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No. 00078
DATE: 1998/10/06 21:55:01
NAME: シシリー、カルナ、ウェスター
SUBJECT: 航路(その1)
血のように紅い夕日が海に沈もうとしている。
盛夏の日差しがやや衰え徐々にあたりは涼しくなりはじめる。海鳥たちは姿を徐々に消し始め、人々もみんな家路に帰り始める・・・そんな時間だ。
そんな中で桟橋に1人の女性が立っている。
夕暮れの潮風が彼女の金髪の間を流れていく。
風に乗り、潮の香りが鼻につく。
思わず、顔を顰めてしまう。山国育ちの彼女には慣れないのだろう。
彼女の名はカルナ・ヒトラウス。優秀なレンジャーでもあり、剣の腕も一流だ。
(カールさん遅いなぁ・・・)
いい加減、待たされ続けたカルナは1人心の中で愚痴った。
カルナはほんの10日ほど前、きままに亭でよく話すチャ=ザの神官戦士カール・クレンツとアザーン諸島へ旅に出る約束をしていた。
ゴーン、ゴーン・・・・
港町カゾフに夕刻知らせる鐘が鳴り響く。
町並みに少しずつ少しずつ明かりが灯っていく。
既に約束した時間を四半刻(約30分)はゆうにすぎている。
しかも、あたりを見渡してもそれらしき人影は見あたらない。
(少し、あたりをぶらっとしてくるか・・・)
おそらく、何かで遅れてるのだろうと思い。その場を離れることをカルナは決めた。
浜の方からの潮風がぬっとりとまとわりつくのにも嫌気がさしていたのも事実なのだが。
桟橋を離れ、繁華街へと向かう途中で、カルナはふと見たことある顔を見かけた。
(カールさん!!)
驚くのも無理がない、自分との約束をすっぽかして、こんな所をうろついてるのだからだ。だんだんと、自分の顔に怒りで朱が指すのがわかった。
「カールさん!!何やってたんですかっ!?心配したんですよ!!」
怒りで、目を燃やし猛然とその男に近づいててカルナはこういった。
「・・・・・・・・・」
返事がない・・・・と言うか、大きな声で言われたので耳鳴りがしているのだろう。
「・・・・・・・・・」
ふと振り返った人物はカールと同じ顔をしてたが・・・纏っている雰囲気がカールとはまったく違っていた。
「カールさん?」
「残念ながら、私はカールではないんですよ。」
よくみると、男の姿はローブにメイジスタッフという姿だ。こんな姿をするのは”古代語魔法の使い手”ソーサラーだけだ。
「あ・・・え・・・あの、人違いでした!すいません!!」
先ほどの怒りではなく、今度は羞恥で顔が真っ赤になる。頭を下げ、その場を急いで去ろうとするカルナ。
しかし、若い魔術師はそのカルナの腕を慌てて掴んだ。
「!!」
「ちょっと待って下さい。カルナさんですよね?」
「え!?」
「私はカールの代理できたものです。あなたを捜してたんです。」
「ええぇ!?」
既に、現状はカルナの理解の範疇を越えていた。
「ええ、じゃあシシリーさんは詳しいことを聞かずに来てるんですか!?」
もう1人同行者を待たせているので合流したいと青年−カールの双子の弟シシリー・クレンツ−に言われカルナは話しながら歩いていった。
「はい、まああいつも今それどころじゃないってのはだいたいわかりましたから。」
シシリーはそういいながら苦笑した。
「でも、カールさんもひどいですね。これって神殿から頼まれた用なんでしょ。サボっていいんですか?」
「さあ?でも、出世する気はないからいいんじゃないんですかね。」
「でも、出世する気がなくても破門になる気はないでしょう?ヤバくないですか?」
「大丈夫でしょう、チャ=ザの信者の方は”俗物”の方が多いですから。これもその”俗物”な高司祭様の副業のお手伝いみたいですし・・・」
「・・・・・・・」
この人は血のつながった兄弟のことなのにこんな考え方しかできないのだろうか。ふとそんなことをカルナは思ってしまった。
(カールさんとは全然性格が違うんだな・・・双子なのに・・・)
話には聞いてはいたが、はじめて会うカールの双子の弟、シシリー。どうやら第一印象は良くないようだ。
そんなこんなをしているうちにもう一人の同行者を待たせている宿−海鳴亭−へと到着。
「取りあえず、今日はここに泊まることになってます。カルナさんの部屋も取ってありますから。」
そういって、シシリーは宿の扉に手をかけた。
「そういえば、聞くのが遅かったんですけど。もう一人の同行者の方ってどんな人なんですか?」
「・・・・・・・・・・」
何気なく言ったカルナの一言に固まってしまうシシリー。
「・・・・・・・シシリーさん?」
「その沈黙は何ですか?」と、カルナが聞こうとしたときなにやら宿の中から派手な音がしはじめた。人々が怒鳴りあう声、食器や机が壊れる音、そして女性の悲鳴−ケンカの音だ−。
「どうしましょう?」
そうシシリーに聞いてみると、彼はため息を付き。「入りましょう」と言った。
「おそらくケンカしている人のなかに私達の同行者の方が”必ず”入っているでしょうから。」
「おら!!どーした。どーした。」
「さっきの勢いは、なんなんだったんだぁ?ああぁ!」
「ちんたらやってんじゃねーぞ。おい!!」
「くそお!!なんでオレがこんな目に・・・」
水夫風の男3人相手に一人の大男が殴り合いをやっている。大男一人の方がややくせんしている。
「はいはい、ちょっとすいません。」
「すいません。通して下さい。」
このケンカを見に来ている野次馬をかき分け、一番前を陣取る二人。
その目の前では素手でのケンカが繰り広げられている。
「で、あの一人でタコ殴りにされてる方が私達の同行者なんですか?」
「ええ、ウェスターさんと言われる方です。何か、カールのヤツに頼み込んで同行したみたいなんですよ。あいつ、あういうゴリ押しするタイプに弱いから・・・」
「オランから数日一緒に行動されてきたんですよね?」
「ええ、まあ。」
「あの方の性格を一言で表現するとしたらどんな方ですか?」
「トラブルメーカーですかね。」
「・・・・・・・・・・・」
そうこうしているうちに、喧嘩は終わったようだ。何とかウェスターが勝った模様。さすが怪力に強靱な肉体。
「ふう、ようやく勝てたよ・・・・。お!そこにいるのはシシリーさんじゃないか!!と言うことはその横にいるのは同行する人ですか!!美人なんだねーー!!」
にこにこしながら、二人に近づくウェスター。
ここで言いたいことが一つある。
ケンカというモノは以外に体力を使う重運動である。当然汗をかく。特に大男は余分に・・・。
結論、汗くさい。
最悪の同行者達だ・・・・最悪の旅だ・・・・カルナは一瞬神をも呪った。
(カールさんのバカァーー!なんで来ないんですかぁーーー!!)
何か、ゴタゴタに巻き込まれたら絶対にカールに何か奢って貰おう。
そう心に誓うカルナ・ヒトラウス20歳の夏であった。
その2に続く
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