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No. 00023
DATE: 1998/12/12 02:36:24
NAME: シャウエル
SUBJECT: 精神崩壊1
トントン
「どうぞ」
返事が帰ってくると同時に扉を開けて部屋に入る。
こんな夜中だというのに、まだ仕事があるらしく、机に向かっている主、ソスト。
「主、話がある。」
「こんな夜更けに何の用だ、シャウエル。」
「単刀直入に言う。あの麻薬の販売は止めてくれ。」
それを聞くと、ソストは仕事をしている手を止めて
「なにを言い出すかと思えばそのことか。いくらお前の頼みと言ってもそれはだめだ。」
「そこをなんとか、止めてもらえないだろうか。このままあの薬が出回り続けると未
来の納税者が減ってしまって困るのだが。」
「だめなものはだめだ!お前はわしに雇われた用心棒じゃろうが!用心棒なら用心棒
らしく邸の警備でもしておれ!!!」
と、はっきりと言切られてしまった。
しかし・・・・私の話をちゃんと聞いていたのだろうか?
「それを言われると身も蓋もないが・・・とりあえず、私はこの薬の販売には反対だ。」
ソストは回転椅子をくるりと回し、私に背を向けると
「それはワシを裏切るということか。」
「そうはいっていない。」
なんてったって、三食寝床付きはかなりの好条件だし。
「金をもらっているから、その分はちゃんと働く。ただ・・・」
「なら、問題無いだろう。・・・・用が済んだのなら仕事に戻れ。」
雇い主にはやっぱり勝てないか。
しかたなく、部屋を出て扉を閉めようとした時
「まて。」
「?」
ちょっとびっくりした。
顔を上げてみると、ソストはいやらしい笑みをうかべながら
「まぁ、せっかく来たんだから一杯付き合え。」
と、机の引き出しから、グラスやワインやおつまみが出てくる。
『なぜ。なぜに、机の引き出し・・・・・・・』
シャウエルの頭の中に浮かぶ、素朴な(?)疑問のことなど、ソストは気づく訳がない。
「まあ、飲め。」
シャウエルにグラスを押し付け、ワインをそそぐ。
『・・・・飲んでみるか・・・・・あ、うまい』
グラスの中のワインを一気に飲むと、ソストはどこから出したかわからないが、怪し
く七光りしているゼリーを
「食ってみろ、うまいぞ〜」
と進めてくれたが・・・・・・なんか、山のように皿にもってある。
しかも一部は乗り切れなくて、机の上にこぼれているし。
『アヤシイ。数限りなくアヤシイ。どうしようかな?』
シャウエルが迷っている事に気がついたソストは
「まぁ、食ってみろ〜」
と、皿ごとシャウエルの口の中に放り込む。
慌てて皿を口から出そうとしている所に、机にこぼれていたのもつぎ込まれる。
ごっくん
・・・・・・・・なんで全部飲み込めたかは、議論しないでおく。
飲み込んだのがショックなのか。飲み込めた事に感動しているのか。
とにかくボケーと立っているシャウエル。
その間にソストは、その辺りに置いてある小箱を机の上に移動させた。
そして
「シャウエル。お前、ワシの主治医の顔はわかるな。」
いきなりの質問に、無条件でコクコクうなずくシャウエル。
『たしか・・・痔になったときのための医者だっけな。・・・・・・また無駄な事を・・・』
考え事をしている間にも、ソストから小箱と紙切れを手渡され
「場所はここに書いてある。頼んだぞ。」
『どうやら警備はサボれそうだ。』
「では行ってくる。」
そう言い残して扉を閉める。
その後、扉の向こうからソストの押し殺した笑い声が不気味に響く。
『今日はいい具合によっているようだ。とても気分がいい♪』
地図に示された場所に向かう途中である。
鼻歌なんぞ歌いながら歩いているシャウエル。
『う〜ん♪気分が浮かれているからか、足元も浮いているような気が・・・・』
浮いている。
しばらく、立ち止まって考えていたシャウエルであるが
『浮いている・・・・浮いている。やはり私は、選ばれた』
なんの前触れも無しに、いきなり落ちる。
地面に突き刺さり、下半身が地面に埋もれる。
「・・・・・・」
ふっ。と突然口元から笑みがこぼれる。
『地面さえも、私をよける・・・・やはり。わたしは。私は、選ばれた』
目の前と意識が、突然消えた。
まるでテレビの声と映像が、プチンと同時に消えるがごとく。
よろよろとした足どり、目の焦点と見ている場所がわからなくなったあやしい男。
それでも小箱をかかえ、気ままに亭へと向かう・・・・
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