 |
No. 00014
DATE: 1998/12/05 00:59:16
NAME: ラッド
SUBJECT: 自分というもの
「たしかこの辺り・・・・一体なんだよな。たしか」
地図を右手に、メモ帳を左手にして、森のど真ん中につったっ
ているのは、ラッド。
今日もまた、家内にやるめずらしい物さがしの冒険をしてい
るのである。
今回の情報は結構自信がある。
ただ単に、前回の情報で行った所が大ハズレだったからとい
う事もある。
たしかにある。
その事で情報屋に八つ当りしようとしたら、今回の情報をく
れたというわけである。しかし、言うまでもないが誰にも言っ
てないとか、君だけに特別とかの言葉も、情報屋の口から出て
いる。
・・・・うまくはぐらかされた言うなかれ。
彼なりにうまくやった気でいるのだから。
「・・・・一週間じゃたりないかな・・・・」
今回の情報は、オランの街から山岳地帯へ進む事、4日の場
所にある高原を囲む山のどこかに、ドラゴンの住む洞穴がある
というものである。
しかし、この寒い中、雪深い山の中を遭難&死覚悟で冒険す
る無謀さ・・・・彼にとって妻がどれだけ大切か(脅威か)を物語っ
ているようなものである。
ちなみに先ほどの一週間というのは、帰り分を除いた携帯食
の量である。防寒着など道具をそろえるうちに、荷物が膨れ上
がり、携帯食の量を減らす事にしたのである。
無論、探索期間が長すぎると今の時期は危険と判断したため
でもある。
・・・・・・・・・この時期に山登りすること事体が危険なのに。
ざくざくざくざく
『五日目。滞在するによさそうな洞窟を発見。住人もいない
ようなのでここを拠点にする事に決めた』
ざくざくざくざく
『六日目。西側探索開始。熊に出会うが、それ以外の収穫は
ない。明日はもう少し足をのばすことにしよう。』
ざくざくざくざく
『七日目。昨日よりも足を伸ばしてみたが、収穫なし。
昼前頃、少し吹雪いたがすぐに収まった。』
ざくざくざくざく
『八日目。反対側の東側探索開始。鹿を何頭か見かけた。
・・・・夕方から吹雪始めた。明日の天候が気がかりだ。』
びゅ〜〜〜〜〜〜
『九日目。吹雪で動けず。』
そして十日目。
その日はかなり冷え込んでいたものの、吹雪は止んだ。その
ためラッドは、拠点の東側探索の続きをする事にした。
探索始めて半日、昼飯を食べるためにどこかで休もうとして
いた時だった。
「ん・・・・・」
まだ探索をしていない所に、洞穴・・・だろうか?それらしき
所が見える。しかもかなり入り口が大きい。
しばらく迷ったが、この際だからとばかりに洞穴へと足を運
ぶラッド。
そして昼飯を食べ終わり、この洞穴がどこまで続いているの
かたしかめるべく、静かに。なるたけ音を立てないように歩き
始めた。
静かに歩く理由は、もし寝ている住人がいる場合を想定して
の事である。
そしてちょっと奥へ進むと、なにかごちゃごちゃと岩以外の
物を見つけた。だが、あまりにも大量にあるため、カンテラを
つけて確認するかどうかを迷った。
幸い、かすかだが外の明かりが入る。
どうせガラクタだろうと思い先に進むと、突然広く高い場所
に出る。
さすがに奥は暗く、明かりが必要と判断。
火打ち石を打つ手が凍えてうまくいかず、二十分くらい格闘
するが、なんとか成功。カンテラに移して辺りを見回す。
・・・・・・・特になにもない。
こぶし大程の鳥のたまごが一つあったが、それ以外は見当た
らない。
「親がいないな・・・・この時期に餌を取りに行くはずはないから
捨てられたかな?・・・ま、何にせよ、持っていってみるか。」
割れないように丁寧にタオルで包み、防寒着を一度脱ぐと、
腰のところにくくりつけ、再度防寒着を着込む。
それからしばらくカンテラを持ってうろうろしていたが、行
き止まりとわかり来た道を戻ろうとした時だった。
心臓がドックンどっくん言っているのがわかる。
冷たくなっている指の先にまで、神経がいくのがわかる。
自分がここに来た目的を、半分忘れていた事もわかる。
いたのだ。
目の前に。
蒼い体の、巨大なドラゴンが。
「何をしにきた人間よ・・・・・」
先に口を開いたのはドラゴンだった。
「・・・お、おれはただ・・・・」
言ってハッと気がつく。
自分はドラゴンの宝をくすねに来た事を。
「ただ、何だ?どうせ私の宝を盗みに来たのであろう。」
その通りなので言いようがなくなり、黙り込むラッドに対し
て、どらごんのその表情を人の顔に直せば、どうしようもない
ようなあきれた表情をしていたであろう。
「・・・・何か・・・・そう、何か一つでいいんだ。オレはただめずら
しい物を探しに来ただけなんだ。頼むから、一つでいいから
ゆずって欲しい。このとおりだ。」
カンテラを近くに置き、土下座するラッド。
ドラゴンもこれには驚いた。
その後しばらくドラゴンとラッドは話し合い、ラッドの一つ
だけという条件を飲むことを了承した。そのかわりそれ相応の
ものをドラゴンも提示することになった。
「しかし、お前の宝はどこにあるんだ?」
座ったままカンテラを持ち、キョロキョロとするラッド。
そんなラッドにドラゴンは
「・・・人間よ、どこから入ってきたのだ?」
「は?」
ラッドの様子を見て、ため息をつくドラゴン。
そして一言。
「ここに来る途中に、置いてあったろう。あれがここにある私
の宝のすべてだが。」
間。
たしかに間があった。
「あの・・・・ガラクタの山が・・・」
ピクンとドラゴンが反応するのがわかる。自分がどれだけ失
礼な事を言ったのかもわかる。
けど、わからない。
「・・・・・ほう・・・・ガラクタと・・・・」
明らかに機嫌を損ねた。それもわかる。けどわからない。
ラッドはどうしても認めたくはなかった。
暗くてよくわからなかったが、あれが宝の山だったと認めた
くはなかった。たしかに、光るものがあったが、あれは石が
光を反射しているためだと思った・・・いや、そうなんだ!!
自滅状態のラッド。
そんな様子のラッドに見切りをつけて、ドラゴンはその蒼い
体をくねらせて、先ほどたまごがあった場所へと目を向ける。
すでにそこには、何もない。
「・・・・・・・そうか・・・・・」
なにか安心したようなつぶやきだった。
その後、平常心を取り戻したラッドは平謝りをし、なんとか
先ほどの約束を実行できるくらいまでドラゴンの機嫌を回復
させた。
そしてドラゴンの気の変わらないうちにとばかりに、めずら
しい物さがしにかかった。
ちなみにラッドが選んでいるその横で、洞窟の奥から首だけ
出したドラゴンがいる。
どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。
選び出したのは、青い石がついているだけのなんの変哲もな
い銀のネックレス。
ドラゴンは、再度聞く。
「本当にそれていいのか?」
「何度も言わせるなよ。人に害するような悪質なものじゃない
んだろ?なら、これでいい。」
ラッドの様子を見て、ドラゴンはしばらく何か考えていた様
であるが、意を決したように声をリンとして言った。
「ならぱこちらの条件を言おう。人間、お前のその右腕をここ
に残してゆけ。」
「なんだ、そんな事か。」
ラッドは笑ってそう言うと、自分のショートソードを使い、
一気に右腕を肩近くから切り落とした。
血が、辺り一面に飛び散る。
傷口にランタンの火を当て、出血を押さようとするラッド。
ゴロンと無造作に転がっている、つい先ほどまで生きていた
右腕・・・・・
大慌てで応急処置をしているラッドに、ドラゴンは
「・・・・馬鹿な人間もいたものだな・・・・」
「たしかにオレは馬鹿だな。でも、約束くらいは守らなきゃ
まずいだろう。」
ぎゅっと傷口に布を巻き付け終わったラッドが言う。
そして立とうとした瞬間、クラっとしたのがわかった。
「それだけの血を出しても、生きられるのか?」
冷静なドラゴンの声。すぐ近くからのはずなのに、離れた所
から聞こえるような気がするのは、なんでだろう。
なんとか立ったものの、壁にもたれかかっているのが精いっ
ぱい。歩かなければ、街にも戻れない。
「・・・・」
歩こうという気合はある。だが、足が動かない。
無情にも、傷口からは血がポタポタと落ちて水溜まりを作る。
「・・・人間というのは、わからんな。」
がしっと肩を掴まれた感覚があった。
「近くの村まで送ろう。それが私にできるお前に対す償いだ。
それに・・・・・」
ぼんやりと薄れゆく意識の中で、長身で青い髪のマントを羽
織った女性が最後に見えた。
気がつくと、山のふもとにある小さな村だった。
日をたしかめてみると、あれから五日程たっていた。
村の人にも色々と聞いてみると、オレを抱えてきた女性は、
「コイツを頼む」みたいな事を言うと、すぐに立ち去ってしまっ
たらしい。
その後、街から医者を呼んだりなんだりと慌ただしかったよ
うであるが。
今思えばであるが、ドラゴンはオレを試していたのであろう。
・・・って、誰にでも解る事だ。よく、家内に容量が悪いとか、
馬鹿正直とか言われるが・・・・たぶん、この辺の事から、そう言
うのだろうな。
否定は出来ないしな。
あと、ドラゴンは一降りの剣をくれた・・・いや、置いて行った。
オレは間抜けな無断進入者だというのに。
見た事もないような立派な片刃の剣なのであるが、片手では
振るのに少し慣れが必要になるような気がした。
ああ、たまごの事を忘れていた。
目玉焼きにも、ゆでたまご(しようと言う案はあったらしい)
にもされずに、毛布に包まれ温められていた。
なにが生まれるかなんて、わからない。
もしかしたら、すでに中身は死んでいるのやも知れないが、
温めて返してみよう。
それが人間ってもののようなきがするからな。
 |