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No. 00089
DATE: 1998/10/31 23:00:31
NAME: ワヤン
SUBJECT: ピクシーに、御用心
【発端】
YAKKU:「にんげんって、どーやってふえるのー?」
ワヤン:「んー? 水かけて一晩置いとくと、よく朝二人に増えてるんだ」
あんな事、冗談でも言わなきゃよかった!!
ワヤンは海よりも深く後悔していた。
何せピクシーのYAKKUは、どうしてもワヤンが分裂して増殖する所が見たいらしく、夜な夜な寝ているワヤンのもとを訪れては、水をかけていくのだ。
いい加減、夜が冷え込む季節になり、何か対策を練ろうとワヤンがし始めたころ、ふいっとYAKKUは現われなくなった。
それが、ワヤンを襲ったとんでもない悪夢の発端だった。
10の月の終わり。
ワヤンは公園で一番大きい木の下で眠っていた。
草原生まれの草原育ちであるワヤンは、どうしても建物の中、そしてベッドで眠るのが嫌いだった。それで、体が丈夫なのを幸いに、ほとんどこうして外で寝ていた。
しかし、この日ワヤンにはとんでもない恐怖が忍び寄っていた。
ぴぴぴぴぴぴぴぴ・・・・・・。
軽やかな羽音を立てて、一人のピクシーがワヤンに接近していた。その手には、小さな・・・いや、ピクシーには両手に余る大きな、不思議な装飾のほどこされた槌が握られていた。
ワヤンが寝ている上に来ると、彼女(?)は楽しそうに笑いながら、槌を頭上高く振り上げた。
・・・・・・ん? どこが恐怖かって?
まあ、ちょっと待ちなさいって・・・・・・。
ピクシーの名はYAKKU。
YAKKUは実に楽しそうに、槌を5回振り下ろした。
ぽこん。
5回目。情けない音を立てて、槌の頭がポロリととれた。が、YAKKUは気にせず、ただじぃっと期待に満ちた目でワヤンを見ている。
月だけが、その光景を見ていた。
こつん。
「・・・んん〜?」
何かが肩に当たって、ワヤンは目が醒めた。
「・・・・・・」
何か違和感を感じる。一体これは何なんだ・・・?
風は眠りについた時よりやや強いが、心地よく吹いている。湿った土の感触も、草の匂いも、月の輝きも、何も変わりはない。
ひらひらと顔より大きい蛾が、優雅に飛んでいくのも、いつもと変わらな・・・・・・。
「ちょっと待て」
ワヤンはがばっと起き上がった。よく見れば、周りには自分の背丈と変わらない高さの草が生えている。
高さ180センチの草。
ここは未開の秘境ではない。あくまでオランの公園である。
思わず木を見上げるワヤン。
確かに大木ではある。だがしかし、こんなに天をつくような巨木ではなかったハズだ・・・・・・。
「・・・寝ぼけてんのか、俺?」
目をこすろうとした時・・・・・・ワヤンはとんでもない事に気付いた。
目の前に、ワヤンが寝ている。
それも1,2,3,4,5,6・・・7人!!
プラス起きてるのを含めて合計8人!!!
「わはははははははははははは!!」
ワヤン思わず乾いた笑い。
「何だ・・・うるせぇぞ?」
「・・・うーん・・・?」
もぞもぞとワヤン達が起き出した。
そして、互いの顔を見て、無言のまま自分の頬をつねり・・・・・・。
間。
「「「「「「「「どわああああああッ!?!?!?」」」」」」」」
ハモッた。
車座になって硬直するワヤン×8の真ん中に、ぴぴぴぴ・・・・とYAKKUが降りてきた。
YAKKUとワヤンは同じ大きさだった。
「わあああーい、わあああーい、ワヤン増えたねーおもしろいねー!!」
「「「「「「「「YAKKU!!!」」」」」」」」
ワヤン達は弾かれたように立ち上がった。が、YAKKUは素早く空中に舞い上がった。
「こら待て、YAKKU−っ!!」
「あン?」
一人のワヤンが、転がっている木槌の残骸に気がついた。
「・・・・・・これは・・・まさか・・・」
吟遊詩人ノワヤンには、心当たりがあった。物が8つに増えるかわりに、ひとつひとつが8分の1の大きさになってしまうという、おとぎ話・・・・・・。
「「「「「「「「うそだろ・・・?」」」」」」」」
うそではない。
風がむなしく吹きぬけて行った。
ワヤンが立ち直るのに、たっぷり1時間かかった。
とりあえず助けを求める事にしたワヤンは、公園の外に向かって歩き出した。幸いな事に、枕にしていた荷物も、抱いて寝ていた剣も、8つになっていた。
歩く事しばし。
ガサッ!
・・・・・・・・・・・・。
いや〜な予感にワヤン×8は立ち止まり、ゆぅ〜っくりと音の方を見た。
闇の中、ギラリと輝く金色の目・・・・・・。
猫だった。しかもデカい。
見上げると、猫というのはけっこう恐い生き物だったりする。牙の先がチラリとのぞいていたりして・・・・・・。
ワヤン達は一瞬顔を見合わせた後、「せーの」で逃げ出した。
猫が俊敏な動作でとびかかる。いっぴ・・・じゃない。一人が猫の前脚の下敷きになった。
むにゅっという肉球の感触はまあいいが、にゅっと出た細い爪の先が肩と後頭部に刺さる。
「いててててて!!・・・こらッ!!」
怒鳴ってもねぇ・・・今身長23センチそこそこしかないし・・・。
ワヤンは爪楊枝サイズの剣を何とか抜いて、猫の足を刺した。
「フギャー!!」
猫の悲鳴が8倍に聞こえる。
「ついでにっ!」
ワヤンはシェイドに語りかけ、「恐怖」の呪文を放った。
ありがたい事に、魔法はいつも通り使えるようだった。猫は尻尾を丸太のようにふくらませて、必死に逃げていった。
「・・・はあぁぁぁ・・・」
ワヤンはほっと胸をなで下ろした。気がつくと、一人きりになっている。
・・・そういやこの公園、野良猫野良犬のメッカだったっけか・・・。
ぞーっとしたワヤンは、急いで公園を出て、「きままに亭」に向かう事にした。
それからが大変だった。
ネズミに襲われたり、オケラになつかれたり、水たまり(はっきりいって湖)を越えたり、猫がリベンジにやってきたり、酔っ払いに踏み潰されかけたり・・・・・・。
でも長いので割愛。
とにかく、やっとこ「きままに亭」の看板が見える所まで来た時には、ワヤンはズタボロになっていた。
「着いた・・・」
艱難辛苦を乗り越えて、やっと到着・・・した時に、ワヤンは重大な事に気がついた。
・・・・・・どうやって扉を開けるよ、オイ・・・・・・?
・・・・・・・・・・・・。
ワヤンは悩んだ。
悩んでいたので、「それ」が忍び寄っていた事に気付かなかった。
ヘッヘッヘッヘッヘ・・・。
「・・・・・・・・・・・・」
背後の息遣いが、とっても不吉。
ワヤンの背後にいるのは、犬だった。しかもこれまたデカい。
つぶらな瞳が、キラキラと至近距離できらめいている。
「・・・あいたたた・・・」
ワヤンは思わず右手で目を覆った。
犬はワヤンをくわえると、尻尾をふりふり自分のねぐらへと帰っていった。
この犬、野良犬である。そしてそのテリトリーは、先程ワヤンが寝ていたあの公園だったりする・・・・・・。
振り出しにもどる。
「・・・・・・」
何とか犬のコレクションから抜け出して、もとの大木の下に帰ってきたワヤンは、物も言えずにその場に倒れた。
・・・このまま、戻れなかったらどうするよ、俺・・・?
いくつもの疑問と不安はあったが、疲労のあまり頭が働かない。
ワヤンはしばらく、その場で大の字になって、じっとする事にした。
虫の声が聞こえる。
いつもなら気にも留めないようなかすかな風も、今のワヤンにはしっかりと感じらえた。草の裏のうぶ毛のような白い毛も、土の上のちょっとしたくぼみも、しっかりと見る事ができる。
「・・・ピクシーは、こういう風景を見てんだな・・・」
このままでも、悪かねぇかな・・・・・・。
意識せず、前向きなつぶやきがもれた。
空が白んできた。
朝日がゆっくりと、ワヤンを照らす。
「・・・・・・ん?」
ふとワヤンは、再び違和感をおぼえた。全身がむずがゆいような、血の巡りがよくなったような、不思議な感覚・・・。
目を開けると、視界がさっきとは違う。
見慣れた風景が広がっている!
がばっ!!
ワヤンは飛び起きて、自分の全身をぺたぺたと触った。
・・・・・・戻っている!!!
「・・・い、やあぁったあああ!!」
思わずバンザイしたその前に、ぴょこっとYAKKUが顔を出した。
「あれーワヤンもどっちゃったのー? つまんないねー」
「YAKKU!! おま・・・え・・・?」
どたあっ!!
いきなりワヤンはその場に倒れた。
考えてみれば、他7人のワヤンもそれぞれ一晩中、冒険を繰り広げていたわけだから、元に戻れば疲労も8倍。というわけ。
「・・・・・・ぐうー・・・」
うつぶせに倒れたワヤンは、もう寝息をたてている。
それを見たYAKKUは、「つまんないねー」を繰り返しながら、朝焼けの空へ飛んで行った。
あとには、正体もなく爆睡するワヤンだけが残された・・・・・・。
口は災いのもと。
ピクシーに、御用心。
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