 |
No. 00034
DATE: 1998/12/17 09:07:37
NAME: セリス
SUBJECT: クリス救出
まだ日が昇っていない、早朝。
港に、二つの異なった足音が近付いていた。
一人はフォルテ。
貴族らしい衣装を身につけている。
そしてもう一人はセリス。
こちらは戦いの衣装に包まれていた。
その二人の前に、屈強そうな男とその連れらしい男、そして…セリスの双子の弟、クリスの姿が映った。
ぎり、とセリスは唇を噛む。その表情は怒りだ。
「……約束どおりに来た。クリスを離せ」
セリスはドスの入った声で屈強そうな男に言う。
だが、男は笑ったまま離すように指示を出さない。
「…ラヴェート!!」
短気なセリスは感情をぶつける。
「名前を覚えててくれたとはな…」
にやりと笑ったまま、ラヴェートは呟く。
「返すわけにはいかない……そう言ったら?」
セリスの顔に驚愕が浮かび上がる。
「あたしは約束を守った。それでも返してもらえないのなら、力づくでも」
予感はしていた。
ラヴェートが、素直にクリスを返さないと。
セリスはそれを苦悩の中で決意していた。
『あたしが死ねばキャリオン家は滅亡……』
体が弱い、いつ亡くなるか知れぬクリスに貴族としての政はまっとう出来ないだろう。それをセリスは痛いほど判っていた。
「……今のうちに彼を離しなさい。でなければ」
フォルテが声高らかにラヴェートに進言する。
「あなたは深い罪を背負って生きなくてはなりませんよ」
「ほう? 面白い」
ラヴェートには効果が無いみたいだった。
「これ以上、誰が俺に罪を与えると言うんだ?」
誰が言うことなく、戦いは始まった。
セリスは剣を操りながら自分の内に秘める魔力を解き放つ。
フォルテは司祭用武器を振り回しながらセリスの状態に気を配る。
ラヴェートはそんな2人を軽くあしらう。
『やはり……強い!!』
来るわけないけど、と思いながらセリスはルゥウォンに助けを求めていた。
視界の隅に、猿轡をはめられながら涙しているクリスが映る。
限界を感じていた。
『クリス…ごめん…』
死ぬかも、と覚悟したときだった。
「なぁに、やってんだよ」
空から、聞きなれた声が聞こえた。
苦しそうに息切れしながらセリスは声の主を探す。
物置小屋の上に、ラヴェートよりも屈強な男のシルエットが立っている。
『そのシルエットは……』
「ルゥウォン!?」
セリスの驚愕の声と共にルゥウォンが彼らの間に着地する。
フォルテは流れる血を拭いながら、彼を見上げる。
白い。
白い……長い髪。
傷跡だらけの肉体。
フォルテも彼を知っていた。
そして安堵し、そのとたん睡魔が襲った。
「!」
倒れるフォルテをセリスがいち早く察知し、駆け寄る。
フォルテはだがしかし、セリスの腕の中ですぐに意識を取り戻す。
「済みません……」
にこりと微笑むフォルテに、セリスの顔が赤くなる。
そしてまだ大丈夫だと悟るとさっさと彼を離す。
その数秒に、ラーヴェンはルゥウォンに倒されていた。
ついでにクリスを拘束していた男も。
あっけにとられるセリスにルゥウォンは微笑み、
「こいつみたいに身体だけでぶつかるといいんだがな」
と、クリスの猿轡を解いた。
「セリス……」
苦しそうにクリスがうめく。
「ごめん、ごめん……」
止まらない涙を隠すクリスに、セリスは自分のマントをかぶせる。
「もういいから」
そして、セリスはフォルテのもとに向かった。
「大丈夫か?」
「……はい。余り役に立てませんでしたね…」
フォルテは苦笑する。
セリスはただ微笑み、ありがとうと呟いた。
 |