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No. 00028
DATE: 1998/12/15 20:11:41
NAME: ラフティ
SUBJECT: あ・し・ど・り♪(7)
「チッ」
パーンは剣を構えたまま舌打ちした。
「不意打ち奇襲はお家芸ってか」
木にもたれかかった肩の動きは、激しい。
「くそったれめ」
悪態と同時に、右ななめ後ろに現れた気配に向かって剣を振り上げた。
ダークエルフに襲われたのは、馬を降り徒歩で森に入って、半日以上経って
からのことだった。
木々の間から猿(ましら)の如く飛び掛かってきては、一撃組み合ってすぐ
に退いていく。もしくは、何らかの毒が塗られた短剣を投げてくる。
非常に組み打ち難いやり方だ。
幸い、今の所毒に犯された者はいないが、このままではそれも時間の問題だ。
相手が見えなくては攻撃的な術は使えないし、効果範囲が広いものは仲間を
巻き添えにしてしまう。
「アーバストさん」
ラフティの低い声に、幹にもたれかかっていた彼はゆっくり振り返った。
「《幻視》、使えますか?」
抑え込んだ声は、内心の焦りを感じさせた。
「ええ」
「私が周りに火を放ちます。それを大きくして下さい」
彼女の作戦は単純だ。だが、効果的だろう。
「これを使って下さい」
ラフティから手渡されたのは、小ぶりの魔晶石だった。
「・・・いいんですか?」
「まだ先があります。無闇に疲れることはしない方がいいです。それに、ま
だ2つありますから」
そう言って、彼女は呪文のための精神集中に入った。
〔・・・炎よ・・・〕
てっきり《炎の矢》を使うのかと思ったが、彼女は1本の松明に《着火》す
るに留めた。そして、その火をあるだけの松明に移す。
「おい」
少し離れた所にいたカールがそれに気付いて目を見張る。
「森を焼く気かっ!?」
驚きと非難のないまじった声があがると同時に、彼女は松明を次々と四方に
放った。
〔万物の根元たるマナよ・・・其は現実にあらず。我が心のままに現実を映せ〕
魔晶石の力を使って出来る限り広い範囲に術の効果を及ぼさせる。
松明の炎が大きく燃え上がる。程度の差はあるにしろ、実際の熱をも伴った
幻覚は相手にパニックをもたらした。カールの一言も幸か不幸かそのパニッ
クに拍車をかけた。
後方に退いていく者。不幸にも前に飛び出してくる者。
戦士達が前に出てきた連中を瞬く間に切り伏せ、そして最後のダークエルフ
の断末魔の悲鳴がその戦闘の終わりを告げた・・。
「あっ」
火が自然に鎮火したのを確かめ(生木には燃え移りにくいものなのだ)、血
塗れのバスタードソードを大きな葉で拭って、一休みしようとしたカミルは、
すぐ横を駆け抜けた影に思わず声をあげた。
「!!・・・追って下さいっ!!」
影は、ラフティだった。
完全に裏返ったアーバストの声に、全員が動いた。
「こき使ってくれるよっ!!」
パーンは鎧をガチャガチャ言わせながら重い足を必死で動かした。
「彼女の考えもわからんではないがなっ!!」
カールがゼーハーやりながらそれに答えた。
野戦用に改造してあるとはいえ、板金鎧で走るのはつらい。
確かに、逃げる相手の後を追い、間髪入れずに急襲することは戦略上有効だ。
だが、それは追う方に余力がある時に限る。そして、今の彼らは決してその
ような状態とは言い難い。はっきり言って、無謀だ。
「・・・・・・」
アーバストは無言で走った。彼女を突き動かしている「もの」を知っている
からだ。彼女は1秒でも、一瞬でも早く終わらせたいのだ。
「速いですね・・」
カルナが感心したように言った。
確かにラフティの足は速い。だが、見失うほどではなかった。
ほどなく、足を止めた彼女の背中に追いつくことが出来た。
「ゼッ・・ハ〜・・一言言ってくれ・・・!!」
荒い息を整えながら、前を見たパーンは一瞬自分の目を疑った。
「・・・これ・・・」
他の面々も、目の前のものの不自然さに目を見張った。
その、少し開けた場所にあったものは、苔一つ、ツタ一本付いていない、黒
い滑らかでつややかな巨大な半球体だった。
続劇
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