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No. 00092
DATE: 1998/11/04 19:13:08
NAME: アーク
SUBJECT: 追憶〜旅立ち〜
ガツッ
「痛ってぇ、何だよ!?」
いきなり額に激痛を感じた。ぬるっとした感触が頬をすべる。
「やーい親なし!!」「捨て子!」
4〜5人の近所に住む同じぐらいの年齢のガキが逃げていく。
くそ〜、あいつらふざけやがって。後で倍にして返してやる
ふと額に手をやり見ると、血が付いていた。
「ちっ、しゃぁねえ戻るか」
アークがそう言い引き返した先には大きな屋敷があった。
「じじぃ〜!」
扉を開け中にはいると大きな机で分厚い本を読む男の姿があった。
「アーク、大声なんか出してどうしたんだい。」
男はそう言うと本から顔を上げ、アークの近く歩き寄った。目の辺りが何とも言えない優しさをかもし出している。まだ30代前後かとうかがえる。
「こらっ!またあんたはカルロス様をそんな呼び方をして」
いきなり後ろから声が掛かる。
「いいんですよ。それよりアークの手当をお願いします。」
カルロスは微笑むとアークを声の掛かった方へ向かせる。
「えっ?きゃぁアーク、一体それどうしたのよ!」
メイド服を着た若い女が悲鳴を上げた。
「うるせぇな、ユーリ。近所の馬鹿共に石ぶつけられた。」
アークがぶすくれた顔をしてボソリと言う。
「アーク、仕返しなんて馬鹿な事はしないで下さいね」
カルロスは穏やかにアークに諭すように言った。
「なんでだよ!?あいつら、俺のこと親なしだとか、捨て子とかいいやがったんだぜ!!」
「ばかねぇ。だったらどうだって言うの?アークはアークでしょ、親が居なくたって堂々としてればいいんじゃない!?」
ユーリがアークに説き伏せる様に言った。
「…分かったよ」
アークは納得いかない顔をしながらうなずいた。
「はい、それじゃあ早く手当して食事にしましょう。ねっ?」
カルロスはそう言うとアークの顔をのぞき込んだ。
その後、アークはカルロスと共に温かい夕食を摂った。
アークは街の片隅でスリやかっぱらいをして生きてきた。
物心着いたときにはもうこんな生活だった。
ある日、何時ものように仕事をすませねぐらに帰ろうとしたとき、いかにも金持ちの男が護衛もつけず1人で裏路地へ入って行くのが見えた。
…カモだな。
そう思ったアークは男の後をつけた。
表通りの喧噪は既に遠くになり人影も無くなった所でアークは男に近づき男の財布をスッた、と思った時にはアークの手は捕まれていた。
その後アークは男の屋敷へ連れて来られ、食事と服を与えられた。
男は妻と子供に先立たれ1人で屋敷に住んでいるのだという。メイドや執事などは多く居たが毎日が退屈で沈みがちであった。気晴らしに街に出てみたところ、自分の財布をすられかけ、その子供を捕まえたみたが通報するのも忍びなく気まぐれで連れて帰ったというわけであった。
アークはそのまま屋敷に居着きアークとカルロスの奇妙な生活がここ半年ばかり続いていた。
アークが石をぶつけられた事件から数日後―
街に出かけていたアークが屋敷に戻ると、何故か何時も出迎えてくれた執事やユーリ、メイド達の姿が見えなかった。なんとなく不安を感じながら屋敷のあちこちを見て回った。何時もカルロスが居た部屋へ行く途中の廊下で執事が倒れていた。
「おいっ!どうしたんだ!?」
抱き起こすが既に息はなくグッタリとしていた。
恐る恐るカルロスの部屋へ行き壊れた扉から覗くとユーリとユーリをかばうようにしてユカルロスが倒れていた。
「カルロス!ユーリ!何があったんだ!?」
「‥うっ、あぁ‥アーク‥無事…だっ…たの‥ね。」
ユーリは苦しそうに息を吐くと夜盗に襲われた事を告げた。「カルロ…ス様‥は‥ぶじ?」
カルロスは既に息絶えていた。しかしアークは嘘をついた。
「あっ、あぁ大丈夫だ」
ユーリはフッと微笑むと嘘‥と言った。
「アー‥クは、本当…に嘘が下手‥ね。ねぇアーク‥復…讐なんて‥止めてね。私‥はアークの…事を、弟の‥様だと…思っていた。…幸せに‥なってね。それか‥らカルロス…様からの言‥葉よ…この部屋の本…棚の右下‥の本を…引き出…しなさい、だそうよ。愛し…てるわ、アーク」
そう言うとユーリは息絶えた。
「ユーリ!!」
涙を流しアークは叫んだ。
数十分後、涙も涸れ果てたアークは、そっとユーリを横たえるとカルロスの伝言だという場所を探った。
ギィーいきなり本棚の一部が回転し、隠していたものが姿を現した。それはバスタード・ソードと、5年は遊んで暮らせる程の宝石が入った袋があった。そしてその上にカルロスが書いたと思われる手紙が置いてあった。
《親愛なるアークへ
この手紙を君が見ていると言うことは、私は既に何らかの事情で、君の前から姿を消しているときだと思う。何故君にこんな物を残したかと言うと私には既に家族は無く最初は気まぐれとはいえ君と過ごした日々は、本当に素晴らしく、この頃は君の事を本当の息子の様に感じていたからです。何時までも君と暮らしてたかったけれど、若い君は何時かここを出ていくと思い、私になにかあった時はこれを渡すようにユーリに伝えました。本当は言葉で伝えたかったけれど、貴方に会えて本当に良かった。愛しています、アーク。
追伸 この剣は魔法が掛かっており貴方の事を守ってくれるはずです。一緒に入れた袋の方は貴方が使って下さい。
私の息子アークへ カルロス》
数日後―
葬儀を終え丘の上のカルロスとユーリの墓の前にアークはいた。
「カルロス、ユーリ、俺はあんた達に幸せになれ、と言われた。でも俺みたいな奴はたくさん居る。だから俺は俺の目に映る人たちだけでも幸せになって欲しいと思った。だから俺は旅に出るよ。応援してくれるよな。」
アークは未だ新しい墓を暫く見つめた後、背を向けた。その背中にはカルロスから授かった、あのバスタード・ソーが在った。
「じゃあな」
親父、姉さん其処にいてくれよな。アークは空を見上げつぶやいた。
空は何処までも澄み渡り、アークを祝福しているかのようだった。
アーク未だ13歳の頃の事である。
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