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No. 00097
DATE: 1998/11/10 13:40:52
NAME: セシーリカ、ラーファ、リデル
SUBJECT: 呪い (2)
「大変です、高司祭さま!」
突然の神官の言葉に、マーファ神殿の高司祭は顔を上げた。
「どうしたのですか、こんな夜遅くに」
「そ、それが・・・・・セシーリカ司祭が御物を・・・・・」
その言葉に、高司祭は立ち上がる。
「セシーリカさん・・・いなくなっていたと思っていたら、そういうことだったのですね・・・」
笑みを浮かべている高司祭に、しかし、神官はあわてふためいて続けた。
「い、いえ、御物を持ち帰ってきたまではよろしいのですが、その・・・」
その後に続いた神官の言葉に、高司祭は顔色を変えた。
「・・・なんですって?」
「・・・・・・」
言葉を失って立ちつくす高司祭。
応接室のソファーに縮こまるように座っている魔術師と、長身の砂漠の民の娘。そして・・・・その膝の上できょとんと辺りを見回す、ぶかぶかの司祭服を体に巻き付けるようにして着ている小さなハーフエルフの子供。
「御物を取り戻して下さった冒険者達です・・・」
「それで、セシーリカさんは?」
どこをどう見ても、見慣れたハーフエルフの姿がない。
「はぁーい」
元気よく手を挙げるのは、ハーフエルフの女の子。
「あ・・・・?」
言葉を失う高司祭。
くりくりとした大きな緑色の瞳、淡い栗色の髪。
・・・・・・・似ている。
似ているなんて者じゃない。この顔をもう少し成長させたら、そのまんまである。
「セシーリカ・・・・さん?」
「そうでーす!」
威勢良く答える女の子に、高司祭は一瞬、立ちくらみを起こした。
「いったいなにがどうなっているのですか・・・・」
「えへへ」
照れ笑いを浮かべるセシーリカ。もはやしゃべる気も失せたと、疲れきった表情のリデル。
仕方なく、ラーファは口を開いた。
「実は・・・・・」
「・・・・・というわけなんです」
ラーファの話が終わって、高司祭は納得したようだった。お茶をすすりながら、セシーリカを見る。
「命を懸けての呪い・・・・それでこのような姿に・・・」
「なんとかならないでしょうか?」
神官が控えめに訪ねる。確かに、神殿に使える司祭のひとりがこのような事態になったのだから、なんとかせねばならない。
いや、それ以上に・・・。
これ以上、神殿の器物を破損されてはたまらない。
6歳といえばやんちゃ盛り。ただでさえ子供と遊んでいる最中に何かしら壊すことの多いセシーリカなのだ。
「・・・わたくしが、何とかしてみましょう」
かくて、解呪の儀式は始まったのである。
高司祭自らの儀式であった。台座に座らされてきょとんとしているセシーリカに向かって、高司祭は神聖語をなめらかに唱える。
その様子を、数人の神官と、ラーファ、そしてリデルが息をのんで見つめていた。
神聖語の詠唱が、最大限に高まり・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
何も起こらなかった。
たらーりと、高司祭の額に汗が流れる。
「・・・・・・高司祭さま?」
リデルとラーファが同時に問う。
「・・・・・・儀式は・・・?」
神官達もざわざわと騒ぎ始める。
失敗、であった。
ぽかーんとして、高司祭を見上げるセシーリカ。
高司祭の額から、怒濤の汗が流れる・・・。
「・・・・・な、なんて強い呪いなんでしょう・・・高司祭さまの解呪が効かないなんて・・・」
「いえ、あの・・・・」
「これでは、わたしたちの力もとうてい及ばないわ・・・・」
「いえ、ですから・・・」
「なんということでしょう・・・・・」
「ですからね、あの・・・・」
口々と絶望のため息をつく神官。何とか取りなそうとする高司祭。だが誰も聞いていない。
「こうなったら、『鍵』を探すしかないようね」
ラーファがため息をついた。リデルも頷く。
「高司祭さま、お手数かけて申し訳ありませんでした。お心遣いに感謝いたします」
リデルが、深々と頭を下げる。ラーファが、駆け寄ってきたセシーリカを軽々と持ち上げ(抱いてやれよ、ラーファ)。
「・・・・・いえ・・・・・力になれなくて、すみません」
もうこうなったら弁解のしようがない。高司祭はすまなそうに頭を下げた。
「セシーリカさんは・・・しばらく実家に戻って、落ち着いた環境ですごすのがいいかも知れませんね」
「そうですね・・・・では、しばらくうちで預かることにします」
リデルの言葉に、高司祭はほっとため息をついて頷いた。
こうして、セシーリカは、しばらくの帰宅を許されたのだった。
(追記.どうやら、高司祭の「リムーブ・カース」は1ゾロだったらしい(爆))
<たぶん、まだ続く>
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