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No. 00056
DATE: 1998/08/06 01:55:58
NAME: ウィル
SUBJECT: 限りなき戦い
それは性悪ウィントの突然の一言で始まった。
「ウィル、仲直りしない?」
「・・・あ?」
何の心境の変化が有ったかは知らないが、突然ウィントが発した予想外の発言に自分の耳を疑い思わず間の抜けた声で返事をしてしまった。
「だから、この前の悪戯の事だよ。悪かったなぁって。」
「・・・また何かたくらんでいるのか?」
「だから、ただ謝る機会が見つからなかっただけだって。」
などと言いながらも表情にはいつもの薄笑いが浮かんでる。本人に反省の色は全くないようだ。
・・・このままやられたまま許すこともないし・・そうだな・・・。
「・・・まぁ良い、じゃあ仲直りの印にカクテルでも作ってやろう。」
「さんきゅっ。何を作ってくれんの?」
「まぁ・・待ってな。」
微かににやりと笑い厨房の奥へ入っていく。
・・・さて・・・やるか。
二つのグラスにドワーフキラーを注ぎ、その上からトマト・ジュースを満たす。
それに軽く塩・胡椒をふりかけ、タバスコを一滴だけ入れ・・・
・・・しばらく考えて・・・片方のグラスにどぽどぽとタバスコを流し込んだ。
そしてばれないようにマドラーで念入りにステアする。
・・・よし。これで良い。
二つのグラスを持ってカウンターに戻ってくる。
「ほら、出来たぞ。特製カクテル“ブラッディーメアリ”だ。」
「特製?特製って何が?」
「少しレシピが違うだけだ。まぁ飲め。」
「その前にウィルが飲んでみせろよ。」
ウィントは明らかに疑いの表情を見せている。そこで目の前にあるグラスを手にとり半分ほど飲んで見せる。
「うむ。うまいぞ。さぁ飲め。」
「・・・・・・・・。」
疑いの表情は消えなかったが覚悟は決めたようだ。
・・・ごっくん・・・。
「・・・・・・ぎ・・ぎやあああああああ!!!
なんだよ!これ!!すっげー辛いぞ!!」
「・・・だから特製だと言っただろう?」
「てんめえええええええ!!それでもギルド幹部か、こるあああああ!!!!」
「・・・ふん。この前の悪戯のお返しだ。これで前の件は許してやるよ。」
「ちくしょー!誰か、水ーっ。」
酒場のあちこちから、ウィントを笑う者、心配して水を持ってくる者、そのカクテルを味見しようとする者、俺を注意する者が集まる中、
その中に一人冷静に酒を飲んでいる者もいた。
「ウィル、ワイン頂戴。」
「あぁ、ワインだな。・・・ちょっと待ってろ。地下室に取りに行って来る。」
と、騒がしいウィントを背中にひそかに軽い足取りで階段を降りていく。
「・・・ワイン、ワイン・・あった。これだな。」
一人の場所に来るとどうしても顔が緩んでくる。
「しかし、ウィントの奴、良い気味だったな。ふふ。」
ワインを一本握りしめ、深呼吸を一つしてから階段を昇っていく。
カウンターに戻るとウィントがにやにやしながらこっちを見ている。
「ウィル、全部飲んだぜ。仲直りにと出されたものをのこしちゃ悪いからな。お前もちゃんと全部飲めよ。」
「あぁ、ちゃんと飲むさ。」
・・・あのカクテルを全部飲んだのか。
ウィントの奴、もしかして本気で仲直りしようとしているのか。
・・・だったら悪いことをしたか・・。
罪悪感を感じつつ、目の前に置いてある自分のカクテルに口をつける。
・・・額から大粒の汗が噴き出して来るのが分かる。
目の前でウィントが笑いをこらえている。
「飲・み・干・し・て・ね♪」
・・・ぶーーーーっ!!
思わず口に含んだカクテルを目の前に吹き出す。その場所にはカクテルにまみれて真っ赤に染まったウィントが居た。
「うわっ!きたねぇっ!」
「・・・貴様・・・すり替えやがったな。」
「へへっ、自分で作った特製カクテルの味はどうだい?」
「・・・ふん・・・どうやら、貴様と仲直りなど出来そうにないようだな。」
「まっ、そう言うことだな。」
・・・どうやら、こいつとは長い付き合いになりそうだな・・・
俺はウィントに手ぬぐいを投げつけた。
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