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No. 00029
DATE: 1998/12/15 23:23:21
NAME: ヨセクCF
SUBJECT: エルフの村の家出娘
新王国暦510年、春の出来事だった。
「やだ! あたし、自分で決めるもん!!」
エルフの少女が、家を飛び出てくる。
「エレナ!! どこに行くつもりなんだ!?」
エルフの青年が、少女の後を追う。
「コホコホ…」
いかにも病弱そうなエルフの女性が、少女が飛び出た扉から顔を
覗かせていた。その顔は涙で濡れている。
しばらくすると、先程の青年が戻ってきた。
「すみません、母上。 エレナを見失ってしまいました。」
「仕方ないわ、ヨセク… そのうち戻ってくるでしょう。」
しかし、数日経過してもエレナは戻ってこなかったのだった。
「ヨセク、悪いがエレナのことは頼んだぞ。」
青年と同年代か、少し年上に見える男性が声をかける。
「母上、エレナは必ず連れて帰ってきます。」
こうして、少女は住み慣れた村を旅立ち、兄がその妹探しの旅に
出ることになったのだ。
…
それから更に85年前… 当時、少女の村はある男性が行方不明
になったという話しで持ちきりだった。
それはもっぱら、人間の仕業だという話しが大勢を占めていた。
彼は、このエルフの村で一位を争う腕利きの狩人であり、人間の
魔の手から村を救った英雄でもあった。その功績から、族長の家に
迎え入れられることになり、そこの末娘と結婚したのだった。
その娘は生まれつき病弱ではあるものの、容姿は美しかった。彼
自身も、その末娘をたいそう気に入り、そして愛した。
それは、子供にも恵まれ、幸せな生活を送っていた矢先の出来事
だった。彼の末の娘であるその少女は、父の顔を覚えてはいない。
…
「何をされたんだ!? その人間に何をされた!!」
突然の怒鳴り声に、小鳥が木々から飛び立つ。
「別にぃ… あたし、なぁーんにもしてないよぉ!!」
「おまえが何かしたとは言ってない!」
家の中で、若い男性と少女は対峙していた。
「兄上、落ち着いて…」
「黙っていろ、ヨセク。
こいつには、しっかり言っておかなければいけないんだ!
若い男性は、少女に詰め寄る。
「人間の所に行くだなんて、不謹慎なことをするんじゃない!!
そんなことをしているから、人間に呪いをかけられたんだぞ!?
エレナ、おまえは父の二の舞いになりたいのか?」
「兄上、父上の失踪が人間の仕業という証拠は無いのですよ!」
「おまえが我が種族を理解し、種族の誇りを持って行動できるよ
うになるまでは、村の外に出ることは許さん!
物事を見て、どう考えるべきか、しっかりと教えてやる。」
少女は玄関に向って、兄の手から逃げながら走った。
「人間にも、良い人がいぃ〜っぱいいるもん! 兄さん達の、古
くさい考え方なんてやだ! あたし、自分で決めるもん!!」
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