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No. 00075
DATE: 1998/09/16 19:38:26
NAME: レド
SUBJECT: 風が吹けば桶屋が儲かる
こんこん。
扉を叩く音がした、おそらく弟子のフェンか、査察部門の魔導師。
いやまてよ、最悪の場合、あの図書館の女かもしれん。
「どうぞ」と口で言いながら、消滅した本のことを考えていた。
私の予想に反して、下卑た男の声が聞こえてきた。
「先生ぇ、夜分遅くに失礼しますよぉ・・・へへ。」
今日は、その日だったかな、と考えてみるが、違う気がする。
「今日は約束の日だったかな?。」
私の問いに答える気がないのか、聞いてなかったのかは、
知らないが、男は話し出す。
「いえね、今日は取引じゃないんですわ、先生。」
懐から、ごそごそと何かを取り出すと私に向けてつきだした。
少年の絵だ。
「先生、知ってますよねぇ、このルルゥっていうガキを。」
内心、少し困ったことになったな、と思いながら、事実を言うことにした。
「行きつけの酒場で、知り合った子供だ。困ってたので助けてやった。」
くるくると、絵の描かれた羊皮紙を器用に巻きながら、男は言う。
「ずばり、言いましょう、これ以上手を出さないでもらいたいんですよ、先生。」
人相書きを鞄にしまうと
「ま、取引を中止したいんなら、別ですがぁね。」
と付け加えた。
ファラリスか・・・。
清濁入り交じった、この大都市で、少なからぬ力を持っているのは承知の上だがまさか、ここまで結束が堅いとは思わなかった。
この調子だと、このオランに六つ目の神殿があるというのは、本当らしいな。ルルゥ坊やは組織にねらわれてるって事か、やっかいだな、
今現在、実力を持つだれかに、ということか・・・。
「そんなに信者同士の仲がいいとは知らなかったよ。」
少し自嘲気味に私が言うと。急に男は真剣な面持ちで話し出す。
「冗談じゃないんですぜぇ、先生。あんたが、いや、魔術師ギルドの導師が敵につくとなっちゃあ、仕事につく奴だって違って来るんですよっ。」
「そしたら、この闇商人ヨーグだって、大損だ。なんだって好きこのんでそんな危ない仕事する奴がいるもんかね。」
すこしからかうように、いってみる。
「じゃあ、やらなきゃいいじゃないか、ヨーグ、ん?。」
「そう言うわけには、いかねぇんですよ、こっちはこっちの、しがらみがありますからね。」と渋い顔をする。
「・・・先生、あっしがここに出入りしてることだって、バレたらやばいんでしょう?。」プレッシャーをかけてくる、ヨーグ。確かにファラリス信者を出入りさせてるなんてバレた日には、破門間違いなし、どころか、下手すると殺されるかもしれん。・・・こいつも始末時だなと思いつつ。
「脅す気か?、なら生きてはかえれんぞ。」
と冷たく言い放つ。
一瞬、緊張に身を堅くするヨーグ。
「まあいい、じゃあ間をとって私の目の前で以外でやるなら、手は出さない。」
和んでいく空気に身をゆだねながら、ほっとした面持ちで立ち上がった。
「助かります、先生。じゃあ、そう言うことで。」
「これはほんの気持ちなんですが。」
懐から魔晶石を出す。まあ、買えば三千と言ったところか。
「じゃあな、次は・・4日後だ、間違えるなよ。」
黙ってうけとった。
ヨーグは卑屈な笑みを浮かべながら立ち去っていった。
まったく、ここにはせめて転移の魔法を覚えるまで居なくてはならんのに、
やっかいだなあの男は。
ガチャ。
「師匠、統合魔術の実験準備、出来ました。」
フェンだ、いつもながら元気だ。
「今、行くよ。」
「レド師ぃ、彼女、元気になりますかね。」
「さあな、実験次第だろう?。」
いつもと変わらぬ会話をフェンとしつつ、ふと酒場の事を考えていた。
・・・そうだ、ルルゥに言っておかねばな。
私のそばから離れるな、なるべく酒場に居ろ、と。
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