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No. 00073
DATE: 1999/01/27 16:01:11
NAME: リデル
SUBJECT: 精神施療院入院の理由
新王国暦510年も終わりにさしかかった頃から、病状は現れた。
それを最初に発見したのは、隣人のミレディーヌの夫、クレイであった。彼の家に調味料を借りに、クレイはちょくちょく訪れていたからだ。
早朝、いつものように調味料を借りようと、裏口をノックしてドアを開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、床にしゃがみ込んでいるリデル。顔は真っ青で、息も絶え絶えに、胸を押さえて苦しんでいた。
クレイは慌てて、ミレディーヌの看病をしていたラーファを呼んだ。彼女は治療師の心得があり、つわりがひどいミレディーヌの面倒を何かと見ていたからだ。
ラーファはリデルをベッドに寝かせ、脈を取り呼吸を調べ、病状を把握しようと励んだ。だが、脈が異様に弱いことが不安だったが、肉体的には特に異常がなかった。
とりあえず、訴えていた腹痛と胸痛を押さえるために鎮痛効果のある薬草を煎じて飲ませ、安静に寝かせてその場は収まった。
だが、腹痛と胸痛は、それからもたびたび続くようになった。また、朝起きることが出来ずに、それでも無理して起きると立ちくらみとめまいで起きていられなくなる、と言う奇妙な症状まで現れる。マーファ神殿をフケて、セシーリカもたびたび看病(と、家に住み着いているたくさんのネコの世話)にやってくる。
そのうち、セシーリカはヒム先生に借りた本の中に、気になる症例を見つけた。そして、精神施療院の受診をリデルに勧めたのだ。
「・・・鬱病でしょうね」
ヒム先生の診断結果に、クレイとラーファは目を丸くした。
「鬱病?」
思わず聞き返すクレイ。
「ええ、鬱病で普通一般的に言われる症状は、抑鬱気分、思考の制止、意欲の減退が特徴で、睡眠障害、食欲減退、体重減少などの身体症状を伴いやすい病気です」
クレイは、思わずここ数日間のリデルの様子を思い浮かべてみた。いつも通りだったような気がする。それはラーファにしても同様だった。
「ただ、リデル君の場合は、どうも仮面鬱である可能性が高いですね」
「仮面鬱?」
やはり、と言う顔で聞き返したのはセシーリカ。ヒム先生に借りた本の中の一節「仮面鬱」が心に引っかかっていたからだ。
「ええ。仮面をかぶった鬱病・・・とでも言いましょうか。精神症状があまりでないのが特徴でしてね。動悸や目眩、腹痛などで、別の医師にかかって『異常なし』と言われるケースが多いんです」
道理で。ラーファはため息をついた。
「それで、リデルはこれからどうなるんです?」
ラーファの言葉にヒム先生は、いつも通りのにこやかな笑みで答えた。
「しばらく、うちのほうで預かりましょう。焦らずに、じっくりやることですよ。この手の病気は『早く直そう』と考えると、かえって逆効果ですからね」
セシーリカはうなずいて、深々と頭を下げた。
「宜しくお願いします・・・。あの、時々様子を見に来てもいいでしょうか」
心配そうな彼女に、「心配いりませんよ」というような笑みを浮かべて、ヒム先生はうなずいた。
「ええ。構いませんよ」
こうして、リデル・フォービュートは、スズカケ通りのヒム精神施療院に、しばらくの間入院することになった。
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