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No. 00063
DATE: 1999/01/22 15:30:36
NAME: マルゴー
SUBJECT: ゴブリン退治
「マルゴー兄ちゃんマルゴー兄ちゃん」
「なんだい、ミル」
エレミアの小さな村のある畑。
マルゴーは病気になった父の代わりに畑を耕していた。
まだ、弟達はそんなに大きくない為、ほとんどの事は自分一人でやらなければならない。
そして、ようやく一仕事終えた時に弟の一人ミルが走ってやってきたのだ。
「マルゴー兄ちゃん、オランに行って冒険してきたんだよね?」
「あ、え〜と、いや、冒険っていってもそんなにすごい事はしてないよ」
恥ずかしそうにモゴモゴと言葉を返す。
「でも、やってきたんでしょ?ねぇねぇ、どんなだったの?ねぇ」
ミルは興味津々と言った感じで尋ねてきた。
兄弟の中で一番わんぱくで好奇心旺盛な少年である為、しょっちゅう冒険者に憧れていろいろ勉強したりしていたマルゴーにくっついていた。
オランに旅立った時は、特に悲しんだのもこのミルであった。
「う〜んとね。僕はちょっと一回しかまともには冒険なんかしてないんだよ」
オランに行ったはいいが、ほどなくして父が疲労で倒れたため戻った。
それゆえ、実際にマルゴーに冒険と言える経験はないに等しい。
「一回?一回も行ったんだ。ねぇ、どこどこ?どんな場所にいったの?この間話してた「おちたとし」って所?」
「いやぁ、え〜と、えとね。僕はミルが期待しているような冒険じゃなくてね。え〜と、その…ゴブリンを退治したんだよ」
「え〜、すごいよ!ゴブリンってあのゴブリンでしょ?あの、すっごく恐くて、すっごく臭くて、すっごく強い!ねぇ、どうだったの?教えてよ〜」
「う〜ん、えとね。いや、僕も行ったけど、実際は助けてもらってばかりだったんだよ」
ちょっと困った顔になる。
「え?じゃあ、マルゴー兄ちゃんは戦ってないの?」
「え?いや、そうじゃないけど…」
確かに戦ってそして、倒した。死闘の果てに…一匹。
「じゃあ、話してよ。聞きたいよ〜。お願いだよ〜」
「え、え〜と。わかったから、ほら、話すから。そんなにくっついてきたら話せないよぉ。ほら、じゃあ、話すよ。でも、そんなに面白い話じゃないからね」
「いいよ。マルゴー兄ちゃんの話、そんなに言ってもいつも楽しいから」
(注:ここからは三人称でいきます。マルゴーの知らない部分もたくさん含まれてる為、本当にこのように話したわけではございません)
そこは、小さな村だった。そして、その村の近くにはゴブリンが生息していた。そのゴブリン達によって被害に遭った食物は少々ではなく、さすがに村のものもそろそろただ、堪えるだけと言う訳には行かないほどになっていた。
そして、村人達は勇気とお金を振り絞って依頼する事にした。無法者、無頼漢と隣村で悪名高い冒険者達に…
数日後。その集団はやってきた。その数12人。中には子供にしか見えない者もいる(マルゴー)。
だが、聞く所によると剣で生計を立ててるという話である。おそらく見かけでは判断できぬ腕前なのだろう。
そう村人達は思う。だが、それでも勝てるだろうか?あの、凶悪なゴブリンどもに…
冒険者達をまとめている男は、どうやらファリスの戦士のようであった。彼は紳士的で、村のものにも丁寧に接し、村人は「彼らのような人間があの冒険者だなんて信じられない」そう思ったほどだ。
しばらく村人の一人一人に事情を聞いて回る冒険者達。とりあえず数人は村の警備として周囲に散らばってくれた。
あらかじめ、なんらかの話を聞かれるだろうと覚悟していた為、村人は知っている事をまとめており、情報収集は比較的スムーズに行われた。
「村長」
ファリスの戦士が村長に話し掛ける。
「おそらく、ゴブリンはあの辺りに生息しているものと思われます。奴等の習性と、今までの経験、そして村人の話を統合するとほぼ間違いないでしょう」
「おおぉ、それはよかった。では、さっそく退治してきてもらえんかの。彼奴等がおってはわしらはもう、夜も不安で不安で…」
「はい、承知しております。で、少々お願いがあるのですが…」
それきた!きっと、わしらからもっと絞り取るに違いない。ああ、やはり無法者は無法者か…
「案内をどなたかよこしてもらえないでしょうか?あの辺りに詳しい者を」
「え?あ、いや…その。あ〜、そうですなぁ。あの辺りならザックが詳しいでしょうなぁ」
てっきりもっと酷い事を要求されると思っていた為、其の程度でいいのかとちょっと安心した。
ところが…
「そ、そんなぁ。あっしにそんなやばい所にいけっていうんですかい?そりゃ、勘弁して下さいよぉ、村長ぉ。冒険者ったってこっちは金払ったんですから、あっしみたいな村人を巻き込まないで下せぇよぉ。あ、そうだ、あそこならベリトも詳しいでしょ。そう、ベリトがいいっすよ、村長」
頼まれる方はたまらない…そういう事である。
誰もそんな恐い所には行きたくないのだ。普通の生活が送りたい。表情でありありと語っている。
「う、う〜む、ではベリトに…」
「もう結構」
言葉を濁す村長に、少々憮然としてファリスの戦士が言った。
「おっしゃる通り、我々だけでやります」
そして、12人を3つに分け、目的地に向かっていった。
マルゴーがいたのはそのファリスの戦士のいる部隊だ。
さすがに見た所、ちょっと戦力としてあてにならない思ったのか、一番生き残れそうな部隊に配置されている。
「坊主。大丈夫か?」
戦士の一人が声をかける。
「ママのお乳でも飲みたくなったかぁ〜?」
軽装の戦士がからかうように言う。
「え、い、いえ、そんな…」
マルゴーの顔が赤くなる。
「おいおい、冗談だよ。ったく、お子様がこんなところにいるんじゃねえよ」
「そういうな。その少年も剣の使い方はなかなか堂にいっていたのだぞ。私が保証する。それと、少年。もう少し、堂々としておけ。村人が怪しんでたぞ」
ファリスの戦士が苦笑いを浮かべながら言う。
確かに村人はマルゴーを見て不安がっていた。
「あ、すいません。そ、その、努力します」
「素直なこって」
軽装の戦士が皮肉混じりにいう。
「言っとくけどよ。俺ぁおまえさんがやばくなっても助けねえぜ」
「あ、その…はい」
「はっはっ!坊主。ま、これから冒険者としてやっていくんだったら、自分の身の守り方ぐらいここで学んどけよ」
「あ、はい!」
「なんでぇ、返事が違うじゃねえか」
「お前の言い方が悪すぎるのだろう」
軽装の戦士に、ファリスの戦士がチャチャをいれる。
その時
「あれ?あっちのほうで光が。あれ、確かデーンさん所の合図ですよね?」
「あん?見えるか、そんなの?」
「そういえば少年は目がいいとか言っていたな。で、確かに合図の光なのか?」
「はい、確かです。でも、もう見えません」
「ってこたぁ、もう臨戦してっかもしれねえなぁ。急いだ方がよさそうだぜぇ」
「判ってる。行くぞ!」
「だああぁぁ!」
「ぎゃぁあ!」
マルゴー達が到着していた時、すでに戦闘は始まっていた。
すでにもう一つの部隊も合流している。
「ちぃ!おくれちまったぜぇ!」
「報酬減るなんてこたぁねぇだろうなぁ、旦那ぁ?」
「さぁな、他の部隊の奴等に聞いてくれ」
「あ、あの穴からゴブリン達が出てきてますよ!」
見回した所ゴブリンの数はざっと10匹。あと、コボルトが10匹ほどいる。
「やべ、こっち結構減ってんじゃねぇか?」
「な〜に、分け前が減ったと思えよ」
「死者に失礼な事を言うな。余計な事は言わず行くぞ!少年、私の後ろについていろ!」
次々と遅い来るゴブリン。戦士達も奮戦している。
だが、数の不利はやはりつらいらしく、ゴブリンが一匹後ろにいるマルゴーに向かってきた。
「しまった!」
「いえ、僕も戦えます!」
そして、マルゴーとゴブリンの激闘が始まった。
錆びた剣を大きく振りかぶり襲ってくるゴブリン。
それを、すんでの所で地面を転がって避けた。
「たぁぁあ!」
横凪の一閃。だが、間合いが浅い!かすかに切った感触はあったが、かすった程度だ。
そして、その隙を狙ってゴブリンが剣を振り回した。
「わぁあ!」
肩に直撃する。あまりの苦痛に気を失いそうになった。
しかし、すんでの所で意識を掴む。肩のレザーアーマーが命を救ったと言えよう。
だが、剣を握る手に力があまり入らない。
「う、うあぁあ」
マルゴーは後退する。
せめて力が戻るまでの時間をかせがなければ…
だが、ゴブリンもそんなチャンスをみすみす見逃しはしない。
さらに追い討ちをかけてきた。
キン!
「おいおい、邪魔してんじゃねえよ!」
軽装の戦士が一瞬だけこちらを向き、ゴブリンの剣をはじく。
「あ、ありがとうございます!」
「しゃべんじゃねえ!さっさと逃げやがれ!」
悪態をつきながら軽装の戦士はできるだけ一対一の位置につくように移動しながら戦いつづける。
「いえ!大丈夫です!もう、剣を握れます!」
なんとか、力が入りそうだ…
一瞬態勢が崩れたものの、すぐにそれを立て直したゴブリンは追い討ちを再開しようとした。
しかし、時すでに遅く、もうマルゴーの態勢は戻っている。
そして、一瞬追撃を躊躇ったゴブリンに隙が生まれた。
「はぁ!」
剣が閃く。
それがゴブリンの右腕に刺さる。
「ぐぎゃああぁ!」
「止めだ!」
マルゴーはそれを引き抜き、とどめとばかりに振り下ろした。
「はぁはぁはぁ、なんとか終わったぜぇ」
「へへ、やるじゃねえか餓鬼ぃ。一匹殺っちまいやがった。普通最初の獲物はコボルトだろぉ?」
「ふぅふぅ…よくやった少年。なに、はじめてでそれだけ物怖じしなければたいしたものだ」
「そうそう、こいつなんざ最初の時ぁ殺した相手見て吐いてたんだぜ」
「てめぇ、言うんじゃねえ!!」
それを聞いてふと、マルゴーは冷静に周りを見てしまった。
その凄惨な光景。吐き気を催す匂い…
「あ〜あ、やっちまいやがった」
「ふっ、それが普通の反応だよ」
「あ、俺じゃあ普通じゃなかったのかよ?」
辺りに笑いが起こる。マルゴーだけはそんな余裕はなかったが。
その後、村人に報酬をもらい村を去った。その時、その場にいた冒険者の数は9人。被害は少なかったと言えよう。
「っという冒険だったんだよ」
「ほんとマルゴー兄ちゃん、出番なかったんだねぇ」
「あ、笑うなよ。僕だって頑張ったんだぞ」
「だって、マルゴー兄ちゃん最後に吐いちゃったんでしょう〜。かっこわる〜い。」
「いや、ほんとに吐き気がすごいんだよ。あれ」
「じゃ、もうマルゴー兄ちゃん止めたいの、冒険者?」
「え?まさか。だって、あんなに充実してるんだよ」
「へへ…よかった。僕、冒険者を目指して頑張ってたマルゴー兄ちゃんが好きなんだもん」
「母さんは反対してたけどね」
「父ちゃんは賛成してたけど、母ちゃんに睨まれて反対したんだよね」
そして、夕刻の畑で笑いが起きる。
赤い夕日が村を、そして二人の少年を照らしていた。
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