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No. 00086
DATE: 1998/10/28 06:27:31
NAME: ファークス
SUBJECT: 神秘竜の探索3
注:
今エピソードにおきましては、ワヤン/ジャックオルト/リヴァース/カルナ/リデルの各PL様に、キャラ名使用の許可を頂いています。 しかし、
キャラクタの口調や、取るべき態度などは、全く別人物が扱っているために
やや印象が違うかもしれません。 どうかご留意のほどお願いいたします。
また、快くキャラクタを貸して頂けたことを、各PL様に感謝いたします。
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「ん…? あっ…!」
激しい雨音と、風に揺れる樹々の唸りでファークスは目を覚ました。 どれくらい眠っていたのか見定めようと、空を仰いだが、天は黒雲に覆われて伺い知ることは出来ない。 ファークスは頭のふらつき具合で、自分が寝ていた時間を推測しようとした。 しかし、よほど長い時間寝ていたのか、いつもより増して頭がハッキリしない。
しばらくベッドの上で思考を巡らしてみるが、結局考えても仕方ないと思い、ファークスはまたベッドに横たわった。
「…とりあえずパーティーはまだ始まっちゃないだろう。 始まるなら起こしに来るハズだからな…。」
一人で呟く。 だが次の瞬間、彼は軟らかい布団をはねのけ、叫んだ。
「ヤバっ! 待ち合わせしてたんだっ!」
「(何を慌てて…。 まったく)」
階段からけたたましい音が聞こえてきたとき、リードはその音の主がすぐに分かった。 この邸には、自分と数人のメイドが暮らしているが、その中にあんな慌ただしい音を立てる者はいない。 いるとすれば今日転がり込んできた、あの悪友ぐらいだろう。
「ファークス! 階段を踏み抜くなら、余所でやってくれないか?」
階段の踊り場を曲がり、姿が見え始めた悪友に向かって、リードはすぐさま声をかけた。 だが、彼の言葉は悪友に聞こえていないらしい。 最後の数段を一気に飛び降りると、脇目も振らずに玄関から出ていこうとする。
「おい! 雨が降ってるんだぞっ!? どこに行くっ!」
悪友は振り向かずに、叫ぶように応える。
「ワリィ! パーティーに招待した人達がいるんだっ! 待ち合わせてたのに…!」
最後は悔やむように呟いたから、思わず自分に言ったのだろう。 リードは彼の背に一言付け足した。
「客人が来たらすぐに始める! 早めに帰ってこい!」
返事の代わりに、悪友からは玄関のドアを勢い良く閉める音が聞こえてきた。 日頃この邸では立つことのない大きな音に、二人のやり取りを見聞きしていたメイドが思わず目を丸くする。 リードはため息と共に振り返ると、立ちつくしているメイドに声をかけた。
「…気にしないでくれ。 …そういうヤツなんだ。」
「いったぁ…、みんな、怒ってる…だろうな、きっと…。」
激しい雨がたたきつける中、ファークスはずぶ濡れになりながら走っていた。 走りながら、必死に言い訳を考える。
「やっぱり…“困っていた人を助けていた”ってのが、一般的かな…しかし、それじゃあ 現実味がどうもなぁ…。」
前髪から冷たい雨水が流れ落ち、顔に水筋をつくる。 彼の服は既に水分をイヤと言う程吸っており、裾から流れ落ちていた。 跳ね上がった泥や雨水で汚れ始めた自分の姿をチラリと見て、彼はいける! と心で叫んだ。
「この雨の中、こんな格好で現れるんだ。 これで怒る人はいないだろう…!」
考えながら、わざと水たまりを避けずに、汚れるを幸いに走り続けた。 やがて視界の向こうに、“きままに亭”の店が見え始める。 ファークスは立ち止まることなく、店へのドアを開けた。
「おまたせっ! 遅くなって…」
言い訳めいた声が途切れた。 彼の目に飛び込んできたその光景は、3mはあろうかという、異形な姿の魔物と、各々の武器を構えてその魔物と戦っている店の常連客の姿だった。
数刻前…。
「どうなってやがんだっ! コイツは!」
剣を正眼に構えなおしてワヤンが叫ぶ。 その視線の先には、彼が今までに見たことのない、異形な魔物の姿があった。 濃い緑色をした、皮膚なのか鱗なのかさえ区別の出来ない身体。 耳まで裂けた口には乱喰い歯が覗き、時折白い糸を引いて唾液が滴り落ちている。 目は妙に黄色く、ワニや蛇などの爬虫類のそれを連想させる。 そして3mはあろうかという巨大な体躯と、丸太と並ぶほどの太い腕。 ワヤンのこれまでの冒険の中で、これほどまでに奇怪な魔物と対峙するのは初めてのことだった。
「どこぞの秘境ならともかく…。 っチ! この店はバケモンお断りなんだがな…!」
呻くように呟き、ワヤンはもう一度剣を握り直した。 身体が僅かに震えているのも自覚できる。
(「そういえば…」)
ワヤンは魔物から目を離すことなく、思いを巡らせた。
(「最初に剣を握ったときも、震えが止まらなかったっけ…。」)
あの日初めて剣を握ったとき、ワヤンの身体は確かに震えていた。 しかしそれは高揚感の表れだと自分で考えていたのだ。 だが、いまこの魔物を間近にして身体が震えているのは、どうやら高揚感だけでは無いらしい。 長年の冒険者生活で身に付いた直感が、この魔物に警告を発しているのだ。 ワヤンは掌に溜まった汗を鎧に拭いつけると、もう一度剣を構え直した。 強敵を相手にしているときの緊張感から、汗が止まらない。 だがそれは、自分の横で汗を拭いているジャックオルトも同じ様だった。
「ウム……。」
額から流れる汗が目に入らぬように、ジャックオルトは軽く額を拭った。
ジャラリと音をたてるチェインメイルの音を聞きながら、ジャックオルトは魔物の動きから片時も目を逸らさない。
「(誰か…いや、何かを探しておるのか…?)」
割れた皿を踏みつけたまま、魔物は動こうとはしなかった。 首だけを回しながら、先ほどから店内を舐めるように見ている。 武器を構えて警戒態勢をとる冒険者を、まったく相手にはしていない様子だった。 その時、魔物の動きが止まった。 いままでゆっくりと店内を見回していたのが、ある一点に釘付けになっている。
「(何か見つけたのか…?)」
魔物との距離と、魔物の腕の長さを瞬時に目測し、不意の攻撃は無いだろうと判断したジャックオルトは、魔物が凝視し続ける方向に目を配った。 魔物が見つめるその先には、見慣れた厨房がある。 酒の入った樽や、作りかけの料理も放置されている。 だが魔物の目は、その厨房の真ん中にある、暖炉に向けられていた。 そこには肉と芋が串に刺されて、今も火で焙られている。 既に全体がススの様になっており、とても食べられたものでは無いだろう。
「(腹でも減っておるのか…いや、…まさか!)」
もう一度振り返ったとき、魔物の目が血走っていることに気づき、ジャックオルトは叫んだ。
「いかんっ! そこから離れるんじゃ!!」
「えっ?」
カルナが言うより早く、魔物は動いた。 耳まで裂けた口をカッと開き、そこから白い粘液を暖炉の炎に向かって吐いたのだ。 魔物が現れたとき、ちょうどカルナは厨房にいた。 この店は、店のマスターも給仕の娘もいないことが多い。 大抵は自分で酒を酌み、そして食事を作らねばならないのだ。 そしてこの日も、カルナは自分と、自分に頼っている仲間の夕食を
作っていた。 頼られるのは悪い気はしないし、作った料理を残さず食べて貰えるのに、ある種の喜びもある。 カルナはこの前知ったばかりの、ジャコとピーナッツのいっぱい入ったジャコピーチャーハンを作っていたところだった。 魔物が現れるまでは…。
「いやぁっ!」
彼女の金髪が揺れ、身体が跳ねる。 暖炉で燃えていた炎は、魔物の唾液でかき消された。 焙られていた肉も、唾液のかかった部分から嫌な臭いをたてながら溶けていく。 彼女の避けるのが少しでも遅れていたならば、恐らく身体に酸の火傷を負っていただろう。
「みんな気をつけてっ! そいつの唾液は危険よっ!」
言いながら、カルナはお返しとばかりに厨房にあったナイフを投げつけた。 風を切る音と共に、ナイフはまだ開いたままの魔物の口腔内に突き刺さる。 魔物は長く青黒い舌をうねらせながら、突き刺さる痛みの元を必死に吐き出そうとした。
「ハァァァッッ!」
漆黒の瞳で魔物を見据え、リヴァースはテーブルを蹴って宙を舞った。 その手にはブロード・ソードが握られている。 魔物が苦しみ出したときの隙を、彼は逃さなかった。 きままに亭の常連客の中でも、特に俊敏さに秀でているリヴァースは、いまだ床に向かって必死にナイフを吐き出そうとする魔物の脳天に向かって、渾身の一撃を見舞った。 ブロード・ソードは見事に脳天に突き刺さり、魔物は狂ったように藻掻き苦しみ、苦しみの咆哮を響かせた。 リヴァースは着地すると、ゆっくりと息を吐いた。 今の一撃は、空中から全体重を込めた一撃だったのだ。 未知なる魔物だが、生物の急所である脳天を直撃した以上、既に魔物は動けないに違いない。 リヴァースが振り返ろうとした瞬間、仲間達の悲痛な声が店内に響いた。
「…ッド!」
次の瞬間、リヴァースは店の壁に激突した。 崩れ落ちるような姿勢のまま、ピクリとも動かない。 魔物は振り払った腕で、今し方出来た脳天の傷をさすった。 そのとたん、脳天の辺りがブクブクと嫌な音をたてて、魔物の肉で埋まっていく。
「リヴァースっ!」
呻き声さえ発てない彼に、カルナが駆け寄る。
「ば…馬鹿な…。」
朦朧とする頭を押さえながら、リヴァースが呟く。 仲間が一命を取り留めたことを知って、ワヤン達の顔に一瞬、安堵の表情が浮かぶ。 だが、すぐに魔物と向き合い、その顔に険しさが戻る。
「こいつは…武器が通用しないのか…?」
「さぁのう…。 魔物の中には、そう言ったモノもいると聞くが…。」
ワヤンの問いかけに、ジャックオルトは解らぬ、といった感じで答えた。
「炎を嫌うのかもしれないけど…」
リヴァースを支えながら、カルナが呟く。
「…研ぎ澄まされし光り、猛る炎…」
その時、二階へと上がる階段の方から、抑揚のない言葉が響きはじめた。
「リデルっ!」
「万能なるマナよっ! 其に宿りて力を示せっ!」
リデルの呪文が完成した瞬間、カルナとジャックオルトの武器が炎を発した。 古代王国期に研究された、万物の源と言われる“マナ”を用いた魔法の一つである。 使いこなす者は魔術師と呼ばれ、一般には尊敬と蔑みの対象となっている。
「…魔法で生み出した炎だ。 濡れても消えはしない。」
飾りも付いていない、樫の木で作られた無骨な杖を構えながら、リデルは階段を降りきった。 魔物から十分な距離を保ちながら、改めて観察し直す。 節くれ立った身体、爬虫類に似た顔…。 リデルもこれまで、様々な魔物を見てきた。 ゴブリンやオーガー、トロールなど…。 だが、目の前の魔物は、何か根本から違うような気がしてならない。 そう、まるで異界から来た様な感覚に捕らわれるのだ。
「…来る!」
リデルが口をついたとたん、それまで苦しんでいた魔物がおとなしくなった。 口から垂れる涎が、さっきまでの白かった色とは異なりどす黒くなっていた。 恐らく魔物の血が混ざっているのだろう。 ジリジリと動きながら、5人はそれぞれ魔物を取り巻いた。 魔物もその動きを目で追いかける。 陣形が整ったのを見て、ワヤンが呟く。
「みんな…出し惜しみはやめような…?」
他の4人が頷くと同時に、きままに亭での戦いが始まった。
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「クッ! な…速い!」
バスタードソードを振り下ろした時、既に魔物は身を逸らしていた。 ワヤンの一撃はそこにあったテーブルを粉々に粉砕する。
「なんと…いう…力じゃ!」
魔物の腕が、ジャックオルトに振り下ろされる。 紙一重で避けたつもりだったが、一瞬速く、魔物の腕が避けようとした背中に当たった。 チェインメイルの鎖が弾け散って、床に散らばる。
「マナよ! 不可視の鎧となり我らを守れ!」
リデルが杖をふるうと同時に、5人の戦士を淡い光が取り囲んだ。 仲間からの有り難い! という声には答えず、必死に魔物に集中する。 その正体を見極めようと…。
「チっ! …硬ぇ!」
リヴァースは魔物の背後を取り、幾度と無く斬りつけるが、その一撃は全て魔物の硬い皮膚に弾かれていた。 手にするブロード・ソードには、既に無数の刃こぼれが目立っている。
「…このままではっ!」
炎を吹き上げるバスタード・ソードを両手で持ちながら、カルナは一旦魔物との距離を取った。 これまで出会ったことのない様な強敵に、不安の色を隠しきれない自分を感じていた。
「強すぎる…!」
「まるで歯が立たんとは…、ック!」
「…やはり、口か目を狙うしかないな…。」
「だが、どうやってっ!」
「せめて隙が出来れば…!」
その時、店のドアを乱暴に開けて、一人の男が現れた。
「おまたせっ! 遅くなって…」
言いかけた言葉が途切れる。 数瞬のあと、男はニヤリとしながら呟いた。
「…どうやら、こっちのパーティーの方が、面白そうだな…!」
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「ハハっ! ファークス、お前には呆れたよっ!」
「寝起きだったんだ。 …仕方ないだろ?」
「やっぱり寝てたのね。 待ち合わせ時間とっくに過ぎちゃってるのに…。」
「…人助けをしてたんだよ。」
「なら、いっちょワシらも助けて欲しいのぅ。」
「そうしたいのは山々なんだけどね…。」
「魔物がいるなんて思わないよなァ…。 剣を忘れても仕方ないってか?」
「わかってるじゃないか。」
「…いつまでも喋ってないで! 魔法もまもなく効果が無くなりますよ!」
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「ファークスっ! 魔物の気を引くのですっ!」
「判ってるよっ!」
リデルの指示に答えながら、魔物の背後にファークスは回る。 移動しながら床に転がっている皿を手に取り、魔物の背後から思い切り後頭部に投げつける。 だが、皿は粉々に砕けただけで魔物は振り向きもしなかった。
「……………。 無視すんなぁっっ!」
ファークスは右手中指にはめた指輪に念を込め、意識の高ぶりを感じながら、その指を魔物に向けた。
「いでよ! ディアブロっ!!」
瞬間、指輪は妖しく輝き、竜を象った(かたどった)闇の光が表れる。 闇の竜は轟音と閃光を放ちながら突き進み、魔物の後頭部に直撃した。 激しい衝撃に見舞われた魔物は、一瞬、その動きが止まった。
「カルナ! ジャックオルト!」
リデルが叫ぶと同時に、炎を吹き上げるそれぞれの武器が、魔物の口と喉に突き刺さる。
「ワヤン! リヴァース!」
リデルが振り向くと同時に、同時詠唱されていた呪文が完成した。
「火蜥蜴よ! 汝が炎で焼き尽くせ!」
二人の唱えた精霊魔法は、魔物に突き刺さったままの武器から、さらに無数の火球を作り出した。 次の瞬間、魔物の喉の部分から、頭と胴がちぎれ、魔物はバッタリと床に倒れた。
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散乱した料理のや、ワインなどですっかり汚れ、ボロボロになった格好をしたまま全員その場で思い思いに座り込んでいた。 苦しい戦いが終わった安堵感からか、身体が言うことを聞かない。 がっくりと首を下げ、足を前に投げ出している。 しばらくの沈黙のあと、ファークスは呟いた。
「命がけのパーティーだったねぇ…。」
その呟きに、皆が返す。
「誘われた方は、堪ったモンじゃないけど…。」
「しっっかし…。 コイツはいったい、何だったんだ…?」
彼らが見ているなか、魔物はやがて砂のようになっていき、その姿を完全に変えた。 誰もが疑問に思っているなかで、ある者は心の中で呟いた。
「星魔…。 もう動き始めた…。」
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雨が更に激しくなったころ、リード・エル=シッド邸の前に、1台の馬車が止まった。 相当疲れているのか、馬が泥だらけの地面に座り込む。 そんな様子を見て、馬車から亜麻色の髪をした清楚な女性が降りてきて、馬に近づいていった。
「可哀想に…。 ゆっくりお眠りなさいね…。」
その女性が馬の首筋を数度撫でると、馬はその場で目を閉じていった。
「…さすがルティス様…。 お優しい。 馬もあんなに気持ちよさそうに寝ている。」
御者はまだ気づいていなかった。
その時、目の前の馬が死んだことに…。
雨はいっそう、激しさを増していった…。
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