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No. 00031
DATE: 1998/12/16 20:28:10
NAME: ラフティ
SUBJECT: あ・し・ど・り(完結?編)
「・・どうする」
様子を伺っていたカールは振り返って仲間に意見を求めた。
彼らが少しの間見守っているうちに、いずこからか帰ってきた2人のダーク
エルフが半球体の一ヶ所に設けられた入り口から入って行った。今現在、
見張りは4人。そして、中には少なくとも先程の戦闘の生き残りと、今の
2人。
「そうね・・」
小首を傾げるカルナと同様に、他のメンバーも頭をひねる。
「・・・ミア、ここで待ってなさい」
ラフティが使い魔の白猫を地面に降ろした。そして、余分な荷物を全て捨て、
出来るだけ身軽になる。
「行きます」
「しょ、正面から行くつもりですか?」
カミルの声に、少女は抑揚のない口調で答えた。
「・・・もうこれ以上は・・・無理です・・・」
その言葉の真意をつかめたのはアーバストだけだった。仇敵を目の前にして、
彼女の感情を締め付けていたタガが外れかかっているのだ。
「急ぎましょう。暗くなる前にケリをつけないと」
別の理由を示して仲間を促す。確かに、すべからく精霊使いであるダークエ
ルフと暗闇で戦うのは分が悪い。
「ふうっ・・」
カールが息を抜いた。
「仕方ない。パーン、キリュウ、カミルは右からまわってくれ。俺とカルナ
は左から。二人は援護を」
〔我が内なる力マナよ。刃を阻む不可視の盾となれ〕
突然、全員を淡い光が包む。《プロテクション》だ。光はすぐに消えたが、
効果はまだしばらく続く。そして、詠唱は続いた。
〔マナよ。勇気を導き心を鍛えよ〕
《カウンターマジック》である。両方とも代表的な支援魔法だ。
「・・・行きます」
「おいっ!!」
カールの制止を無視して、ラフティは更なる呪文の詠唱を始めた。今度は、
精霊語だ。
〈猛き風、貴き風の精霊よ。王が望むは静寂、我が求むるは沈黙。彼の音を
斥け給え〉
《沈黙》をかけられたダークエルフ達の表情が変わる。
「〜〜〜〜っ!!行くぞ!!」
カールが愛剣を抜く。
せっかくの魔法の効果が切れてしまってはもったいない。
半球体の中に入ろうとしたダークエルフの足に、矢が突き刺さる。カルナだ。
走り出した男たちの背を見て、ラフティは砕けた魔晶石の欠片を捨てた。
そして、懐から羊皮紙の束を取り出して、アーバストに手渡した。
「アーバストさんが、持っていて下さい」
・・・あの本の写しだ。
「・・・ですが・・・」
「今の私は後方で援護などしていられません。・・・気分的に。ですから、
あなたが持っていて下さることが、一番安全なんです」
アーバストは彼女の意志が固いと知るや、ため息をついて受け取った。
「わかりました。でも、後で必ず返しますからね」
一瞬、覆面の奥の彼女の目が悲しげに微笑んだ・・・ようにアーバストには
見えた。
次の瞬間、彼女もまた沈黙の中の戦闘へ参加するべく、走り出していた。
半球体の中に入るとすぐに下りの階段が伸びていた。
それを降りると、短い通路があり、その両側に一つずつ扉があった。そして、
通路の突き当たりには一回り大きい両開きの扉がある。
先頭を行くラフティは二つの扉には一瞥もくれずに、まっすぐ大扉へと歩を
進めた。
その扉の向こうは、予想していた通り『“扉”の間』だった。広い半球体の
部屋の中央に魔法陣が描かれている。そして魔法陣の周囲には小さな窪みが
あり、そのほとんどに魔晶石が納められていた。
そして。
「くっくっくっ。お待ち申し上げておりましたよ」
“扉”の反対側にいた黒装束から、人を小馬鹿にした口調の声がかかる。
黒装束の数は6。その中の何人かは明らかに手負いだった。
その中で赤い布を肩にかけたリーダーらしき人物が喋っていた。
「貴様は・・・ハンブルド!ハンブルド・ディーサス!」
ラフティの荒い口調に少しでも彼女を知る人は少なからず驚いた。彼女が
「貴様」などというのを聞いたのは初めてだった。見ると、彼女が怒気で一
回り大きくなったように見える。
「ディーサスの暗殺長自らがこんな所にまで御出張とは、御苦労様ですね」
挑戦的な物言いも、聞いたことがなかった。
「いやなに。バルトークの姫君が一人旅に出たと聞きましてね。最近は何か
と物騒ですから、私めがお守りさしあげようかとおもいまして」
反面、ダークエルフの暗殺長は余裕たっぷりだった。覆面で表情が見えない
分、軽い口調が不気味だ。
「人を傷付け、本を盗んでまでですか」
「本?・・ああ、これのことですね」
マントの奥からあの盗まれた『中原伝承録』を引っ張り出した。
「・・・まだ持っていたのですか」
「帰るための“おあし”が足りませんでね。貧乏人は大変ですよ」
「・・・・・その魔晶石ですか・・・」
本をしまったハンブルドはおお、と手を叩いた。
「よく御分かりですね。その通りです。この『移送の扉』は使うたびに大量
の魔晶石が必要でしてね。あと一つほど足りませんが、あなたの後ろにおら
れる低能用心棒を始末したら、またオランにまで戻って心優しい方から頂い
てきますよ」
「・・・その低能に何人あなたの部下はやられたのでしょうね」
ラフティの挑発もものともせず、ハンブルドは肩をすくめた。
「なに。オランであなたがたは一人の部下に随分とてこずったようではない
ですか」
「・・・!」
一行の間に緊張が走る。
「私の部下は実によく調教されていましてね」
ハンブルドがさっと手を挙げて合図すると同時に他の5人はダガーを抜いて
己の腕に突き立てた。
「変化する前に!!」
アーバストの悲鳴で抜き身の剣を下げていた戦士たちが前に出た。
〈光り輝ける者よ。汝が光にて彼の者を打ち砕け!!〉
実に10もの《ウィスプ》が召び出される。1体に2つの計算だ。
すでに人のものではなくなった悲鳴・・・雄叫びがあがるが、打ち倒すには
至らない。
ラフティとアーバスト以外のメンバーが一人一匹ずつ受け持つ。
何合か組み打ったあと、ハンブルドは感心したようにため息をついた。
「なかなかやりますね・・お嬢さんはもう術は使えないようですし・・そこ
な魔術師も思案中のようだ。・・・どれ」
呪文のための精神集中に入ろうとしたハンブルドに、ラフティが飛び掛かっ
た。
「大人しくしていてくださいよ」
虻か蝿を払うかのような無造作な仕草でラフティを弾き飛ばした。
「くっ」
魔法陣の上を滑って端の方で止まる。
「くそっ」
いち早くミュータント・モンスターを切り伏せたカールがハンブルドに切り
掛かった。
だが、かなりの自信をもって打ち込まれた剣は、ふわりと避けられた。
(何!!)
「なかなか良い太刀筋ですね・・」
神聖語で何か呟いて、カールを突き飛ばす。
(!!)
身体が動かない。《麻痺毒》だ。
〔万物の根元たるマナよ!彼の者を縛る縄となれ!!〕
アーバストは1回こっきりの《ルーン・ロープ》を唱えた。
彼に出来る、最初で最後かもしれない術だった。
「ほう・・」
だが、その術すらも暗黒神に魅入られた妖精には効果を及ぼせなかった。
がっくりと膝をつくアーバスト。
「さて・・・」
精霊語で何やら呟く。
ラフティとカミルはそれがバルキリーを呼んでいるのだとわかった。
今この状態で《バルキリー・ジャベリン》を貰うのは非常にヤバイ。
しかし、ラフティにはもう術を行使できるだけの気力がない。
・・・ふと、目の前の窪みに気が付いた。
(・・・これは・・・)
〈至高なる戦乙女よ。勇気を与えし女神よ・・〉
精霊語で呼びかけながら、ハンブルドは御満悦だった。
・・この一撃でとどめが刺せなくとも、まだやりようはいくらでもある。
「ディーサス!!」
物思いに耽っていて、ラフティの接近に気付かなかった。
思い切り腕を引っ張られ、魔法陣の中に足を入れた。
「くそっ」
悪態をついてラフティを振りほどく。
『今こそ開け!砂の扉、緑の門!!』
ラフティは書物にあったコマンドワードを叫んだ。
「何だと!!」
集中が乱れ、バルキリーを召喚するための魔力が逆流する。
「消えろ!!」
足が止まったハンブルドに“砂の刃”で切りつけた。
アーバストの目には、彼女の曲刀が黒装束の肩口に食い込んだところまでは
映っていた。次の一瞬には、魔法陣は光り輝き、そしてその光が消えた時に
は彼女の姿も、ダークエルフの姿も消えていた・・。
モンスターをなんとか打ち倒した仲間が集まってくる。
カールにかけられた魔法も、時間が癒してくれる。
・・・結局、こちらに残ったのは写本と・・・使い魔ではなくなった白猫、
彼女の愛馬“迅風”だけだった・・・。
一方その頃・・・
「今日も残業〜〜〜〜!!!アーバストさ〜〜〜〜ん!!」
オランの図書館の天井に叫ぶレスダルの姿があった・・・
(一応)終劇
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