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No. 00069
DATE: 1999/01/25 07:40:06
NAME: ラザラス
SUBJECT: パティオ孤児院の真相
1の月20の日晩
きままに亭の個室で孤児院に関わった者が集まり、互いの情報を交換する。
しかし、全員が全情報を提供したわけではなかった。集まらなかった人物もおり、情報全てが揃わなかったり、話し下手なシャウエルの情報は聞き流されたりもした。
レスダルが国の関与していることを伝えると、皆が顔色を変えた。だが、やがて話は孤児たちの行き場の確保へと変わっていく。
孤児院の解体阻止または、その情報収集は中止されてしまった。「俺たちの手ではどうしようもない」と。
レスダルは放火の事もあり、カール同様この件から手を引くことにする。自分の行動で息子にもしもの事があってはと、考えるだけで身がすくむ思いであった。
ユーシス、リードは子供たちの引き取り先を探す。
シャウエルは18人の孤児を引き取ると豪語したが、本気にして聞いている者はいないように思われた。
トナティウはレスダルに頼まれ、息子リンと行動を共にする。エルフがもたらした「アドルは怖い奴だ……」という言葉が耳から離れられず彼にもしものときはと、頼む。
エルフは二日目の調査へと移る。ファラリスの関与は完全否定されていない。シーフギルドの養成所ならここまで秘密にする必要も脅す必要もない。それを確かめるべく、再び孤児院へ。
シャウエルはフォーマの道化の話しに乗り、彼の屋敷で雇ってもらうことにする。
彼の側にいれば、もっと情報が引き出せるのではないかと考えたからだ。伊達に使い魔を従えているわけではないようだ。
レイシャルムは会合に出席せず、のちにリードから情報を得て動く。
1の月21の日
エルフは再度シルク老婆に接触を試みた。監視の目にかからないように行動したつもりだ。これで見つかったら命がやばいかも。そんなことを考えながら彼女の元へ訪れた。
その結果、意外な情報が入ることになる。
この孤児院は国のスパイを育成させる秘密機関で、国王も知らぬこと。シーフギルドと協力し、特別な訓練をさせている。しかも、その指導者の中にファラリス信者が混じっていること、その指導者にアドルを中心としたグループはなついてしまっている。シーフギルドもファラリス信者のことは知り得ていないかも。と彼女は付け加える。
彼女はエルフに助けを求める。夫のいいつけを守って国の秘密機関として人知れず動いてきたが、ファラリスの関与を知ってから子供たちの将来や国に、よからぬ事態を招くことになるかもしれないと考えた。しかし、誰にも相談できない。苦悩するさなかに解体の話が持ち上がる。今度は国の正式機関にバレたのだと考え、自分の命の危険を感じることになる。迷い悩んだ挙げ句、自分の身よりも子供たちと考え、エルフに全てをうち明けたのである。
「私はともかく、ファラリスの教えに染まっているアドルたちを助けてあげて」
すがりく老婆をなだめ、エルフはその場を後にする。
その帰り道、再びカインが接触してくる。先日伝え損ねたことを言ってきた。
「アドルたちはファラリス信者なんだ。指導者の中にファラリス信者がいて、彼らは入信しているんだ。俺たちはフリをしてうまくごまかしているけど……」
「俺たちは奴らから脅されているんだ。邪神の力が怖い。助けてよ。孤児院をバラして奴らと顔を合わせなくてすむならなんだっていい」
「奴らはもともと潜入の訓練を受けた狐だから、人を騙したりするのは朝飯前だ。5歳のガキでも騙すことにかけては拾得が早いから。ファラリスが虐げられた神であることも知っているからシッポを掴ませるようなことはないと思う」
しかし、その時二人に声をかける者がいた。
エルフには先日忠告を言ってきた者、カインにとってはもっとも恐ろしい指導者であった。
「ばらしたのか、カイン。自分たちがどういう立場の者が判っていないようだな。それにおまえさんも命が惜しくないようだな」
戦闘が開始される。ダークプリーストでもある敵の方が一枚も二枚も上手で、たちまち追いつめられるエルフであった。
「まずったかな」
カインはフォースを受けて、路地端で気絶している。
そのとき、敵の剣を受け止める者が間に入った。リードである。
「気になりましてね」
それだけ言うと、リードと敵の戦いに変わった。
リードの方がやや押しているように見えたが、敵の笑みは消えていなかった。
「イービル・インパルス!」
リードにかけられた魔法は、彼の悪意を目覚めさせることに成功した。
高らかに笑う敵に、エルフは子供を抱え、睨み付けるしかできなかった。
向き直るリードは剣を高らかに振りかざす。瞳に正気の色はない。
一撃、二撃をかわす。理性が抵抗しているのか、剣筋が鈍い。それがせめてもの救いであった。だか、それもあと何回避けられるか。
路地裏から表通りに場所が移り、二人の無益な争いは白昼にさらされることになる。
「リードの旦那、すまねぇ」
リードの悪意はそのまま、周辺にいる人々に向けられた。
市民たちから悲鳴が上がる。エルフはカインを抱えて逃げ出す。
リードの剣が振り下ろさたとき、その剣先を受けた者がいた。
「なにやっているんだ、リード」
リードの剣を止めたのはレイシャルムであった。
リードは今度はレイシャルムに向かって斬りつけてきた。
それをかわしながら、彼はユーシスに声をかける。
「ユーシス、リードがちょっとおかしい」
ユーシスに魔法をかけろと催促したのだ。
剣を交えている者に近づくことは危険であったため、ユーシスは謝りながら神聖語を唱えた。
「ごめんなさいっ」
両手を突き出し、気弾が飛んでいく。
足に気弾を受けたリードは転倒した。
「サニティ」
駆け寄って奇跡を唱える。
「これで大丈夫だといいけど」
孤児の行き場を探している最中に、リードが突然用事を思い出したからと言って消えたので、二人はその後を追ってきたのである。
ざわめきの中、ユーシスとレイシャルムは気を失っているリードを背負いその場を去ることに。
「ち、もう少しだったものを。奴らは生かしておいては危険だな」
敵もまた、人混みに紛れて消えてしまう。
カインを抱えたエルフは、落ち着ける場所きままに亭へと向かった。
その途中でトナティウとリンとアドルと出会う。
状況を詳しく聞こうとするトナティウにエルフは口を濁らす。
エルフはアドルに孤児院を手伝うボランティアの人を呼んでくるように頼みます。
それを聞いて、アドルとリンが出かけていく。
「場所を変えよう」
エルフの言っている意味が飲み込めず、トナティウは戸惑いながらもそれに従う。
事のあらましを聞かされたトナティウは愕然とし、アドルにダマされていたとショックを受ける。
別の宿でカインが気がつき、孤児院の状態を詳しく説明する。
孤児院からの脱走は試みても絶対に失敗する。逃げ出すと決まって体調が悪くなる。だから自分ももしかしたら体調が悪くなるかもしれないと言う。
カインはアドルがリンやトナティウを騙しているわけじゃないと、説明する。気に入った相手にはとても優しい。しかし、自分のように気に入らない奴は力ずくで従わせていると語る。
アドルにダマされていないと聞かされ安堵したトナティウ。彼は信仰する神がなんであるかは関係ないと言った。
その後、トナティウだけがきままに亭に戻り他の者たちと情報を交換することになる。
ユーシスはリードの屋敷へと移動していた。リードは気がついており、「油断した」と己の甘さを恥じていた。
そこへ犬頭巾がやってくる。
犬頭巾は身の危険を感じてから、この件に関しては手を引くつもりだったが仲間へそれを伝えるのを忘れたために情報が集まってきてしまった。自分の落ち度でもあるため、いらぬ銭を支払うこととなり不満を募らせる。
カールが手を引いたことは彼も承知であり、情報の売る宛をなくし困っていたところリードの顔を思い出す。
「あのおっさんなら買ってくれるだろう」
そしてリード邸にやってきたのだ。
リードは案の定、情報を買ってくれた。フォーマ卿が監視されていることから、その人物像に到るまでの情報を。
フォーマという人物像。
人身売買の噂の元になったのは、フォーマが所有する領地の数年来の凶作が要因となっている。
減税を申し出たが、フォーマはこれを拒否。メイド選考会なるふれを出し、報奨金を出すことで還元しようとした。これには周辺から大反対が起こり、非難されることになるが、選考会は強行される。
しかし、一部の賢者からはフォーマの取った行動は単に減税するよりも効果があったと言われている。
選考会を開くことで、村々内で報奨金を獲得するために小さな選考会が儲けられ、見物客やら出店などでにわかに活気づいた。つまりは金が流通する仕組みが発生し、免除される税より収入があったと言われている。一般からの投票も取り入れた村では現在でも、メイド選考会なる祭りを催して村の名物になっているところもある。
もちろん、選考会にかけていた娘は、落ちたことでよりどん底なる生活に転落した者や家族は少なくないと聞く。単に良策をほどこしたと言って讃辞していいものではないという意見も多い。
特にそうした転落した家族、親族から「人買い」と罵られ、やがて「人身売買人」と変わった。
彼を知る者からの評価はさまざまで、嫌う人も多い反面、理解者もまた多数存在する。
自分の信念を曲げるようなどせず、間違っていても貫くことが多い。そのために反感や憎悪の対象となり、命を狙われたことも一度や二度ではない。また好色であることも有名で、メイドの選考会は良い例とも言える。
しかし、そのメイドを7年経っても辞めさせたり、取り替えたりしていないところを見ると責任感も備わっていると伺える。
官僚として王に仕える身であるフォーマは、財務を扱っている。仕事に誇りを持っており、配下の者からは「絶対のフォーマ卿」と呼ばれ恐れられている。帳簿の帳尻が合わないと合うまで帰してもらえないのだ。
そうした点からも、悪人とまでは呼べないが、トラブルを起こしやすい性格の持ち主だと伺える。
フォーマの叔父、ヨークシャルという人物像。
7年前のファラリスの孤児院で捕らえた信者を処刑する際、呪いをかけられた。神殿の奇跡で失明は回復。しかし、その後ファラリスと孤児院に対して恨みを抱く。
フォーマを大変かわいがっており、彼もまた敵の多い生活を送っている。
貴族社会からは引退した身であるが、まだまだ力を失ってはいない。
情報を聞いたユーシスはフォーマに対するイメージを改めなければと思った。
「やり方がスマートではないな」
リードの批判はもっともである。
「どうしますか? 孤児たちの受け入れ先を探しますか?」
レイシャルムの言葉に、リードは首を振る。
「そういう訳にはいかないでしょう。狙われている人物がいると知っておいて無視はできません」
三人は闇の中、フォーマ卿の屋敷へと向かった。
シャウエルの方はフォーマ邸でくつろいでいた。
「うおー、すっげー」
やわらかなソファーに飛び乗ったり、広い庭で駆け回ったりして貴族の豪勢さを満喫していた。
夜になり、フォーマ卿が戻ってくるとさっそく呼び出され酒の相手をさせられた。「で、結局孤児院にファラリスが関与しているかは判明しなかったんだな」
「シーフギルドと国の関与は判ったのか……、なるほど頭の切れる奴もいるものだな。国から資金が孤児院に流れているのをオレ以外に突き止めた人物がいたとは。会いたいものだな」
「レスダル女史? しゃべって構わないのか?」
「ふっ、今度招いてみるのもいいな。この件が片付いたら」
「そんなことを言ったか? まぁ、よいか。国から資金が孤児院に流れているのを突き止めたのは私だよ。ほとんど偶然だったがね。発注していた資材と支払い額に差が出てしまい。全ての業者を対象に金の流れを調べさせたのだよ。そしたら空発注が判明。架空の商人相手に金を支払っているではないか。その行き先を調べたら孤児院だったのだよ。驚いたね。遡ればいくらでも見つかる。改竄しているときもあった」「孤児院に金が流れた理由は、あそこが国の秘密機関だったからだよ」
「それも国王にも秘密のな」
「諜報機関を務めるエルサーク上級騎士がこれを管理しているに違いない」
「なんの証拠もないのに王に報告するのかい? 金の流れなどは物的証拠にはならんよ。上級騎士から指示を出している確かなる証拠でもあれば別だがな。よくないのは彼もまた国を思ってのことだ。国王に秘密であっても汚れたところを見せないようにしての配慮かもしれん。エルサーク上級騎士には恩もある。だからこそ合法的な理由で孤児院を解体させたかったのだ。幸い、あそこの土地が未だ売り地として空いていたことだ。おそらく20年前の処理ミスであろうがな」
「暗殺集団とは違うな。あくまで諜報員の育成だから、潜入や工作活動が主な仕事だろう。もっとも暗殺も立派な諜報員の仕事だがな。10歳以上であれば仕事に使えると聞いたことがある……。そんな子供に大人の都合を当てはめて良いものか。そんな道具として育てられるくらいなら孤児院など取り壊した方がいい」
「なに、孤児は引き取るから安心して取り壊せだと? ほう、面白いことを言う。そうしてくれるならこちらも気兼ねなくやれる」
フォーマは酒をずいぶんと飲み、普段しゃべることのないことまで話していた。
そんなやりとりがある中、リードたちと暗殺者は戦っていた。
しかし、相手は4人であり、一人で二人を相手できない限りは足止めすることはできなかった。
やがて、屋敷の警備の者が現れ、暗殺者は3人殺された。一人はすでに屋敷へと潜入していたのだ。
シャウエルとフォーマの談話が進む中、窓が開け放たれ、ロウソクの灯りが風によって消される。何者かが侵入してきたのは明かであった。
フォーマは酔っているせいか、立ち上がってもふらふらするばかりで逃げられないでいる。そこへ影が近づき一刀のもとに切り捨てる。断末魔を上げながら倒れ込むフォーマを横目にシャウエルは逃げ出していた。
暗殺者はすぐにシャウエルの後を追うが、逃げ出した先にシャウエルの姿はなかった。廊下に隠れる場所などはない。
悲鳴を聞きつけた配下の者たちが集まってくる。
暗殺者は目的を果たして満足したのか、進入した窓から帰っていった。
かくして、シャウエルの命は奪われることがなかった。廊下でイリュージョンの呪文で身を彫像で覆って隠していたが、解除するタイミングを逸してしまったため、配下の者たちから怪しまれ、衛兵の検察が終了するまで集中を続けなければならなかった。
「防ぎきれなかったか……、まぁ、これで孤児院が解体されることはなくなったな」
リードの言葉にユーシスが不安そうに意見をとなえる。
「これで解決なんでしょうか? エルフさんが言っていたように孤児院内部で解体を希望する声というのは無視して構わないんでしょうか?」
その答えを返せないまま、三人はきままに亭へと戻る。
イリュージョンで隠れていたシャウエルは、事の始終をやりすごして、悲しみに包まれるフォーマ邸から抜け出していた。
「もしかして、ものすごく立場悪いんじゃない? オレ」
孤児院の真相を聞いたこと、フォーマ殺害の重要参考人にあげられたこと、彼は世界征服をするより、目の前の状況を切り抜ける方が困難に思えた。
フォーマの暗殺は多くの人の知るところとなり、孤児院に関わる者の喜びと悲しみが入り乱れていた。
<つづく>
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