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No. 00032
DATE: 1998/12/16 21:42:49
NAME: ワヤン
SUBJECT: ダンス・ウィズ・ウルフ
「あ〜これこれ、そこな青年」
のんびりした声に、ワヤンは振り返った。周囲はとっくに暗くなっているが、声の主は手に魔法の明かりを持っていたのではっきりと姿が見えた。
ローブを着込み、手には杖。かたわらに犬を従えた、老魔術師がそこにいた。
「ちょいとわしの話を聞かんかね?」
・・・・・・怪しい。
ワヤンは思いっきり警戒した。何が怪しいかといえば・・・まずその笑み。
「ま、ま、とりあえずこれを見てみんかい」
魔術師は、ふところから小さな箱を取り出し、ふたを開けて見せた。中には銀色のペンダント。
「・・・ああああああああああッ!?」
ワヤンは思わず絶叫し、のけぞった。忘れもしない・・・なんせつい先日、このペンダントで酷い目にあったばかりなのだ。
<姿形に惑わされず、魂の本質を見極めよ。その力は何よりの宝である>
裏には、下位古代語でそう書かれているはずだ。
子供を襲っていた野犬を切った時に、傷口から飛び出してきた「それ」を掴んだがために・・・ワヤンは狼になってしまったのだった。
「・・・あんたが責任者かーッ!!」
「ちっちっち、確かにあれはわしの物だが、盗まれてしまったんじゃな。つまり善意の第三者」
ちょっと違うぞ、爺さん。
「じゃ、あの野犬・・・盗人だったのか」
「おそらくのぉ・・・いやしかし、君ぁ実にいい狼っぷりだったね」
くらっ。
ワヤンは思わず貧血を起こした。
「あの姿を見てわしは思った・・・君に決めた!」
びしいっと魔術師が指差した先には、すたすたと立ち去って行くワヤンの背中。
「うりゃ、『万物の根源たるマナよ、雷になれぃ』」
ずどばぁぁぁぁあああん!!
「だーっ、危ねぇっっ!」
ワヤンのすぐ脇を、電光が走った。
「人の話の最中に帰るとは何事じゃっ!」
「街中でいきなり『ライトニング』ぶっぱなす奴に言われたくねぇ・・・」
「まぁ、いいから聞きなさい。・・・わしはな、犬が大好きなんじゃぁーっ!!」
「だったら・・・何だァーッ!?」
「そこで、じゃ。わしは犬に関するマジックアイテムを集めておる」
・・・・・・迷惑な趣味。
「そして、わしはこれを手に入れた!」
さっと魔術師は懐から、アミュレットを出した。銀色に輝く狼の飾りがついている。
「じゃあな」
すたすたすた・・・・・。
「とぉ『万物の根源たるマナよ、眠りを誘う雲になれ』」
しゅーっ。
「・・・ってをいをい・・・お・・・」
どたっ!
「ふぉふぉふぉふぉふぉふぉっ」
「う・・・そ・・・だろ・・・・・・?」
「ふぉっふぉっふぉ、君はあのペンダントの呪いを見事解除した!
今度も期待しておるよ・・・何せ、今度のこれは変身アイテムということしか判っておらんでのぉ。
そうそう、間違っても『ディスペルマジック』なんかで戻らんようにな・・・ふむ、人質をとっておこうかの・・・おお、これがいい。馬頭琴じゃ。・・・無事に戻ったら、報酬もつけて返すよ。
あーそれから、戻れなくても安心したまえ。わしが責任持って飼うからの。美人の嫁さんもあてがってやるぞい。ふぉっふぉっふぉ♪」
ワヤンは何も答えられずに、そのまま意識を失った。
「寝たかの?・・・じゃあ捕まらんように首輪と・・・手紙をつけとくかの・・・かくかくしかじかで、魔法でもどしたりせんように・・・と。これで良し!」
魔術師はびしいっと夜空を指差した。
「見よ、あれが狼の星ぢゃっ!」
・・・・・・ちなみにそれは、北極星だが・・・・・・。
そしてワヤンは、路地裏で目を覚ました・・・目の前には、肉球。
・・・・・・・・・・・・。
憤りの遠吠えが、夜のオランに響いた。
あわれ。
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