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No. 00095
DATE: 1998/11/07 23:27:49
NAME: シャウエル
SUBJECT: 逃亡
「今夜の取り引きは長かったですね。」
「ああ、相手はかなりの業突く張りでな、取り引きにかなり手間取ってしまった。」
「・・・それでは今回もまた例のやつをおこないますか?」
「おお、そうしてくれ。あれを欲しがる人間は星の数ほどいるからな〜。ガッハッハ」
「御意に・・・。おい、シャウエル。今回はお前も行くか?」
「あ?いや、止めとく。私は守り専門だからな」
「そうか、まあそれもよかろう。その腰のものがハッタリでない事は次の機会に証明してくれ。クックック」
(この刀がハッタリだと見抜けないようではお前の目は節穴だな)
私は今、密輸・人売り何でもござれの悪徳商人、ソスト・クレランスの所で用心棒をしており、
今夜も裏取り引きをするために部下のブライアンをつれて町外れの寂れた教会に来ている。
ブライアンというのはソストの片腕として、護衛から暗殺までやる腕の立つ戦士である。
まあ、そんなこと私には関係ないけどね。
私の目的はただ1つ!
三食寝床付きでお金が貰えるというこの優雅な生活だ!!!!!
しばらく歩いていると前の方から完全武装が3、4、5人。こういう時の予感というやつは良く当たるんだよなぁ
「悪徳商人ソスト!正義の名の下に貴様を成敗する!」
やっぱり・・・
「こわっぱどもめ、返り討ちにしてくれるわ!!」
おいコラ!ブライアン、挑発してんじゃねえよ!私の刀はハッタリだぞ、こいつでどう戦えという・・・そうだ!
「ブライアン!ここは私に任せて主と逃げろ!」
「なにをい・・・」
「ブライアンここはそいつに任せて逃げるぞ」
流石は悪徳商人、逃げ足の速さは1流だ。言うより早く逃げだし、もう30メートルぐらい逃げている。
「くそ!逃がすか!」
「ここは通さん。」
ソストを追おうとする完全武装。それに対し、私は両手を広げ悠然と立ちふさがる。う〜ん、なんてカッコ良いんだ。
た・だ・し
カッコ良いのはそこまで、次の瞬間各々の武器を持って襲い掛かって来る完全武装×5
「ちょちょちょちょっと待てぇ〜!!」
思わずエビのごとく、約20m後ろまで飛び下がる。
何、手を切られないかって?大丈夫、その辺は臨機応変だ!!
「正義を名乗るなら、一人づつかかってこい!」
「一騎打ちか。面白い、受けて立とうじゃないか。いいか、手出し無用だからな。」
リーダーらしい完全武装が、他の完全武装に念を押す。
しめしめ。単純な奴らでよかった。
正眼に剣を構える完全武装に対し、居合い抜きの構えをしてみせる。
そして、先手必勝!!
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
と叫びながら、完全武装に突っ込む。威圧されて防御態勢を取る完全武装。
間合いを詰め、切る。
キョトンとした顔のまました反撃行動が、思いっきりスカり地面に刺さる。
そして私はそのまま横に逃げ去る。
地面に刺さった剣を慌てて抜こうとしている完全武装。
逃げながらで申し訳ないが詳しく説明すると、私の持っている剣には刃がない。つまり、柄と鞘だけなのである。
どこぞの剣のように、切れるようにしていない……ではなく、まるっきり刃がないのである。
鞘から抜いた刃のない剣で、刃のある状態のつもりで切ったらどうなるか。相手に届く訳がない。
つまり、私の一撃は計画されたスカだったのだ。
完全武装の方は、私の剣を受けてそのまま袈裟切りにでもするつもりだったろうが、ふっふっふ。私の方が2、3枚上手の様だったな。
切ると見せかけてそのまま裏路地へと走り去る。
「諸君、生きていたらまた会おう!はっはっは〜〜〜〜〜〜♪」
片手を上げて後ろを向く。もちろん、上げた手は微かに左右にゆれている。
そんな事をされれば完全武装は追っかけてくるに決まっているのだが、こうした方が楽しいじゃないか。
相手は完全装備。それに比べて私は普段着にハッタリバスタードソード。
重量から見ても、完全武装の方が遅いに決まっている。
そして見事完全武装達から逃げ切れた私に待ち構えていた事。
それは
「……ここってどこだろう?」
迷子。
そう、私は取り引きに来る時、主に付いて来た。そして帰りも主に付いて帰ればいいと思っていた。
しまった。
今来た道を戻ったら、完全武装達に会うかも知れないからだめだし……この時間では道を聞こうにも人がいない。
その辺の家の戸を叩く訳にも行かないし……しかたない。とりあえず、行動しよう。
……あれ????ここはさっきも通った……
……あれれ???さっきと同じ場所……
「いたぞ!!こっちだ!!」
やばい、さっきの完全武装だ。諦めてくれなかったのか。
仕方ない、とりあえず逃げよう。
おっ、あんな所にタライがおいてある。丁度良い、借りていこう。あ、来た。逃げよう。
おっ、あんな所に高いはしごがかけてある。登れそうだし、登ってしまえ。
(なんとかと煙は高い所が好きと言ったが、なんとかとはなんだっけかな…きっと、私の事を誉めるための言葉なんだろうな。)
おっ、あいつら真下にいる。丁度良い、タライを落してやろう。目標は……あのリーダー格!
ガン。
見事に命中。目標は倒れたまま微動せず。あ、でも気付かれた。
あ、なんか一人がぶつぶつ言っている。ナニナニ、ふぁりすがなんとかかんとかって…聞こえねーじゃねーか!
ぶつぶつ言っていたのが、腕をこっちに突き出したけど
「いてぇ〜!!!!!」
ううう、額が痛い。はっ、それどころじゃない。完全武装がはしごを使って登ってくるじゃないか。こーなれば
「うりゃあ♪」←はしごを蹴る。
よし、上手く行った。じゃあ、今のうちに屋根を伝って逃げよう。
「諸君、生きていたら以下同文。」
さてと。屋根をつたいながら適当に行くか。
ふう、ここまで来れば完全武装もいないだろう。よし、ここらで降りる所を探すと……
「ドロボー!!!!!」
なに、泥棒だと。どれどれ……上にはいないようだな。じゃあ、下かな?
お、自警団が来た。早いな〜さすがだな〜〜
あ、なんかこっちを指差している。
「コラ!!泥棒め、降りて来い!!!!!!」
左右を見る……誰もいない……後ろを見る……誰もいない……って、私の事か!?
う〜〜む……無実を証明したいのはやまやまだが、完全武装もまだどこかにいるはずだし……
よし、とりあえず逃げるか。
「コラ!!逃げるな〜〜!!」
まぁ、とりあえずお約束と言う事で
「諸君、以下省略!」
スタコラサッサ
この後、犬に追いかけられたり、ネコのケンカに巻き込まれたり、酔っ払い達に囲まれたり……と、色々大変だったが私はずっと走っていた。
休みを取らずに(取れずに)。
泥棒騒ぎからの十五分間、全力疾走。
はっと気が付けば、私はきままに亭の前に、呆然と立っていた。
この後、額から血を流した陽気な男が、店の中に消えて行ったのはいうまでもない……
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