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No. 00022
DATE: 1998/12/11 19:08:39
NAME: ラフティ
SUBJECT: あ・し・ど・り♪(6)
結局、その夜は今後の方針を確認する為にその場に留まることになった。そ
れよりなにより、体力の消耗が著しいラフティを休ませようとの意見が本人
を除く全員で一致したからである。
彼女はここまでろくな休みもとっておらず、防塵用の覆面で顔色を窺うこと
はできなかったが、その態度と言動の端々に疲労が色濃く反映されていたの
である。
焚火を囲んで食事をとりながら、ラフティは説明を始めた。
「・・・サキールリングやディーサス族についてはアーバストさんから伺っ
てらっしゃると思いますが・・・」
ラフティはそこで賢者が肯くのをちらりと見た。
「そもそも・・・」
彼女は小枝を拾って地面にがりがりと線を引き始めた。それは、現在信じら
れているアレクラストの地図だった。
「・・・私たちの住むカーン砂漠は大陸のほぼ中央に位置しています」
それはここにいる全員が知っていることだ。
「・・・サキールリングの創造者、フィドグニール=ドゥ・サキールはサキ
ールリングを大陸の西端、ワイアット山脈の付近に隠したとされています」
地図の端に印をつける。
「そして、大陸の中心、東端にも施設を設け、大陸の何処でも指輪の力を発
揮できるようにしたとされています」
「おい、ちょい待ってくれ」
パーンが割り込んだ。
「ってすると何か?ここら辺にもそのリングがあるってのか?」
その問いに彼女は首を横に振った。
「すみません、語弊がありましたね。その二つの施設は指輪を運ぶ為のもの
・・・『移送の扉』なんです」
『移送の扉』・・・場所指定型のテレポーターである。古代王国時代、魔法
の《テレポート》が使えない蛮族や、貨物運搬用に使用されていた例がある。
「・・・やっかいですね・・・」
アーバストが唸った。
「まったくだ。向こう側に行かれたら、地の利がない分我々が不利だ」
カールがそれに同調する。
「・・・・・・皆さんに迷惑はかけられません。これは元々私の・・・」
「待て」
ラフティのセリフをキリュウが止めた。
「他の者はともかく、拙者にとってはこれは修行だ。この間のような手応え
のある敵と戦う機会をとらないでもらいたい」
キリュウの物言いに、アーバストは苦笑を漏らした。
彼の依頼内容には反するが、ここで簡単に引き下がるわけにもいかない。
「で、砂漠にある遺跡の方はどうなってるんですか?」
アーバストの質問に、彼女は少し声を落とした。
「・・・私たちは今までそのような遺跡を発見できずにいました。それと、
サキールリングの伝承は元々部族のものでした。なぜ、ディーサス族が伝承
を知り得ることができたのか、当初部族内でかなりの議論が交わされました。
裏切り者がいるのではという噂までたちました。ですがその答えが調査の結
果、出たのです。ディーサス族は砂漠の遺跡を発見し、そこにあった石盤か
らリングの伝承を知ったのです」
そこで一旦言葉を区切った。
「・・・ディーサス族はさほど大きな部族ではありません。それが、比較的
多くの人員がこっちに派遣されています。今までの手口を見る限り、ですけ
ど。我が部族と戦闘中の今、長期間にわたってそんなに戦力を割くことはで
きません。つまり・・・」
「・・・『移送の扉』を使った、というわけか」
カールが語を継いだ。
「おそらく・・・」
しばし沈黙が辺りを支配する。
「で、これからどうするの?」
その呪縛を破ったのはセシーリカだった。
「時間が勝負です。できるだけ体勢が整わないうちに強襲しなくては。時が
経てば経つほどこちらにとって不利になります」
ラフティは今すぐ出発しようと言いかねなかった。
「まずは体力を回復させることですよ。追い付いても、その身体では何もで
きませんよ」
子どもを叱る母親のように言ったのはカルナだ。
「・・・・・・ルルゥさん!?」
カミルの悲鳴のような声が聞こえたのはその時だった。
全員の視線がルルゥに集中する。ゼザに抱きかかえられるようにしてぐった
りとしている。
「・・・意識がありません・・・かといって、『無』が出てくる様子もあり
ませんが・・・」
ゼザのセリフに真っ先に反応したのはラフティだった。
「オランにすぐ戻って下さい。ゼザさんと・・少なくてもあと一人。護衛が
必要です」
「護衛?」
パーンが不思議そうに彼女の方を見る。
「ディーサスの連中は常に私を監視しています。皆さんが追い付いたのも知
っているでしょう。追い付いたのに、帰る人たちがいる」
「・・・何らかの作戦、もしかしたら増援の要請だと思うだろうな。敵の指
揮官が優秀なら、いや、凡才であっても、いらぬ憂いは断っておこうとする
はずだ」
集団戦闘の指揮官としてはこの中でもっとも長けているカールが説明を続け
た。
「それにゼザさんが看病につくとして、馬車を駆る人が必要ですから」
カルナの言い分ももっともである。
「・・・私が行く」
セシーリカが手を挙げた。「ルルゥを放ってはおけない」
「セシーリカならなんとかするだろうな」
カールが少し安心したように言った。
「道中はな。オランに帰ってからが心配だぜ。向こうの連中にちゃんと説明
できるんか?」
パーンの軽口に、セシーリカはむっとしたように頬を膨らませた。
「ここで冗談言ってる場合じゃないだろう。馬には悪いが、すぐに出発した
方がいい」
たしなめたカールに頷いて、セシーリカとゼザは準備をはじめた。
徐々に闇のヴェールに擦れていく馬車を見送って、残った一行は交代で見張
りをしながら休息をとった。
明け方近く、アーバストが見張りについている時、ラフティが静かに起きて
きた。
「まだ寝てて下さい。夜が明けるまでにはまだ間が・・・」
彼女はアーバストの横に腰を降ろした。弾ける炎だけが存在を主張している。
「・・もう大丈夫です。・・・・・・すみません」
「何を謝るのですか?」
彼は優しく尋ねた。
「私の・・私の所為であなたや、みんなをこんなことに巻き込んでしまって
・・・」
「みんな、ある意味好きでやってますからね。気にしないことですよ」
「そういうわけにはいきません。私は・・・私は・・・そうまでしていただ
けるような人間ではありません・・・」
アーバストは彼女が震えているのに気づいた。
「・・私は・・・自分が抑えられない・・・本を取り返す・・・それだけで
は・・・この昂ぶりは・・この苛立ちは・・あいつらを殺さなくては治まら
ない・・殺さなくては・・!!・・・・こんな自分が・・」
アーバストにはただ、手元の外套を嗚咽に震える肩にかけてかけてやること
しかできなかった・・。
そして、陽が昇る・・・。
続劇
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