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No. 00058
DATE: 1998/08/10 13:37:55
NAME: ルシア
SUBJECT: 失われた記憶
「・・・・・・・・・・・・」
闇が目の前に広がっている。
「どこなの ここは?」
闇なんかじゃない。闇だったらそれを作っているシェイドの力を感じるもの。
「・・・・・・あ!!」
目の前に・・・ううん、はるか前方に・・・光が小さく姿を見せた。
「あの光?・・・・・・」
私はそこに向かって飛んだ。瞳いっぱいに光が広がって、眩しくて、思わず目をつむった。
目を開けるとそこに女の子がいた。5、6歳位だろう。女の子はじっとこちらを見つめていた。
この子は誰だろう?
「パパぁ〜!あの人が目を覚ましたよぉ〜」
女の子は私が目を開けた事に気づくと外に向かって大きな声で叫んだ。
ちょうどその時、床が大きく揺れ、全身に痛みが走った。
・・・床が揺れている。天井もホロだし・・・ここ、馬車なのかな?
「おお、気がついたな」
自分がどういう経緯でここにいるのか思い出そうとした時、野太い声が掛けられた。
声のした方に視線を向けると、口髭をたくわえた30代後半と思える男が馬車の中に入ってきた。
また知らない顔だ・・・ここはどこなんだろう・・・?
「あの・・・・・・ここは・・・・・・?」
「もう動けるとはさすがは冒険者というところか」
馬車の中に入ってきた男がはっはっはと愉快そうに笑う。知らない顔だがどこか暖かい笑い顔だった。
でも一体誰なんだろう?ここはどこなんだろう?これからどうなるんだろう?
不安が胸を渦巻く。
「あ、あの・・・・・・?」
「ん?ここはエレミアからオランに向かう馬車の中だが」
「えっ・・・?」
なんでそんなとこにいるんだろう?私は・・・・・・?
「・・・・・・名前はなんていうんだ?」
「えと・・・私は・・・・・・・・・えっ!?」
思い出せない。私は・・・・・・誰!?
「傷の治療をしないとな・・・」
男は私が困っているのに気づき、ニコリと笑うとそう言って馬車の外に向かって誰かを呼びはじめた。
やってきたのは馬車の護衛に雇われている冒険者のプリーストだった。まだ20にも満たない若い男のようだ。
「気を楽にして下さいね。・・・・・・慈悲深きマーファよ、この者の傷を癒したまえ」
男の癒しの力により身体の痛みがまるで嘘のようになくなる。
「・・・ありがとう」
癒しを掛けてくれたプリーストに微笑むと当然の行いですからと言ってさっさと出て行ってしまった。
同じパーティーというわけではなさそうだ。
・・・・・・私は何者なんだろう・・・・・・
「ねぇ・・・私、なんでこの馬車にいるの?」
さっきの女の子に聞いてみる。
なかなか要領の得ない女の子の話をまとめると、私はエレミアとオランを結ぶ街道で一人、倒れていたそうだ。
荷物などは何も持っておらず、銀製のブレストプレートを着込み、同じく銀製のレイピアを握っていただけ
だったらしい。それをこの馬車の人が見つけてくれ、放っておけず、拾ってくれた。これが30分位前の事。
馬車の隅には確かにレイピアとブレストプレートが置かれてある。だが、自分の持ち物という感じは受けない。
女の子が私に名前を聞いてくるが・・・・・・私には答えられなかった。
少し考えてみる。
まず私は傷を受けて気絶していた。しかし銀製のレイピアなど高価な物が残ってるということは物盗りにあった
わけではないと思う。それにも関わらず、荷物がないという事は野営中に仲間とはぐれてしまって途中で倒れたのだろうか?だったら仲間が探している筈だろうけど・・・そんな気配もない。もしかしたら仲間が全滅するほどの戦いがあったのかもしれない・・・・・・それにしては私自身が軽傷すぎる・・・・・・何がどうなってるんだろう?
いくら考えて見ても何もわからなかった。
「山賊だ!旦那は馬車に隠れててくれ!」
外から男の叫び声が聞こえる。あたりには緊張した空気が張り詰めた。さっきは暖かな笑顔をしていた男が青い顔で入ってくる。
程なく、外からは鋼のぶつかる音や断末魔の悲鳴が聞こえてくる。
男は娘を胸に抱え身じろぎ一つしない。・・・怯えているんだろう。
「てめぇら・・・金目の物を出して、黙って隅にかたまってろ・・・大声出したりしなけりゃ、そっちのガキと
おっさんは見逃してやる。」
いつの間にか山賊の一人が馬車に入ろうとしていた。右手にはハンド・アックスが握られている。
馬車に登りながら、男は下卑たうす笑いを浮かべ、粘りつくような視線を私の腰や胸に絡めてくる。
身体が自然に動き、馬車に入ってこようとしていた男に体ごとぶつかっていく。
男は馬車の外に投げ出されるが勢い余って私まで馬車から飛び出てしまった。
男は地面で頭を打ち、少しふらつきながら立ち上がる。
「・・・気が変わった・・・死ね!」
ハンド・アックスを構え、狂気にも似た光を目に浮かべながら、立ち上がったばかりの私に近づいてくる。
「夢の精霊よ、この人の目に砂をまきなさい!夢の中で遊ばせなさい!!」
言葉が口から自然と紡ぎだされ、男はあと3歩のところで昏倒した。
あたりを見ると元々護衛として雇われていた冒険者達があらかた山賊を倒し、
残った山賊も皆逃亡して行く所だった。
オランにつくとキャラバンは冒険者の集まる店を教えてくれた。ひょっとしたら仲間がいるかもしれない
淡い希望を胸に店の扉を開けたが・・・そこには誰もいなかった。
しばらくすると何人かの人が集まりはじめた。
私を知っているという人はいなかった。でも、みんな初対面だというのに本当に親切にしてくれた。
私はそこでルカという女性に名前をつけてもらった。
私の名前はルシア・・・
本当の名前じゃないけど今はこれが私の名前・・・
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