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No. 00020
DATE: 1998/12/10 16:27:28
NAME: ルルゥ
SUBJECT: 三面の悪魔〜神官戦士マリウスの告白〜
やぁ・・・・・・これは、ようこそおいでくださいました。あなたがヒム先生ですね?・・・・・・ええ、息子から・・・・・・ルルゥから聞いています。
それで・・・・・・今日は一体何の御用で・・・・・・?
・・・・・・・・・・・・。
そうでしたか・・・・・・わかりました。
ああ、お前。お茶はいいから、奥へ行っていなさい。
・・・・・・申し訳ありませんな・・・・・・あれには、聞かせたくないので。
何もかも、お話いたします。
私の罪を・・・・・・。
ファリスよ、私をお赦しください・・・・・・いや・・・・・・ルルゥよ、父を赦しておくれ・・・・・・!
すべての始まりは、ディアーヌという女性と出会った事でした。もう20年も前になります。彼女は貴族の娘で、金の髪と蒼い瞳が喩えようも無く美しい女性でした。
ディアーヌはいつも、大勢のとりまきを連れていました。恥ずかしながら、私もその内の一人だったのですが・・・・・・。
男達はこぞって彼女に求婚しましたが、結局ディアーヌが選んだのは、ムディールから留学に来ていた旧家の御曹司でした。
周囲が反対する中、二人は駆け落ち同然に結婚したのです。
恋に破れた私を慰めてくれたのは、ディアーヌの妹のミシェールでした。二人は外見こそよく似ていましたが、性格は正反対でした。
私は彼女の優しさにうたれ、すぐに結婚しました。・・・・・・ええ、そうです。さきほどの、妻の事です。
翌年にはルルゥとルチアが生まれ・・・・・・あの忌まわしいファラリスの呪いさえなければ・・・・・・私達は、誰よりも幸福でした。
姉妹は仲が良かったので、ディアーヌがムディールに行った後も、年に何回か手紙が来ました。
私達の2年後には、彼女にも息子が産まれました。母親に似た、金の髪と蒼い瞳の男の子で、リュシアンという名前でした。
しかし・・・・・・その頃から、ディアーヌとの手紙のやりとりが絶えました。その直前の手紙を読みかえせば、愚痴と己が不幸を嘆く言葉ばかりです。
大都市オランに生まれ育った、派手好きで奔放なディアーヌには、田舎暮らしは苦痛だったのでしょう。「オランに帰りたい」そんな文字が必ず書かれてありました。
さらに時が経ち、10年前の・・・・・・あの事件が起こりました。
ルチアがかどわかされ、そして・・・・・・。
残されたルルゥは、完全に正気を失っていました。
ルルゥは母親に似て、もともと神経の細い子供でした・・・・・・あまりの恐怖に、心が耐えられなかったのでしょう・・・・・・。
・・・・・・はい。
そうしてさらに数年が立ち・・・・・・私は悲しい報せを聞きました。
ディアーヌの嫁ぎ先であった「シェンホア」の街が、一夜にして壊滅したというのです。何者かが住民を殺し、火を放ったのです。
わずかな生存者の中に、リュシアンがいました。
私は迷わず、あの子を引き取りました・・・・・・他に身寄りもいない甥を、かつて愛したディアーヌの忘れ形見を、放ってはおけませんでしたので・・・・・・。
オランにやって来たリュシアンを見て、私達は驚きました。
似ている、などというものではありません・・・・・・リュシアンは、ルルゥに生き写しでした・・・・・・。
リュシアンは本当にいい子でした・・・・・・賢く、よく気がつき、真面目で優しい・・・・・・理想の息子でした。
どうしてリュシアンが、私の本当の息子でなかったのか・・・・・・そんな事さえ、考えました・・・・・・。
そのせいだとは、思いたくありませんが・・・・・・。
6年前のある日・・・・・・ルルゥがいなくなりました。
私達は必死で探しました。あの子はどうやってか家を逃げ出したのです。
・・・・・・・・・・・・。
そうです。
私は世間体のために、ルルゥが発狂した事実を隠し続けていたのです!
決してあの子が人目に触れないように、窓に格子をはめ、一歩も外には出さなかったのです!!
それでも・・・・・・あの子は・・・・・・家から出ていったのです。
ルルゥはすぐに見つかりました。
神殿の鐘つき塔の下で、墜死体となって・・・・・・!
何故そんな所に登ったのか・・・・・・どうして落ちたのか・・・・・いいえ、そんな事はどうでも良いのです。
報せを聞いた妻は、すっかりおかしくなりました。
妻は傍らにいたリュシアンを抱きしめ、こう叫んだのです。
「何をおっしゃるんですか、ルルゥはここにいるじゃありませんの!」
・・・・・・・・・・・・。
さっきも言いましたが・・・・・・妻はとても、神経が細いのです。息子の突然の死に、現実を見失うほどに・・・・・・。
その夜、リュシアンが私の元を訪れ、言いました。
「おじさん、ぼく、ここの子になるよ」
(いいよ、ぼくルルゥになっても・・・・・・?)
私は・・・・・・私はもう、失いたくなかった。
ルチアを失い。
ルルゥを失い。
さらにミシェールまで失うなど・・・・・・耐えられなかった!
私は医師を呼び、リュシアンに薬を飲ませ、暗示をかけました。
幼い頃の思い出を語って聞かせ、「ルルゥ」の記憶を作り上げました。そして、塔から落ちたのはリュシアンだという事にして・・・・・・葬儀をすませました。
こうして「リュシアン」は死に、「ルルゥ」が残りました。
この事を知っているのは、あの医師が亡くなった今、私一人です。
・・・・・・・・・・・。
私は、この日をずっと待っていたのかもしれない。
リュシアン・・・・・・私を、赦しておくれ・・・・・・この、愚かで弱い、身勝手な男を・・・・・・!!
レーン邸を出た私は、疲労感に襲われていた。
あまりにも意外な事実に、頭が悲鳴をあげている。
だが、これでいくつかの疑問が解けた。彼の記憶の矛盾は、人の手によって作られていたため・・・・・・そして、あまりにも幼い肉体と精神の理由は、実は彼がいまだ14歳の少年であったためなのだ。
そして、「闇」が生まれた理由。
それは、「光」として、ファリスの神官である両親の「理想の息子」の仮面を被ったリュシアンの、歪められた心の影が、魂を離れ独立したため・・・・・・。
人の心には、かような事が起こり得る。一つの「仮面」を被り続ける内に、「仮面」が一つの人格として一人歩きを始め、やがて二つの「顔」になる。
リュシアン・・・・・・彼は何を思い、自分を捨て、ルルゥになったのか?
思い当たる事はいくつかあるが、それはあまりにも苦しい想像だった。
シェンホアで何が起こったのか、それを確かめなくてはならない。
とはいえ、私はルルゥ君から目を離せない・・・・・・そうですね、リデル君に協力を頼みましょうかね・・・・・・。
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