No. 00047
DATE: 1998/07/19 22:55:49
NAME: プリム
SUBJECT: 不安の精霊
「やぁ、プリム。」
この声を聞かなくなったのはいつのころだろうか?
幻想からさめたプリムはふとカウンター席の奥の方へ視線を投げた。
だが、そこには誰も座っていない。
(やっぱり今日もこないのかなぁ・・・・・・・)
いつもこの時間ならリヴァースが来ている時間なのにこのごろは姿を見ていない。
落胆の色を感じながらプリムは一人きまま亭に座っていた。
酒場の明かりが時々シルフのいたずらでゆらゆらと揺れる。その描写を見ているうちにふと走馬燈のようにここ最近のできご
とが走り抜ける。
ヤンがいなくなってからすでに半月、リヴァースが何かにおびえているのをプリムは薄々感じていた。
いや、感じているというよりもリヴァースになにか悲しみの精霊にとりつかれているように見える。
(悲しみの精霊・・・・)
プリムもその言葉に恐怖を感じている。
なぜなら自分の心奥に潜んでいるようで逆に怖くなり、結局そこから逃れようと自分の心から目を背けてしまう。
それは、魔物との戦闘の恐怖から逃げるということよりも、もっと恐ろしくそして、目を伏たいことである。
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翌日、にぎやかな時間をみはからってプリムはきまま亭を訪れた。
すでに常連が酒やつまみを交わしてにぎやかな声が響くが、プリムがいつも座るカウンター席はちゃんと空けられていた。
隣にはシェリルがワインが入ったグラスを手にして座っている。
一通りの挨拶をしたあと、ゆっくりといつもの席に腰をかけると、スノーに注文を出す前に思わず
「あの・・・今日もリヴァースさんはいらっしゃらないんですか?」
とシェリルに問いかけてしまった。
「うん。今日はまだみたい。」
「そうですか・・・」
最近のリヴァースにとりまく精霊のことに姿を見ていないのが重なり、落胆の色は濃い。
「なにかリヴァースに用があったの?」
ふと気がつくとシェリルの口調がいつもと違う感じがした。
精霊を見るとさほどいつもと変わりがないのに、なにか違う感じがする。
「あ・・いえっ☆ 用という用はないですけど・・・最近リヴァースさんの顔を見ていないし・・・どうしたのかなって☆」
「そういえば、プリムがいるときにはこないねぇ・・・でも、来るよ」
「そうですかっ☆(にっこり)」
シェリルに安心した笑顔を見せる。別に無理に作っている笑顔ではないが、何となく不自然に感じた。
「でも・・・最近のリヴァース、私には冷たいんだぁ・・・」
と、さみしそうの言うとため息を漏らした。
「えっ?」
心の奥に不安の精霊が駆け抜けるがすぐに
「でも、きっと疲れているんですよっ☆ だから・・・」
瞬間、次のことばにつまる。いや、不安の精霊が怪しい笑いをしながらプリムの心を取りまきはじめている感じだ。
「・・・・・」
シェリルはそのことは気づいていないようで、憂鬱そうにグラスを回して、何かを考え始めているようだ。
「あ、プリムお姉ちゃん。いらっしゃ〜いっ♪」
元気いっぱいのスノーの声が不安の精霊を追い出した。あわてていつもの笑顔を取り返して
「こんばんわっ☆今日も多いですねっ☆」
と、ほっとした気持ちでプリムはスノーに話しかけた。
そして、今日も夜がふけていく。
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(・・・・約束の時が近い)
気持ち良く晴れた昼下がり。
(すべてを捨てなくてはいけないのか・・・)
闇夜のナイトメアの恐怖から開放され、唯一安心できる時間をリヴァースは、街外れにある小高い丘のところで過ごしていた。
初夏へ向けて力強く降り注ぐ日差しを、大地に根付く樫の葉が透明感ある黄緑色の光を放ち、リヴァースへと降り注ぐ。
うとうととしてる目にはドライアードがほほ笑んでシルフと会話しているのが見える。
リヴァースはそれを見ながら先ほどの問いかけを忘れ、ゆっくりと夢の中へと旅立った。
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・・・おまえが愛する人がいるのなら
わたしはその愛する人を殺してあげよう
おまえがこの世界を愛するのなら
わたしはこの世界を破壊してあげよう
なぜなら、おまえはわたしの破滅の象徴であり
わたしの野望を達するためのへ希望であるからだ ・・・・
同じ日の同じ空の下でそう心に秘める男がオランの街中を歩いている。
そう、あの人に悪夢を見せるために・・・
- Fin -
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