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No. 00053
DATE: 1998/07/27 21:48:43
NAME: アーディ、ガーディン
SUBJECT: 夢の残骸
(注:この文の語り手はアーディです。また、アーディ発言の宿帳「人捜し」、エピソード「きっかけ」(『過去の発言』中にあります)が背景になっています。読まなくても大丈夫なように極力つとめましたが・・・)
驚いた。
丸められた背、乾いた肌、ぼさぼさの髪に手入れのされていないヒゲ・・・。面影は変わってはいなかったが、まだ30にもいってない男が、そこまで老け込むとは思わなかった。
その男・・・マクトリーは、思わず方まっちまった俺らに気づくと、にやりと笑い、かすれた声で、言った。
「・・・アーディにガーディンじゃねえか。なんだってオランに?」
マクトリーは俺らがまだ冒険者になる前に知り合ったシーフ。パーティがレックスで全滅し、自分も片足を無くし、喉をつぶすという怪我を負ったため、故郷のザインに戻ったはずだった。
故郷にいるはずの奴をガーディンが見かけたのはどれくらい前のことだっけ。それから俺はずっとオランの街をかけずり回っていたんだけど、見つけることはできなかった。
しかし、これで最後と思ってウィルに調査を頼むと、拍子抜けするほど早く結果が出てきた(こんなことなら最初っから頼めば・・・(苦笑))
俺とガーディンはマクトリーが見かけられたという北地区裏通りの酒場へ行った。
立て付けの悪い扉を開け、店内を見回すと、一番隅の四人掛けのテーブルを一人で陣取って、奴はいた。
「そいつはこっちのセリフだろっ!!里に帰ったんじゃねえのか、てめえ!!」
「心臓止まるかと思ったんだぜ、通りで見かけたときは!!」
口々に飛び出す俺らの質問(?)を、マクトリーはニヤニヤ笑って受け流す。雰囲気はあっという間に変わっちまったが、クセはそう簡単に直りはしない。
最初はそういう奴の仕草が、ガキ扱いされてるようで、ムカついてたんだよな・・・。
「・・・まあまあ、まずは静かに飲もうや・・・姉ちゃん、こいつらに俺と同じの頼む」
奴の向かいの席に瓶とグラスが二つずつ置かれた。進められるままに、席に着く。
「こいつが西通りで見かけたっつうから・・・かなり探したぜ。ザインに戻ったんじゃなかったのか?」
「帰ったところで、俺がやるこたねえよ」
「・・・そっか」
最初の勢いが収まると、俺もガーディンも途端に無口になった。言いたいことは山ほどあったんだけど、言うべき言葉が見つからない。頭の中がごっちゃになってて、まだ自分の酒を注いでいないことさえ気づかなかった。
「・・・じゃ、乾杯でもしようや。再会と・・・フィレスの冥福も祈ってくれ」
さらに混乱した。奴の仲間のフィレスは、レックスで行方不明になってたんじゃ・・・。
「・・・いったんパダにも行った。番人亭の親父に会ってきたら、俺達の最後の遺跡に行った冒険者が、あいつらしい死体を見つけたんだと」
そういって奴は無表情で俺らに酒を注ぐ。この酒場では、一番高いものだった。
「・・・なんだ・・・遺跡、荒らされちまったのか。俺らが行こうと思ってたんだけどよ」
湿っぽい雰囲気を変えようと、わざと明るく言った俺のその言葉に奴は片方の眉を上げた。
「・・・アーディ、おめえ、やっぱり冒険者になったのか・・・」
「まあな。このカッコ見りゃわかるだろ?」
「兄貴だけじゃねえよ。オレもチャ・ザの声が聞こえるようになったら冒険者になる。あんたらの挑んだ遺跡、オレたちが代わりに謎を解こう、と思ってたんだけど・・・先越されたか」
「・・・バカかお前ら」
「バカならてめえのバカ引き継いだんだよ。第二のリジャールになるって言ってたのは誰だっけ?」
それを聞いて、奴はククッと笑った。
「・・・真に受けてたのか、そんなたわ言」
「酒飲んではしょっちゅう言ってたじゃねえか。俺の夢はギルド幹部のようなちっぽけなもんじゃねえ、ねらいは玉座だ。リジャールや剣匠ルーファス、俺はあいつらに肩を並べてみせる・・・一字一句覚えてるよ。この暗示、俺らには結構強かったぜぇ?」
「・・・夢ねえ・・・そういや、そんなことも言ったな。ガキじゃねえんだ。んなことムチャだってくらい気づけよ」
「俺らは本気だぜ。ま、王は難しいかもしれないけど、いつかアレクラストに名を広めてやる」
いきなり、大笑いされた。
「そこまで笑うこたねえじゃねーかっ!あんただって似たようなこと言ってただろ!!」
「・・・待て、苦しい、痛めた喉にこりゃきついぜぇ?」
奴のせき込むような笑い声は止まらない。
「・・・こいつは、責任重大だな。二人の人間の人生バカな方向にむかわせちまったのか、俺達」
「バカバカってな、あんたもそのバカやってた奴じゃねえかっ!
「・・・そいつは言えてる。確かにあの時は、人生最大のバカだった」
こいつが・・・こんなこと言うなんて、信じられなかった。
奴は一通り笑ったあと、例のニヤニヤ笑い・・・こころなしか、さっきよりずっと暗いものに見えた・・・で言った。
「・・・この先もバカやってくつもりならな、お前ら、忠告してやる。・・・未来に期待すんな。くだらねえ」
「マクトリー!てめ・・・ッ!!」
「教えてやろうか?俺達の最後の遺跡に何があったのか・・・ステュアートは魔物からくらった毒が回って死んだ。ソネットとシリカは幻影にコロッとだまされて仲良くお陀仏。フィレスは俺が解除に失敗した罠にひっかかって、あとできた冒険者に見つかるまで密室でひからびてたんだ。そして俺はこの始末。そういう犠牲を払ってまで俺達が見つけようとしたのは・・・魔力が切れて使いもんにもならねえ、さびたナイフ、一本だったんだよ!!」
夕立が降ってたが、俺らは構わずに通りを歩いた。途中、腹いせに途中の街路樹を蹴ったときに足首をおかしくしたのか、左足に鈍い痛みがある。
マクトリーは、冒険でためた宝を売って、その金で暮らしていた。「文字通り、夢を売る商売ってね」と笑った奴に、ガーディンがすかさずつかみかかろうとしたが、止めた。こういうときにキレるのは普段なら俺の方がずっと早いはずなんだが、何もする気になれなかった。
チャ・ザ神殿に向かう通りでガーディンと別れ、ねぐらの宿に向かった。
すぐやむかと思った夕立はまだ降り続いていた。
そのために通りに人がほとんどいなかったのがありがたかった。
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