No. 00069
DATE: 1998/09/11 23:18:57
NAME: ルルゥ
SUBJECT: 碧眼の逃亡者
オランの街を、僕は走っていた。
何故走るのか、それは追われているからだ。
「止まりなさい!」
すみません、止まるわけにはいかないんですっ!
「止まってください、頼むから!!」
いやですっ!!
僕は心の中で返事をしながら、必死に走った。やがて、追手の気配が遠ざかる・・・。
・・・・・・。
「・・・はああ・・・」
僕は細い裏路地に隠れて、ほっと胸をなでおろした。汗がひくにつれ、高揚感がふつふつとわいてくる。
僕は自由だ!
++
僕の部屋の窓には、冷たい鉄格子がはまっていた。
その理由をきくと両親は、「お前を護るためだ」とだけ答えた。
ファリス神殿の一角にあるこの家に、いったいどんな敵がくるというのか?
その問いには、誰も答えてくれなかった。
外出するには、必ず父の部下である神官戦士が護衛についた。門限が厳しく決められ、暗くなる前には帰らないと、部屋から出してもらえなくなった。僕の生活は自然に、神殿と家を往復するだけのものになった。友達なんて、できなかった。
だからといって、両親に反抗する気にはならなかった。二人とも、僕をとても、愛してくれていたから。
でも・・・・・・。
ルチアンナ。
いなくなった僕の双子の妹。
僕と同じ青い目の少女。
いや、いなくなったのではない。死んだのだ。彼女の墓は、墓地の片隅にひっそりと今も建っている。そう、十年前から変わらずに。
だけど僕は知っている。
あの日ルチアは、「何か」に連れ去られたのだ、と。
そして、両親はそのことをひた隠しにしているのだと。
そして。
その「何か」をいまだに、両親は恐れているのだと・・・・・・。
僕は知りたかった。
ただ、ほんとうのことを・・・。
たとえそれが、僕の全てを狂わせても。
++
(ファリスよお許しください、他に方法がなかったんです)
僕はざんげの言葉をつぶやきながら、「きままに亭」へと歩き出した。
昨日こっそり家を抜け出して行ったあの酒場しか、今の僕にはあてがなかったからだ。それに、あそこには僕よりもずっと物を知っている人生の先輩達がいる。
彼らなら、きっと僕のちからになってくれる。
歩きながら、僕はふと空を見上げた。
ひとりきりで見る鉄格子も壁もない空は、痛いほど青かった。