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No. 00066
DATE: 1998/08/27 07:10:34
NAME: レイシャルム
SUBJECT: 「おやすみ、ピークス」
語るは我、吟遊詩人・レイシャルム=ニース…。
ここに語るは、ある事件の物語…。
暗き闇、なお暗き夜、その時は来たれり…。
人の喧騒消えし、暗く寂しき宿の中、3つの影があった。
1つが男。
その眼光は鷹の如く、針の穴も撃ち抜く腕持ちし野伏なり。
もう1つが仮面の者。
その仮面堅く、人寄せ付けず、その素顔知る者なき道化師。
そして我。
時を刻み、文字を刻み…そして冒険を伝説へ紡ぐ吟遊詩人。
では回そう、彼らの運命の歯車を…。
§
それは闇の中、始まる。
仮面の者、こう告げる。
「ボクを待っていたかい、狩人よ」
それに男は返す。
「お前を待っている義理はない」
宿の中から窓を開ける。
そして仮面の者、こうも告げる。
「…いい夜だ。 闇に闇重ね、霧の中の三日月。 美しい…」
…さらに、こう付け加える。
「…死ぬにはもってこいの夜。 そうは思わないか…?」
男、それを聞いてこう返す。
「朝日の昇らぬ夜はない…それにな…」
付け加えて、男。
「そう言うのは貴様らだけだ、異形の者よ」
…笑う声。
思いの外、高く聞こえるその声。
そして。
「…いつから気づいていた?」
男は答えない。
構わず、仮面の者は続ける。
「でも…ボクの気持ちには気づいていなかったね」
仮面に手を伸ばす。 ゆっくりと、蠢くように。
「…この仮面、外すときが来たようだね」
聞こえる声は女の声。
その手は正確に…堅き仮面の封印を解いた…。
現れるのは美しき女。
その瞳は、血のように、炎のように紅き色だった。
「…吸血鬼か」
男はゆっくりと弓を構える。
自らも腰の長剣をすらりと抜き放っていた。
「ふ…我が心、すでにお前の物だというのに…」
彼女はそういって唇を舐め上げた。
彼女は語る。
自分がある「侯爵」の情婦だったこと。
その「侯爵」の死が、彼女の受けた呪縛からの解放につながったこと。
そして、男が彼女の愛した「侯爵」に生き写しだということ…。
「そろそろ我が食事の後が見つかることになるだろう…無駄な時間は使いたくない」
女は誘う。
「さぁ、我と共に生きようぞ。 永久の時を生きることが出きるのだ」
女の言葉は止まることなく紡がれる。
「共に悠久の時の中で密のしとねを味わおうではないか…」
「…断る。」
その声だけが二人の間にあった。
「何故に? お前も狩人なら獣を狩るだろう、獣を喰らうも人を喰らうも変わりはなかろう?」
男は答える。
「…人は何かにすがって生きている」
さらに続ける。
「…何かにすがるのは容易でない。 自らの弱みになるからだ」
「…俺はそれが一人になることだった…それだけだ。 これからも一人で生きていく」
それを聞き、女は吠える。
「そんな、そんな理由で私の求愛を不意にするのか…!」
静かに、男が答える。
「俺は孤独を好む。 …俺が生きる限りだ」
「…なぜ」
女の声が怒気を含み、その身体から威圧感が漂い始めた。
「なぜ我が愛を受け入れない!」
答えない。
静かに弓に矢をつがえる。
その矢は月の光を浴びて、鈍く光っている。
刹那。
女は跳びかかってた。
猛禽のような鋭さと、肉食獣の如きその疾さで。
「お前の血が、全てが欲しいっ! ホシイホシイホシイホシイホシイホシイッ!!」
既に人の声とは思えぬ声となっていた。
彼女の牙は鋭く、彼の首筋を狙い余さずに襲いかかった…!
次の瞬間。
宿の中に閃光が走ったかのように見えた。
光―銀の矢―は女の額を穿ち、窓に抜け消えていく。
…倒れる音が周囲に吸い込まれていった。
§
女の身体が既に滅びかけていた。
…死して屍が残らぬこと…吸血鬼になることによって生まれる代償である。
女は息も絶え絶えにこう言葉を放つ。
「やはり…死ぬにはもってこいの…夜でしょう?」
男は答えない。
ただ静かに窓に立つ。
「…夜ではない」
不意に男がこう漏らす。 続けて…。
「…眠るのにふさわしい朝だ。 違うか?」
そういって男はまた沈黙に入った。
ふっ…と笑う声が聞こえる。
女の漏らした微笑だ。
「そうね、その通り…」
窓から差し込む日の光が、女の身体を浄化し塵に帰す…。
女は笑いながら、こう言った。
「さぁ、私の最後の芸だ。 この道化師の身体、見事に消して見せようぞ…」
壁に掛けられたカーテンが、大きく揺れ動く。
次に彼女のローブがはためいたときには、そこには何も残ってはいなかった…。
室内に沈黙が不意に訪れた。
何もかも静かになった、その宿の中…。
男がそこにいた。 酒が注がれたコップが2つ。
「おやすみ、ピークス…」
男の口から女の名前が紡がれた。
飲んでいた酒は苦い味がしたそうだ。
§
…私もこの先は知ること無きところ。
これでこの事件の話は終わりにしよう。
(追記…この話の内容はその現場を見ていたレイシャルムのPLが、
自分の記憶をたどって書いたものですので、多少…いやかなりの間違いがある
可能性があります(^^; そのへんはご了承ください(笑)
今度書くときは内容コピーしてちゃんと書きます(T_T)。
あと、ハースPLさん&ピークスPLさん、こんな文章でいいんでしょうか?
何らかの問題があったら、文責は私、レイシャルムPLにありますので(^^;)
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