 |
No. 00011
DATE: 1998/12/03 19:57:09
NAME: ワヤン
SUBJECT: ある黎明
オランに冬が来た。
すっかり葉が落ちた枝を見上げながら、ワヤンはいつものように、公園で一番の大樹の下で寝そべっていた。冷たい風が頬を撫でるのにもかまわず、彼はぼんやりと、澄んだ空気の向こうの空を見つめている。
「・・・・・・」
ふと唇を動かすが、声は出ない。
無理もない。ワヤンは彼女の名前を知らないのだから。
その少女が『きままに亭』に現れたのは、一週間以上も前だったろうか。金の髪と、鮮やかな緑の瞳が印象的な、気の強い、美しい・・・・・・。
(ツェツェク・・・・・・)
ふと浮かんだ名前を、頭を振って追い出した。
生涯をかけて愛するはずだった、彼の妻。今はもういないハーフエルフの少女。その顔を思い出す度に、重なるもう一人の少女の顔・・・・・・。
(怪我したのか、見せてみろ)
物言いまで似ていた。
「馬鹿たれか、俺は」
ワヤンはぽつりとつぶやいた。と、
「馬鹿なのか?」
面白そうな、笑いを含んだ声が降ってきた。
「!!」
慌てて起き上がると、目の前に美しい緑の目があった。
「あんたは・・・!」
「こんな所で寝ると、風邪ひくぞワヤン?」
「・・・どうして俺の名を・・・?」
「みんながそう呼んでいた」
少女は笑い、ワヤンのそばを離れて木の下に立った。
何時の間にか、陽が西に傾いている。じっと遠くを見つめる少女の横顔を眺め、(あんまり似てないな)とワヤンは思った。ツェツェクの髪と目は、もっと明るい色をしていた。耳も尖っていないし、痩せてはいるが、目の前の少女の方が豊かな胸をしている。
(・・・って、何を見ているんだか・・・俺は?)
気恥ずかしくなり、ワヤンは黙ってタヌキ寝入りを決め込んだ。
どれだけの間、そうしていただろうか。
「ワヤン」
少女はふと振り返った。
「ヒマか?」
「・・・・・・ああ、ヒマだけど・・・・・・?」
「よし」
少女は自分のそれよりずっと太いワヤンの腕をつかみ、引っ張った。
「つきあえワヤン、遊びに行こう。あたしはカミーユだ」
混乱して何も言えないワヤンを引きずって、カミーユと名乗った少女は足早に公園を出た。
そのすぐ後。数名の人影が公園を離れ、静かに二人の後をつけ始めた。
「黒の21」
山と積まれたチップを見て、ワヤンは軽いめまいを覚えた。
カミーユは、「これでもか」という位に金を使った。まず服や雑貨を見て回り、食事をし、喜劇を見た後で、カジノにまで入った。かかった金はすべてカミーユが払った。
「あーあ」
口調とはうらはらに、スッキリした表情でカミーユが戻ってきた。どうやらチップは全部スッたらしい。
「気が済みましたか、レディ?」
「ああ、済んだ。帰ろうか」
二人が店を出るのを、一人の人物がじっと見ている。その人物は裏口から表に出ると、何気ないそぶりで周囲を見回した。
そして、二人を尾行している人間達を認めると、小さく悪態をついた。
「また・・・何してんねん、あのアホゥ・・・」
吐く息が白い。
カジノを出ていくつかの角を曲がったところで、二人は足を止めた。
「・・・・・・出てきやがれ」
ワヤンの声に応えるように、3人の男が路地から現れた。手には短剣。
「ワヤン逃げろ」
カミーユが低くささやいた。
「いいねぇ、そうしよう・・・・・・お前も一緒になっ!」
身を翻すと同時に、カミーユの手をとってワヤンは走り出した。男達が怒号と共に追ってくる。
「馬鹿、あたしの仲間と思われるぞ!」
「ようするに、心当たりがあるんだな?」
「・・・・・・ある」
「なるほど・・・次、右だ!」
男達は必死で追いかけるが、地の利はワヤン達にあった。みるみる内に間が広まり、やがて男達は二人を見失った。
「くそ・・・見失ったか」
「早く探せ、せめて女だけでも殺すんだ!」
バラバラに散開して、捜索を続ける男達を、じっと見つめる視線があった。
風が雲を散らし、月明かりが射す。すっとその中に、細身の青年の姿が浮かび上がった。
「・・・・・・見た顔がおったな・・・確かアイツ、ガルガライスの盗賊・・・・・・?」
奇妙ななまりで、青年はつぶやいた。
「ほんまに、何してんねん・・・ワヤンのドアホゥ」
再び雲が湧き、路地裏は闇につつまれた。
「ここなら安全だ」
ワヤンは小さな宿に、カミーユを案内した。ここ一ヶ月ほど、ワヤンが定宿にしている所だった。
「泊まり客は俺だけだ、部屋は一番奥。また朝に来る、おやすみ」
「・・・・・・」
「どうした?」
「何も聞かないんだな」
階段の上で、二人は小声で会話した。
「聞かれたくねぇだろ?」
ワヤンは足音を立てないように、そっと階段を下り始めた。
「ワヤン」
「あんだよ?」
「あたしと寝ていけ」
残り三段、足を踏み外したワヤンは、派手な音を立てて落ちた。
したたかに打った背中を押さえ、声を殺して痛みに耐えるワヤンの横に、足音もなくカミーユが下りた。
じっと見つめる瞳に、媚びの色はない。
「・・・・・・」
何を言うべきか。眉根を寄せて考えていると、カミーユがそうっと唇を重ねてきた。
ふと匂った花の甘い香に、ワヤンは言うべき言葉を全て失った。
あたしはガルガライスの盗賊の娘だ。生まれてすぐ、幹部に買われた。言いたくもないような事を、色々教わった。あたしは自分の生活が嫌だった。
だからだろう・・・・・・あの男に「一緒に逃げよう」と言われて、二つ返事で承知した。あいつは幹部を殺して、貯め込まれてた金と、あたしを連れて逃げた。
もちろん追手はかかったさ。オランに着く前に襲われて、バラバラに逃げた。
「公園にある、一番大きな木の下でおちあおう。そしてその後で船に乗り、呪われた島に行こう。そこでやり直そう」
そう言われた。
・・・・・・ああ、あいつはオランの生まれだった。
そうさ、あの時あたしはあの男を待つために、木の下にいたんだ。
無駄だけどね。
だって、約束の日は、もう一週間も前なんだから。
・・・・・・そうだな、殺されたのかもしれない。でも多分、逃げたのさ。金はほとんどあいつが持ってたからね。
・・・・・・確か20万ガメル。
慰めてくれなくていい。分かってたからね。あたしだって、別に惚れてたわけじゃない・・・・・・逃がしてくれるなら、誰でも良かったんだ。
悪い女だろう?
・・・・・・・・・・・・。
ありがとう、ワヤン。
お前、少しあの男に似ている。
あたしはどうだ?お前の想い人に似ているか?
・・・・・・あはは、驚く事ないだろう?・・・・・・その位わかるさ、あたしだって子供じゃない。
何て名前なんだ?・・・ツェツェク?変わってるな、どういう意味なんだ・・・・・・へぇ・・・・・・・・・・・・。
朝がいつしか昼になり、夕方になった。
ワヤンはぼんやりと、オランの街を歩いていた。
(あたしは明日、夜明けの船で『呪われた島』に行く。もう船長と話はつけてある・・・)
カミーユの声がよみがえった。
心は決まっている。
あとは・・・・・・。
ワヤンは『きままに亭』の扉を開けた。
「盗賊ギルドには話をつけといたよー!」
「ワシも知り合いの連中に、敵の捜索を頼んできたぞい」
「助かるぜ、セシーリカ、ダルスの旦那」
「ふぉっふぉっふぉ、まかせておけい」
狭い宿の個室の中に、6人がすし詰めになっていた。
ワヤン、カミーユ、ファークス、レイシャルム、セシーリカ、ダルス・・・・・・。
夜明けまで、たった半日の護衛のため、ワヤンが頼んで集まってもらった仲間だった。
「セシーリカ、ここでカミーユと一緒に居てくれや。ファークス、レイシャルム、寒いトコ悪ぃが表を頼む。ダルスの旦那、俺と扉の前にいてくれ」
「わかった」
「まかせろ」
緊張感が満ちる。
長い夜が始まった。
深夜。
宿の裏口がかすかに軋んで開いた。
三人の男が滑り込むように中に入り、一人が杖を掲げて呪文を唱えた。
彼らは黒く塗られた短剣を引き抜き、静かに階段を上る。
扉の前で、ワヤンとダルスが眠っている。そっと近付いて短剣を振り上げた仲間を、別の者が止めた。
余計な事はしなくていい。
扉の稚拙な鍵を開けている間、護衛達は眠りこけている。『スリープ・クラウド』をかけた盗賊はほくそえんだ。
ゆっくりと扉が開く。一気に踏み込んだ三人の目の前に、光る剣の切っ先がつきつけられた。
「人の部屋に入る前はノックしなきゃいけないって、教わんなかった?」
完全装備のセシーリカが、じろっと侵入者を睨みつける。
だが、相手は少女一人。気を取り直した盗賊達は、改めて武器を構える、が。
「それからな、『タヌキ寝入り』って言葉も、教わったコトねぇか?あン?」
「油断大敵じゃのう」
背後からの声に、盗賊達は面食らった。
「ば、ばかな・・・!」
古代語魔法を使った男が、愕然と叫んだ。
「あんたの魔法なんか、ここの誰にもきかないよ」
追い討ちをかけるようなセシーリカの言葉に、男は沈黙した。
「さて、夜も遅ぇから、近所迷惑にならねぇようにしねぇとな」
ワヤンは静かに『サイレンス』を唱えた。
「おかしい」
宿の裏で、二人の盗賊が窓を見上げていた。
見事女を始末したら、合図があるはずだ。
「まさか・・・失敗したのか?」
「そーかもな」
のんびりした声に、盗賊二人はぎくりとした。
「まったく、もっと早く来てくれないと・・・風邪ひいちまうとこだったぜ」
「あのなファークスさん、そんな事言ってる場合かよ」
愛剣を抜き、ファークスは刀身の腹で、とんとんと自分の肩を叩いた。
一方レイシャルムは、鋭い視線でしっかりと敵を見据える。
「行くぜっ!」
剣戟が夜闇を裂いた。
数分後、窓が開きセシーリカが顔を覗かせた。
眼下には、Vサインを出すファークスとレイシャルムがいる。
セシーリカもVサインを出し、上がってくるように二人を手招きした。
「あっけなかったのぉ」
ダルスが、ぐるぐる巻きにされて床に転がった賊達を見てつぶやいた。
「様子見ってとこか」
「船出まで、あと4時間・・・・・・」
ダルスがインクで、羊皮紙に港の簡単な地図を書き始めた。セシーリカが集中し、港にいる使い魔のショウの目を通して、様子をうかがう。
「・・・・・・いる。ここと・・・ここにも」
セシーリカの指示に従い、ダルスが赤いインクで敵の居る場所にバツをつけて行く。その間にカミーユは旅支度を始める。
ややあって、ファークス達が戻ってきた。その頃にはもう、地図の上は真っ赤になっていた。
「おいおいおい」
思わずレイシャルムがこぼした。
「こりゃ・・・厳重だな」
一同、うーむと唸った。蟻ももらさぬ、といった風情で、敵は船を囲んでいる。
「敵がいないのは・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
全員の目が、一個所に集まった。
屋根の上にとまっていた梟が一羽、ほうと鳴いて飛び立った。
夜明けが近い。
宿の裏口が、六つの影を吐き出した。
金髪のカツラをかぶり、ターバンで耳をかくしたセシーリカは、カミーユの服を着ている。
反対に、髪を切ってバンダナでかくしたカミーユは、セシーリカの神官服をまとっていた。
変装したセシーリカを囲むように、一行は足早にオランを南下し、港へと向かった。
やや迂回して、港近くの河に出る。
下流のため、流れは目に見えて緩やかだった。
橋の近くで、ショウを抱いたダルスの徒弟が待ち構えていた。
「おお、持って来てくれたか」
徒弟が持っていたのは、半分に切られた大きな樽だった。
ワヤンはカミーユを見た。彼女はうなづくと、神官服を脱いだ。下は革鎧に、短剣とポーチを腰にくくりつけただけの軽装だった。
「水、冷たそうだな・・・」
「心臓マヒで死ぬ確率より、敵に殺される確率の方が高いさ。それにあたしは、泳ぎには自信がある」
カミーユは胸元から、小さな袋を取り出した。
「これは礼だよ。もらってくれないと、あたしの気が済まない。いいね?」
ワヤンが袋を開けると、大きな宝石が5つ、手のひらの上に転がった。どれも千ガメルは下らないだろう。
「気をつけて」
「元気でね」
「がんばれよ」
カミーユは一人一人の頬にキスをすると、水に入った。その上に樽を被せる。
逃亡者の姿を覆い隠した樽は、いくつかのゴミに紛れて河を下って行った。
「・・・・・・行こう」
5人は武器を構えて、港へと歩き出した。
水は冷たく、カミーユの手足を痺れさせた。樽の隙間からそっとうかがうと、もう少し海は先のようだ。
(みんな・・・・・・無茶はしないで・・・・・・)
ふとカミーユはつぶやいた。
その時、どこからか戦いの声が聞こえてきた。ワヤン達が港で、敵をひきつけているのだろう。
ぎゅっと心臓をつかまれたような感触は、冷たい水のせいではなかった。
(お人好しの、優しい連中)
カミーユは必死で泳いだ。
彼らのためにも、必ず船に乗り込まなければならない。
その時、ゴツンと樽に何かが当たった。かすかに油の匂い。
カミーユは素早く水に潜った。一瞬遅れて、樽が燃え上がる。
(しまった!)
水面に出ると、岸の両側に二人の盗賊が弓矢を構えている。
慌てて水中に没すると、体のすれすれを矢が潜っていく。首を巡らせてみれば、背後からさらに二人、水中を追いかけてくる。
カミーユは泳ぎ出した。しかし、矢を恐れて水面には出れない。息をつごうと浮かび上がった時に、肩に梟を止まらせた、魔術師風の女がいるのにも気付いた。
(だめか・・・!?)
カミーユは水中で短剣を抜いた。戦いは不得手だが、どうしても切り抜けなければならない。
(ワヤン・・・・・・)
カミーユはきっと敵を見据えた。その時、異変が起きた。
突然、泳いでいた男達が水中に没した。そのまま男達は、もがきながら沈んで行く。
「・・・!?」
カミーユは何が起こったのか分からず、唖然とした。もし彼女に精霊を見る力があったら、彼らにまとわりつくウンディーネの姿を確認できただろう。
「どうしたんだ!?」
仲間の異変に気付き、弓を構えていた地上の二人と、魔術師も動揺した。
その直後、風を切る音と共に、一本の矢が射手の一人の喉を射抜いた。
声も立てれずに、犠牲になった射手は河に落ちた。
「な・・・!?」
何が起こったんだ、と言いたかったのだろうか。しかし残った射手も、背後から心臓の真上に、曲刀の刃を受けその場に倒れた。
カミーユと魔術師は、二人目を倒した人物を見た。長い、背後の闇にも負けないぬばたまの髪が、冷たい風に揺れた。
「ち、ちくしょうっ!」
女魔術師が、杖を振り上げて『ライトニング』を唱えようとした。
カーン!
矢が頚椎に当たる、硬い音が響いた。
魔術師は目を見開いたまま、どうと倒れた。
その後ろにある民家の屋根の上に、誰かがいるのをカミーユは見た。クロスボウをかまえた細身の青年は、くるりと身を翻し、消えた。
「・・・お前は・・・あの酒場にいたな。ワヤンの仲間か?」
「・・・・・・友人だ」
「そうか・・・名前を教えてくれ」
「リヴァースだ」
「リヴァース・・・ありがとう。さようなら」
再び泳ぎ出すカミーユを、リヴァースはじっと見送った。
送ると言い張るリードをまくため寄ったここで、カミーユを襲う賊をたまたま見かけたのだ。
「おばんでやす」
クロスボウ片手に、さっきの青年がリヴァースに声をかけた。
「お前は・・・フェザーとかいったな、ワヤンの昔の仲間の」
「よぉまぁ覚えとったな、その通りや。で、どないする?」
「・・・・・・何を」
「せやから港に援軍・・・・・・っとぉ」
フェザーは向こうの通りに目をやった。いくつもの影が、音もなく港へと走って行く。
「必要ないみたいやな」
「・・・・・・そのようだ」
二人はほぼ同時に、港のほうへ視線をやった。
「しつもーん」
「はい、ファークス君」
「今ので何人目だ?」
「じゅう・・・ご、かな?」
「十七だよ」
「おお、また来おったぞ」
「げ、こっちからも来たぞ!」
背中合わせに円陣を組むような隊形で、5人は戦っていた。
「さ、さすがにキツイな・・・・・・」
冷や汗をかきながら、レイシャルムが苦笑した。
全員、息があがっている。
「夜が、明ける・・・・・・」
そうつぶやいたのは、誰だったか。
ドオォーン。
はっと5人は顔を上げた。出港の合図だ。
「船が出る!」
「カミーユさんは、乗れたのか!?」
「・・・・・・」
ぞろぞろと出てきた敵を前に、5人は再び武器をかまえ直した。
「おっ!」
ファークスが叫んだ。その視線の向こうには、駆けて来るオランの盗賊ギルドのメンバー達がいた。
さらに、倉庫の間から、わっと多くのオランの盗賊達が出てくる。形勢は逆転した。
「もう大丈夫、行こう!」
セシーリカが言うと同時に、5人は走り出した。
船はゆるやかに、波止場を離れようとしていた。
「カミーユッ!!」
ワヤンの声に、船上のカミーユは振り返り、全員の姿を見ると、ぱっと顔を輝かせた。
「みんな、元気でーっ!」
カミーユは手を体を乗り出し、手を振って叫んだ。
「島に着いて、結婚して、女の子を産んだら、リリアって名前をつけるよ!!
二人目はセシーリカ、男だったら、順番にファークス、レイシャルム、ダルス、それからリヴァース!!」
「リヴァース!?」
ワヤン達は思わず顔を見合わせた。
「何があっても、あたしはオランを忘れない、お前達を忘れない!
ワヤン、元気で、幸せに生きろ!!
お前があたしの初恋だ!!」
ワヤンは足を止めた。
船は次第にその足を速め、明け始めた薄紫の空と、いまだ暗い海の間を進み、水平線の向こうに消えて行く。
誰もが、ある種の感慨を持って、それを見送った。
「あ、リヴァースだ」
セシーリカが声を上げた。
リヴァースは桟橋の脇で腕を組み、じっとこちらを見ている。
ワヤンは歩み寄った。
「リヴァース・・・あんがとよ」
「・・・・・・何の話だ」
「カミーユを助けてくれたんだろ。あいつが無事に船にたどり着けたの、お前が・・・・・・おい?」
「・・・・・・・・・・・・」
「リヴァー・・・・・・?」
どかあっ!!
「だぁーっ!?」
突然強烈な蹴りをくらい、バランスを崩したワヤンは海へと落下した。
大きな水柱がたち、派手な水音が港中に響き渡る。
たっぷり1分もたってから浮かんできたワヤンは、あまりの事に呆然としている。
「フン!」
無事浮かんできた事を確認した後、リヴァースは踵を返した。
「こら待てーッ!!俺がお前に何をしたーッ!!」
ワヤンの絶叫にも我関せずの体で、リヴァースはすたすたと立ち去った。
「言ってみやがれリヴァー・・・・・・はっくしょい!!」
仲間の笑い声を聞きながら、ワヤンは憮然とした顔で桟橋へ向かって泳ぎ出した。
 |