの?」
返事よりもまず、前々から疑問に思っていた事が口をついて出ていた。
「ちょっと・・な。俺だっていろいろ知ってるさ・・・。でもま、俺を雇わない奴には教えられないなぁ」
そう言って笑った。正直言ってこの申し出は非常にありがたい・・・んだけど、なんだか妙に素直に申し出を受けれなくて、ひねくれた言葉を言ってしまった。
「でも、貴方には他に守るものあると思うんだけど?」
するとセリカは不敵な笑みを浮かべ
「他に守る者には既に手は打ってある・・・安心してお前を守れるぜ」
そう言った。しばらくあたしは、セリカの顔を見詰める事以外何も出来なかった。
「で、どうする? こんな有能な戦士は他にそういないぜ」
「・・・報酬は?」
「そうだな・・・。一日俺の仕事に付き合って貰う、ってのでどーだ? 孤児院の仕事ってのも結構辛いんだぜ」
「それでいいの?」
「甘くみるなよ・・・子供のパワフリャァな活動力を・・・・慣れてないとすぐへとへとになるぜ・・・」
「わかった。それで良いならお願いする」
こうしてあたしはセリカにしばらくの間、護衛をしてもらう事になった。
「ほんと弱いな。質より量ってとこか」
薄汚れた路地裏に転がって気絶している男達を見てセリカが呆れるような口調で言った。
「貴方が強んだと思うな。あたしじゃ、こう簡単にはいかないもん」
圧倒的な速さと卓越した身のこなしで、あっという間に全員を沈黙させてしまっていた。あたしはただ見ている、それだけしか出来なかった。
「で、このままの状態を続けても仕方ないだろ。なんか方法考えてるのか?」
「・・・そうねぇ・・・」
その時あたしに一つの考えが浮かんだ。
その後あたしは盗賊ギルドに向かった。いつものキツイ表情を取り繕い中に入り、『ウィルに会いに来た』そう用件を伝えると、一人がウィルの部屋まで案内してくれると名乗り出た。ウィルの部屋に着くまでの間、最近の噂について聞いたところ、出てきたのはウィルについての噂だった。一体、どれだけ広まっているのか・・・想像しない事にした。
「そうそう、ウィルさんと親しいんですか?」
「・・・どうして?」
「今、盗賊ギルド内でウィルさんについてすっごく噂になってるって話しましたよね。でも誰もウィルさんが女装した所などを見た事なくて。親しい方ならその辺りの事知ってるんじゃないのかと思いましてね」
「・・・後で教えてあげる」
「…シェリルか」
部屋に入るなり、ウィルは憮然として出迎えた。ここまで連れてきてくれた人はウィルの顔を見ないで去っていった。が、ドアを閉める直前に見えた顔は明らかに笑っていた。ドアが閉まると、いつもの表情と口調に戻してウィルに向き直った。
「随分と噂、広まっちゃってるみたいね」
「…こんな所まで、何のようだ?」
「ちょっとウィルに用があってね♪」
「…丁度良い。俺もお前に聞きたいことがある」
怒りを含んだ低い声で聞いてくる。何を聞かれるのかは一目瞭然。この間ウィントと一緒にした悪戯の事だろう。でも、仕事とバイトで忙しいのはわかるけど寝こけるウィルにも問題の一端はあると思うんだけどな。
(これは相当怒ってるなぁ、先に謝るのが勝ち、かな)
「この間のいたずらについでしょ? それやったのあたし。ごめんね」
「…やはり…貴様か…」
妙に疲れた口調でウィルが言った。あぁ、ちょっと同情しちゃうかも。
「ごめん。で、罪滅ぼしもかねて一つ話を持ってきたんだけど?」
「…なんだ?」
「耳貸して」
「・・・って事をしようと思ってるんだけど、どう? 悪い話じゃないと思うんだけど?」
しばらくウィルは黙っていたが一言、
「…勝手にしろ」
そう言った。
「じゃ、実行するね♪」
さて、思惑通りに事が進めばいいんだけどな♪
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