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No. 00047
DATE: 1999/01/13 19:18:45
NAME: コルシュ・フェル
SUBJECT: 望郷(中の上)
「東の柊≠フ狩猟長、ハイダル・ソー殿だ」
・・・その、私の最愛の人とうりふたつの・・・よく見ると髪の色が少し違うけど・・男の人は私に向かって頭を下げた。
「こっちは・・」
「お名前は伺っております。コルシェローズ様ですね」
私のフルネームはコルシェローズ=フェリアーナ・ハルシェルスティンマール。
あまりに長いので、普段はコルシュ・フェルと名乗っているし、今となってはそちらの方が通りがいい。
「・・申し訳ないです。私がもう少し早く行っていれば、このような事には・・・」
肩を震わせるハイダルを、老が制した。
「おぬしの適確な処置のおかげでフェリアーナは助かったのだ。さもなくば、血を失いすぎるか、その失血のショックで命を落としていたに違いない」
そう。私ももう命はないものと思っていた。
それが、こうして生きていられる。望外のことだろう。
・・・理性では、そう思える。
「・・フェリアーナ、まずは養生するのだ。なによりも、だ」
あまり長居するのは傷に触ると思われたのだろう、私の面倒を見てくれる村娘を二人残して、老とハイダルは部屋を後にした。
室内は静かになった。
二人の娘は実に手慣れており、まるでいないかのように静かに動いていた。
しかし、今の私にとってはそれは苦痛だった。私が思い煩う暇もないほどうるさくしていてくれればどれほど助かったことか。
静かな室内で、様々な思いが胸中を駆け巡る。
そして、どうしても行きつく先は「歌えない」ということであった。
もう歌えない。
人との交流も今まで以上に不便になる。新しいお話も聞くことが難しくなる。
長い間愛用してきた竪琴も・・・。
・・胸に・・・なにか詰った。
呼吸が・・・・できない・・・・。
頭が痛い。
呼気と共に双眸から涙が溢れ出る。
・・・それは、鳴咽になった。
私の異変に気付いて娘達が走り寄ってきたが、その時の私に外聞を気にする余裕などなかった・・・。
私が歩くことが出来るようになったのは、それから6日後のことだった。
正確に言えば、歩くことを許されたのが、である。
痛みは随分落ち着き、激しい運動をしない限り支障はない。・・・・ただ動くならば。
両腕が使えない不自由さは看護してくれる娘達が何とかしてくれたが、舌というものがこれほど重要なものだということに、私は始めて気付いた。
ものを上手く呑み込むことが出来ない。液体、固体に関わらず、である。
半ば喉に流し込んでもらって、ようやく食事を採っている状態である。
・・そんな自分がひどく情けなく、つらかった。
〜つづく
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