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No. 00017
DATE: 1998/12/07 20:37:05
NAME: ラフティ
SUBJECT: ラフティの足取り(4)
・・ふと、夜中に目が覚めた。
何か物音が聞こえたのだろうか。自分でもよくわからない。
いわゆる虫の知らせというやつかもしれない。
迅風は起きてない。昼間、あれだけ走らせれば無理も無い。
・・もうそろそろ、限界か・・
まだ周りは闇のカーテンが低く垂れ込め、焚き火の小さな炎だけが辺りを
ぼんやりと映している。
手袋の中の発動体の指輪がしっかりはまっていることを確認する。部族の
宝剣「砂の刃」も手元にある。
・・突然、焚き火の炎が爆ぜ、彼女を襲った。
・・来た!!
<炎の矢>は幸運と、「流砂の衣」の所為で大した傷を与えることはでき
なかった。その炎の光のおかげで周囲の闇に潜む<シェイド>の存在が見て
とれた。
手早く印を組み、呼気と共に上位古代語で叫ぶ。
《明かりよ!!》
魔法の光が周囲を照らし出すと、闇の精霊の気配が消えるのを感じた。同
時に防砂装束に身を包んだ人影が現れる。
(・・二人か)
足元に短剣が刺さる。反射的に後ろに跳んで距離をとった。肉弾戦はあま
り得意ではない。そっちの訓練もしっかりしておくべきだったと今更ながら
に後悔する。とりあえず、一気にケリをつけないと危ない。
二つの影が重なる。
(!!)
右腕を大きく回し、胸の正面で左手と重ね、指を絡めて前へ突き出す。
全身をもって組まれる印は魔力を集め、唱える呪言は術を形作る。
《暗雲よりの風よ・・刹那の命の光よ・・我が内なるマナを源とし、雷を導
け!!》
目も眩まんばかりの光が溢れ、その奔流に飲まれた影が絶叫をあげる。手
応えはあったが、致命傷にはなってないようだ。続いて焚き火の残り火から
炎の精霊を呼び出す。
起き上がって、曲刀を振りかざす影を受け流し、下半身を蹴り飛ばす。う
めいて転がるその影を無視し、そちらよりも雷撃の影響を強く受けた影に炎
を飛ばす。確かな手応えを感じ取り、目標を残った一人に集中する。男にし
か分からない痛みをこらえ、立ち上がった影は曲刀を振り回して飛びかかっ
てきた。完全に接近戦に入ったため、術を使う余裕が無い。渾身の力をこめ
て振り下ろされる曲刀を辛うじて避け、「砂の刃」で受け流す。相手の戦い
方は真っ向勝負の戦士のものだ。その技量は彼女を僅かに上回っている。彼
女の戦い方は正面からの戦いでは不利だが、実の所腕力では相手を凌駕して
いた。一般的なエルフは光、闇に関わらず細腕である。
突き出された刃が脇腹を掠める。皮膚を僅かだが切られ、一瞬痛みが走る。
それを我慢し、一歩踏み込んで左腕で相手の右腕を抱え込んだ。この距離で
は曲刀は使いづらい。「砂の刃」を離し、隠しから懐剣を抜いて喉に突きた
てる。慌てて相手も左手で手首を掴んで止めた。そのままギリギリと力比べ
になる。彼女の方が有利だったが、不意に右手の力を抜いた。
バランスの崩れた相手の下腹部に2発、膝蹴りを叩き込む。手首から相手
の拘束が消えた。今度は抵抗なく細身の刃はダークエルフの首に吸い込まれ
ていった・・。
荒い息を整えながら、彼女はぼんやりと考えた。
・・この下っ端はただの斥候だろう。2人がかりで私にやられる程度の連中
だ。だが、奴らの企みは彼女を殺すことではなかったはずだ。そうであるな
らば、もっと強い奴を寄越している。
この2人の目的は、私を疲弊させることだろう。不定期に襲撃を繰り替え
せば、私の精神は緊張感で擦り減り、戦闘で激しく消耗するだろう。
満足な休息を取らせないつもりだ。そして、彼らはその任務をほぼ完璧に
遂行した。
・・このまま正面から行っては勝ち目が無い。どうするべきか・・
今更ながら旅をやめるよう説得した部族の戦士、スフィリア・フィルドの
顔が思い浮かんでくる。彼がディーサス族との戦闘に欠かすことの出来ない
戦力でなければ、是が非でもついてきたことだろう。
・・いけない。こんなことを考えている様では・・
・・どこか弱気になっているようだ。
・・もう一度、もう一度奴等への殺意と部族の誇りと血の名誉を思い出せ・・
続劇
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