No. 00051
DATE: 1998/07/26 23:11:54
NAME: シェリル
SUBJECT: 幾つかの思惑(番外編)
これは、リヴァースが行ってしまう前の事。その頃のあたしは、悪夢に追われている少しでもリヴァースとセリカの力になりたくて。夜から朝にかけてそれぞれの所を訪ね、他愛もない話をする。そんな昼夜が逆転した生活を送っていた。そんなある日の出来事である。
「あっ、ほらほら、今日いい天気だよ♪」
なんとなく窓を開けると、心地よい朝の空気がセリカの部屋に流れ込んできた。朝の光が目に痛い程だ。セリカも窓辺にやって来て、眩しそうに目を細めた。
「いい天気だとなぁ・・・髪の染め粉がとれるんだが・・・・・・」
「そういや、どうして髪を染めてるの? 元のままの方が綺麗なのに」
ぽつりともらした言葉に素朴な疑問が浮かんで、思わず訊ねてしまった。セリカは本当は綺麗な赤い髪をしているのに、いつも染め粉を使って黒く見せているのだ。セリカは少し沈黙した後答えてくれた。
「それはだな、邦のアホウがいらんちょっかいかけてこない様にするためにパっと見はわからん様にしてるんだ・・。この間の盗賊共でバレたかもしれんが・・・。ま、あんだけ脅しておけば、大丈夫だろ」
「・・・そっか。ごめんね」
迷惑かけちゃったな、そう思った瞬間、一つ約束を守っていない事に気が付いた。
「あ、そうそう。あたし報酬まだ払ってないんだけど?」
守るだけ守ってもらったのに、なんてヤツなんだろうと自分で思う。
「あ〜。忘れてた。この間、すげぇ忙しかったんだぞぉ」
セリカは少し恨めしそう言った後にこやかに笑ってこう付け加えた。
「とは言え、好きでしたんだから奉仕活動としておくさ」
「駄目だよ。ちゃんと払う」
「ヘトヘトになってもしらんぞ」
笑いながらセリカが言った。
「だってそういう約束だったでしょ? 約束は守らないと♪」
「そうだな。じゃ、頑張って行くとするか!」
セリカは気合をいれるように首を鳴らし立ち上がった。
「うん♪」
思ったより孤児院の仕事は体力がいるものだった。さすがに少し疲れたので合間を見付けて休んでいると、小さな男の子が近づいてきた。
「ねーね、おねーちゃん?」
「うん? どうかしたの?」
男の子と視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「セリカにいちゃんとどーゆ関係なの?」
いかにも興味津々といった風に訊ねられた。
「・・・どういうって・・・・・・あの・・・その・・・」
そんな事を訊ねられるとは思ってもいなかったので、思わずつまってしまった。
「え〜。だって、セリカにいちゃんが初めて女の人連れてきたんだモン。聞きたい聞きたいききた〜い」
返事に困り視線を泳がすと、丁度荷物を運んでいたセリカが目に入った。
「セリカおにーちゃんに聞いてごらん」
責任転嫁も良いところだと思いつつ、にっこり笑ってそう答えた。男の子はそれで納得したようで、セリカの元へかけていった。
(セリカとの関係・・・か。なんなんだろう・・・?)
その小さな背中を見送りながら、自分自身に問い掛けてみた。
「聞いたよ。だから、教えて」
そのまましばらく考え込んでいたらしい。気が付けば男の子がいつのまにか戻って来て、問い掛けてきた。セリカはどう思ってるんだろう、と言う事がふと気になった。
「おにーちゃんはなんて言ったの?」
「言わないと教えて上げない」
男の子は無邪気な笑みを浮かべながらそう答えた。
「そっか。なら良いよ」
セリカがなんて言ったのか気になるけれど、これ以上この子に突っ込むのもなんだし、その場は引き下がった。後で本人に聞けば良いんだから、そう自分に言い聞かせて。すると男の子は目に涙を浮かべてさらに突っ込んできた。
「・・・・・おしえてよぅ」
(う゛・・・・・・)
こんな顔をされたら答えないわけにいかない。けれど、なんて答えたら良いんだろう・・・。しばらく答えに詰まっていたが、ふと思い付いた答えを笑みとともに口にした。
「知り合い」
(全てじゃないけど、間違いじゃないよね。確かに知り合いだし)
「へぇ・・・そうなんだ・・・」
その答えに男の子は一応納得したみたいだった。
「で、セリカは・・・ちょっと」
セリカの答えを聞こうと思った瞬間、男の子は近くに戻って来ていたセリカに向かって走っていってしまった。
「ね〜、ね〜、セリカ兄ちゃんは恋人、っていってたけど、あの人は『知り合い』だって。知り合いと恋人って、どっちが大事なの〜?」
「おわわわぁぁ」
思わずセリカを見ると抱えていた荷物を取り落としそうになって慌てていた。
(・・・・・・え?・・・)
呆気に取られてセリカを見ているとこちらをちらっと見て再び仕事に戻っていった。
その日の夕方。報酬の支払いも無事に終わり、セリカが宿まで送ってくれる事になった。
「昼間、あの子に言ったの気にしてる?」
自然と顔に悪戯っぽい笑みが浮かんでくる。
「・・?あ、あの事は・・ちょっとな。まぁいきなり言われた事だったから、びっくりして、とっさに答えたからな・・・」
しどろもどろになりながらセリカがそう、弁解した。その言葉を聞くと思わずセリカに抱き付いてしまった。自然と笑みがこぼれる。
「・・・・・・・・」
セリカが不思議そうな顔であたしを見下ろしている。
「? 何? どしたの?」
「いや、そっちこそ・・?」
あたしの豹変ぶりにセリカは面食らっているみたいだ。
「ん? そっちこそってなぁに?」
表情だけじゃなくていつの間にか声まで嬉しそうな声に変わってしまっている。
「いや、いきなり抱きついてきて、何か嬉しい事でもあったのかな、と」
訳が分からないと言った風にセリカが訊ねてくる。案外わかってて聞いてるのかもしれないけど。それに対しては満面の笑みを浮かべて答えた。
「うん。あったよ♪」
「俺にも教えろよ」
つられてセリカも笑っている。
「・・・内緒♪」
そう言ってセリカから離れ宿に向かって駆け出した。
「こら〜」
セリカの笑い交じりの叫びが夕闇迫る路に響きわたった。
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