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No. 00016
DATE: 1998/12/05 19:14:34
NAME: ラフティ
SUBJECT: ラフティの足取り(3)
ラフティ(2)
その日の朝は不覚にも、目が覚めたらすでに陽が昇っていた。
「・・いけない・・」
朝食代わりの硬パンを貴重な水で流し込み、乾燥肉をそのまま口に放り込む。
ゆっくりと咀嚼して肉を戻しながら、手早く毛布を丸めて愛馬の背に乗せる。
使い魔のミアと愛馬疾風(はやかぜ)にも朝食をやってから、地図を出す。
昨夜、星の位置から確かめた方角を元に、自分の現在位置を確認する。
・・・やつらの目的地は・・あそこだ・・この方向ならまず・・間違いない。
・・それに、追いつけないはずがない。これは罠なのだから。
オランの魔術師ギルドと盗賊ギルドを出し抜く輩が帰りに限って足取りを
つかまれるはずがない。
・・私を殺すか人質に取れば、一族は復讐の為に理性的な行動が取れなくなる。
それは大きな隙を作り出すことになる。
・・それでも行かなくてはならない。
私は砂漠の民なのだから。
・・ガサッ
物思いにふけっていた彼女は突然の人の気配に大きく跳びずさった。
同時に上着の隠しから短剣を引き抜いている。
はたして、木立の中から現れたのは一人の少年だった。
身なりからすると近くの村の子供らしい。小ぶりの鍬を持って半べそをかいて
いるところをみると、早朝の野良仕事で親に叱られて逃げ出したのだろう。
・・異常な精紳の精霊は感じられない。
何者かに操られているというわけではなさそうだ。
そこまできてようやく肩の力を抜く。そして、それだけ自分が緊張していた
ことを知る。
ふと、苦笑がもれた。
緊張していたことにではない。現れたのが敵ではなくてがっかりしている
自分にだ。
・・やはり私は砂漠の民だ。出し抜かれた屈辱を雪ぐため、相手の命を求めて
いる。
悲しいまでに砂漠の民だ。その自分を見ることが出来る知恵を彼女は持って
いた。それは悲しいことでもあった。
知っていながら、血に逆らえない自分。
それを情けないと感じながら、誇りに思う自分。
理解できる故に彼女は辛かった。
顔を上げると、そこには慄きよりも好奇の光を帯びた少年の瞳があった。
「・・珍しい・・?」
落ち着いた彼女の東方語に、少年は黙ったまま2度肯いた。
荷の中から、砂漠の民特有の紋を織り込んだ色鮮やかな布を引っ張り出す。
そっと少年に近づき、彼の肩にそれをかける。
「・・あげるわ。」
彼女のセリフに満面に喜色を浮かべた少年は、腰の袋から林檎を一つ取り出
して、皮手袋に覆われた彼女の手の平にのせた。
「交換、な!」
そう言うと、自慢しに行くのだろう、少年は嬉しそうに走り去っていった。
あの調子ではべそをかいていた理由などどうでもよくなったに違いない。
顔の下半分を隠す布の隙間からその果物を一口齧ると、心地よい酸味が口腔
に広がった。
「さて・・と。」
顔を巡らすと、主を待つ愛馬が、膝をついて待っていた。
・・罠の準備が完全に整う前に追いつかねばならない。
今日も強行軍だ。
続劇
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