No. 00052
DATE: 1998/07/27 00:07:14
NAME: プリム(黒)
SUBJECT: 黒き挨拶
【補足】この話はまだリーヴァスとラーフェスタスがオランにいるときの話です。
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「さて・・・今夜はどなたがお望みでしょうねぇ・・・」
漆黒の闇にかすかな星光がさす部屋の中、エルフの男は朦朧となっているハーフエルフの姿を見ながらかすかに笑った。
自称《かよわい平凡な一介のエルフ》しかし、彼はリヴァースに執着心をもつと共に自分の研究対象としている。
「・・・・・くくくく」
怪しいほほ笑みを心に浮かべた。今夜の実験協力者(生贄)をみつけたようだ。
「あの方の心の流れを変えられるほど気を許している同胞のお嬢さんとは、いいものが見れそうですねぇ」
悪夢の精霊を引き連れたサキュバスは、そっとエルフの女の夢をむさぼり始めた。
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「ここは・・・」
エルフは顔を上げて辺りを見渡すと、暗黒が広がる空間が広がっていた。
「!!」
気がつくと両手両足の自由は利かない。ロープか何かで縛られているようだ
すると、正面に光の直線が走り、やがて人影が光の中にあらわれる。
「だれ!!」
「・・・・・プリムか」
まるで息を吐くかのような小言をもらすと、ゆっくりとエルフへと近づく
エルフにはそれが誰なのか、もう判っていた。
光の道を歩く姿の後ろにちらちらと揺れる一筋の線。そして、エルフよりも短い耳。
「リヴァースさん?!・・・リヴァースさんでしょっ☆」
身を乗り出すような格好で親しみやすい口調で問いかけるが、
次の瞬間、エルフは言葉を失った。
鋭くにらむ目。返り血を浴びた衣類。そして、赤黒い液体が固まりつつある口。
「・・・・・・・・」
凍り付くエルフの表情をみてハーフエルフは含み笑いをした。
「・・・ど・・どうしたの!!・・・・リヴァースさんこれは何かの間違いでしょ!!」
「事実だよ。」
取り乱すエルフの問いかけにハーフエルフは冷たく答える。
「事実って・・・」
「いま、一人目を頂いてきたところだよ。見せてあげようか・・・」
そういうと、ハーフエルフは右手を高く上げ、精霊語を二言放つ。
すると闇が去り。周りがようやく見れてきた。
「!!」
エルフの瞳は大きく見開き、そして、見えない言葉が凍り付いた口から発する。
それを見てハーフエルフは、満足感に浸るような表情をして絶望に打ちひしがれたエルフを見ている。
二人の位置からそう離れていないところに、台に寝かされた人間の女性が悲痛な表情を浮かべている。
その両手、両足には鎖がつながれ、青白い肌に所々生々しい赤き血が点々とついている。
「・・・・・・・・プリム・・・」
女性の人間は赤黒い血しぶきを青白い顔いっぱいに浴びて、最後の一言をいう。
「ファイちゃん!!!!!!!!」
エルフ語の悲痛な叫びがあたりを包む。
ハーフエルフはそれをみて
「プリムの良きパートナー、フェイの心臓を先ほど頂いた。まぁ、人間はこの程度の味か・・・」
と、エルフを見ながら笑う。
「よくも!よくもよくもよくも!!」
激しく体を揺らし狂ったようにエルフは言葉を放つ。
「ふふふ。それではそろそろ、エルフの心臓でも頂こう」
「!!・・・やめてー!!リヴァースさん!やめて!!!」
大粒の涙を流しながらエルフは哀願する。
しかし、ハーフエルフはそれを無視するかのようにダガーをもち、ゆっくりとエルフを包む衣を切り裂き始めた。
「絶対に違うわ・・・リヴァースさんじゃないわ!!お願いっ!リヴァースさんやめてっ!!!」
「・・・・・・・・・・」
エルフの白き肌が見えたときダガー持つ手が止まった。
そして、ゆっくりとハーフエルフはおびえるエルフの顔を見てにっこり笑った瞬間。
「ヴッ!!!」
エルフの胸にダガーの刃が深く入り始めた。
「こんなの・・・リヴァースさ・・・・ん・・・・・・じゃ・・・な・・・・」
遠ざかる意識の中、エルフが放つ最後の言葉は、ダガーを切り裂くハーフエルフには届かなかった。
(やめてくれ!! やめてくれ!!!)
エルフの凍り付いた表情を見たときからリヴァースは悲鳴を上げいた。
(やめてくれ!!やめてくれ!!やめるんだぁ!!!!)
気が狂ったように制止の言葉をもう何十何百も並べただろうか。
しかし、いまみているハーフエルフにはその声は届いていない。
(やめてくれ・・・・・やめてくれよ・・・・・・・・・・・やめるんだぁ!!!!)
エルフの断末魔や飛び散る熱い液体やゴツゴツと引っかかるような感覚など、別の場所からこの2人を見ているのに、自分がやっているかのように感じる。
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(ふふふ・・・かなりいい色が出ていますねぇ。)
同じ頃、リヴァースの部屋にて
「うっ・・・・・・」
苦痛な顔をしているリヴァースをみて、まるで芸術作品を見るかのようにラーフェスタスは見ている。
すでにリヴァースにはサキュバスが楽しそうに踊っている。
リヴァースの一部となっている感情の精霊は、苦痛に耐えているリヴァースの精神に、極上の色を醸し出している。
(本当、今夜の協力者には感謝しますよ。)
悪夢の海に溺れている姿を見てラーフェスタスは、至極満悦した表情で見ている。
しかし、次の瞬間、プリム側に行っているのサキュバスがふっと消えた。
(おや・・・?これは、変ですねぇ。)
リヴァースの上で楽しそうに踊っているサキュバスを戻し、風のように外へと出ていった。
「ふっ!・・・・はあ・・・・はあ・・・・」
悪夢から解放されたリヴァースは額に汗をかいていた。
しばらく、荒い息が続いていたがやがて、それもおさまると
「今日は・・・プリムか・・・」
うちひしがれたような顔をして壁によりかかった。
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(おやおや、気づかれてしまいましかな?・・・フフフフッ)
ラーフェスタスは闇を切るように走っていながら、プリムのいる宿屋へと向かっている。
「あら、この真夜中結構お忙しそうですねぇ・・・」
細い路地からラーフェスタスへ言葉が飛んできた。
(おやまぁ・・・・)
足を止め、声の主へと視線を投げる。
すると、
「くすくすくす・・・」
ちょっと高飛車な笑いを置いて、細い路地の影はフッと屋根に飛んで行く。
ラーフェスタスはゲームを楽しむかのような表情でその影を追いかけ始める。
影はまるでラーフェスタスを誘うかのように街の外へ、そして森へと向かっていく。
森に入ってしばらく追いかけていたが、その影は突然闇に消えてしまった。
ラーフェスタスは近くにいる精霊をすべて呼びその存在の居場所を探すように指示をしているが、いっこうに精霊からの答が返ってこなかった。
「そろそろ、姿を見せてはいかがですか?我が同胞。森の精霊を司る者よ」
目をつぶり、余裕のほほえみを口元にみせてラーフェスタスは言う。
「あら・・・同族は失礼な・・・」
「ほう・・・・ウィンドボイスですか」
「ええ、あなたのような方は信頼できないのでね」
と、声が響いた瞬間、シルフの精霊(ミュート)が襲ってきた。
ラーフェスタスは笑みをもってシルフの精霊をはね飛ばす。
「これはこれは、とんだ間違いを・・・私は平和主義者でしてねぇ。」
髪をかき揚げながら正面に向かって言う。
「あら、平和主義者でも争いをする方も居てよ。そうファリスのようにね。」
「おもしろい冗談ですね・・・私はエルフですよ。」
すると闇の向こうから徐々に姿が現れていた。
長髪が歩く度に左右に揺れ、ラーフェスタスと同じ長い耳をしている。
(これはこれは・・・)
ゆっくりとその影へ御辞儀をする。
そう、先ほど悪夢で襲ったエルフとは唯一違う点。それは、肌が黒いこと・・・
「失礼・・・闇のお方でしたか。暗黒神の助けがなければ何もできない、哀れなわれらが同胞の慣れの果ての方でいらっしゃいますね・・・くすくす。」
「くす・・・先ほどはいい夢をありがとう」
余裕の笑みを浮かべながらダークエルフはいう
「ほほぅ。エルフであってダークエルフでもあるんですねぇ・・・同胞のお嬢さん」
「あら、わたしには、ちゃんとプリムという名前があってよ」
「そうですか。これは失礼を。お嬢さん。」
そういいながら、ラーフェスタスはプリムの感情の精霊をふれてみた
(負の精霊を宿しているとは、これはまた珍しい。)
自分の精霊に接触しているのを感じたプリムは、バックステップをとって
「あらあら、お行儀の悪いおぼっちゃんですね。」
「ちょっとしたご挨拶をしただけですよ。」
「あなた、挨拶のやり方はご存じないのですか?」
「そうですねぇ。お互い違う種族ですから・・・くすくす」
次の瞬間、プリムの目が一瞬赤く光り、手から邪悪な紫色をしたモヤ(ポイズン)が放たれ、ラーフェスタスにめがけて飛んでくる
「ほー、これが暗黒魔法ですか・・・これはこれは・・・良い物を見せていただきましたよ。くす」
余裕の表情でモヤを受けている。
しかし、その表情から、呪文の効果が利いている様子はない。
「これは先ほどの夢のお礼ですわ。」
「そう、受け止めておきますよ。」
「あら、ではもっと刺激的な方がよかったかしら?」
プリムは近くの大木に寄りかかる。
「さぁ・・・いかがでしょう」
ラーフェスタスは相変わらず余裕の笑みを浮かべる。
「では、この次お会いしたときはあなたの頭の自由を奪いましょうか?」
「その機会があれば・・・ですね」
「・・・ま、ないとはいえませんわ。あなたに良い話をしに来ましたから」
「これはこれは、珍しいことですねぇ」
「くす。ダークエルフがエルフに依頼するのは珍しいことかもしれないけど、あなたにとっても悪くない条件と思うわ」
ラーフェスタスはゆっくりと髪をかき揚げ
「条件次第ですねぇ」
プリムは腕組をして、ラーフェスタスへ近づきながら
「負の精霊とあなたが一番ほしがっている者」
「ほぅ。」
「あなた、あの子が気になっているんでしょ?もう少しそばにいらせられるようにしてあげるわ」
「で、負の精霊とは?」
「私の封印を解くため・・・」
プリムはラーフェスタスの目の前に立ち止まる。
少し間をおいてラーフェスタスは不適な笑いをしながら
「いいえ、せっかくのお申し出、申し訳ないことですが、ご遠慮申し上げますよ。あの方とわたしの関係は、他の人に介入されるようなものではないのですよ。あえて距離を置くというのも、えもいわれぬ切なさがあり、それもまた快感なのですよ。くすくすくす。」
「あら、そうですか、残念だわ」
と、言いながら鋭くラーフェスタスをにらむ
「そういう事でご理解いただけると、ありがたいとおもいます。」
「あなたの感覚には、理解する気はないわ。ま、あなたが変態であるというのは理解できますけど。」
プリムも不適な笑いをしてゆっくりと後ろへ下がっていく
「やはり、読みの浅いあなたに、私の至上の喜びを理解していただけませんでしたか・・・可哀想に・・・」
と笑いながらしかし目は鋭くプリムを見ている
プリムは姿を消しながら
「そうねぇ・・・あなたの小さな喜びに浸っているような愚かな者ではないのでね・・・・・」
と言葉を返し、闇に消えた。
後に残る森の闇と葉がシルフの吐息で揺れる音しかない。
しばらく、プリムの消えた闇をじっとにらんでいたが
(なかなか興味深いお嬢さんでしたたねぇ。わたしのあの方ほどではありませんけど。くすくすくす。)
と、心に呟き森の出口へと向かっていく。
プリムは森を出ていくラーフェスタスを大木の枝に乗って見ていた
(まだ、気がついていないようだわね。ナイトメアを使って偶像の私に負の精霊を呼びだしたおかげでここにいられるのよ。メイの封印を解くためには負の力がまだ必要だけど、おぼちゃんの趣味のおかげで簡単に負の精霊をためられるのよ。だから、この取引が駄目でも私の有為な状況にはかわりないのわ。わかったかな?ラーフェスタスのおぼっちゃん)
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陽が上がり、白きエルフは森の中で朝日を浴びていた
「うん??・・・・・・ここは??」
ドライアドのささやきに目を覚ましたプリムはもう一度あたりを見渡してみる
「?!・・・・・あれーっ☆!何で私、森にいるのっ?!」
きょとんしたプリムの姿には先の夜に見せた姿はもう無い。
「プリムーっ!!」
「あ、フェイちゃんだっ☆」
すぐに立ち上がり、声の主であるフェイの元へ走って行った。
後に残ったのはプリムの足跡と、闇に潜む陰謀だけだった。
- Fin -
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