 |
No. 00079
DATE: 1999/02/04 00:08:15
NAME: プリム
SUBJECT: 想い出の小箱
ある日、城に向かうメインストリートをフェイとプリムは、歩いていた。
まだ、オランの街で行ったことないところを散歩してみたいと、プリムの気軽な意見にフェイはこの場所を選んだ。
時は朝の冷え込みから解き放たれ、緩やかな冬の日差しが城の塔を浴びているころだった。通りを歩いている人もいささか気風を漂わせるような服装をしている。
この通りの近所には中流貴族や冒険で成功した者らの住居があるため、売られている物もあまり冒険者には縁がない美術品や衣類、そして質の良い食料品がある。
「なんか同じ街にはいるとは思えないなっ☆」
久々に街娘風な服装をしたプリムは楽しそうにフェイに話しかける。
「王都というのはいろんな人が住まいを構えているからね・・・」
フェイもいつしか習った礼法のせいか、普段より少し身なりのよい服装をして歩いている。
だが、どことなく表情冴えない。
「でも、なんでこんなに雰囲気が違うんですか?」
「この辺は、上流階級の方達が訪れるところだからね。それなりにまた違うものを好むんだよ。」
「ふぅ〜ん・・・・」
フェイの説明にプリムはあまり納得していない返事を返す。
「・・・人間には色々な階級が存在するから・・・」
少し自信なさげにフェイは言う。
「あ、ごめんなさい・・・変な質問しちゃったね・・・」
「ううん・・別にプリムが謝ることはないよ。」
慌ててフェイはその場を取り繕うと、プリムはその言葉で安心した笑みを返した。
それから、二人は散歩の歩調で、軒を並べる店を眺めながら話している。
プリムの子供のような疑問に、フェイは過去に捨てていた記憶を掘り起こしながら1つ1つ説明する。
中には痛みを伴うような想い出もあったが、プリムの笑顔で癒えるような気がしていた。
とある小物店の前を通ったとき、プリムはあるものにじっと見入っていた。
「どうしたの?」
少し気になってフェイは声をかける。
「あっ・・・いえっ☆よくわからないけど・・・なんか・・・」
返事にどう言い表せばいいのか判らない表情をしながらもプリムはフェイに話そうとする。
(?)
プリムが熱心に見ていた物へ視線をあわせると、店の中にある棚にこじんまりと、木製の小箱が置かれていた。
もちろん、フェイにはそれがオルゴール付きであるの知っている。
「よくわからないけど・・・なんか、気にかかるんです・・・」
「そうか・・・せっかくだから中に入って見せてもらおうか?」
軽い感じでいうと、プリムは驚いたような顔をして
「いいんですかっ!☆」
「店の人はあまりいい顔をしないかもしれませんけどね。」
と苦笑して返す。
「わーいっ☆」
幸せそうな笑顔をしてフェイに飛びついてきた。
「こ・・こら・・・」
思ってもないプリムの喜びようにフェイは、驚きと戸惑いとそれから少しの恥ずかしさを覚える。
(プリムは嬉しいとどんなところであっても飛びつくからなぁ・・・それがプリムらしさかもしれないけど・・・)
今回も例外でもなく、通りすがる人は2人の姿を見て小さく笑っているの見逃さなかった。
「このままじゃ、入れないから・・・」
「あっ☆そうでしたねっ☆・・・えへっ☆」
飛びついていたプリムはすぐにフェイから離れ、恥ずかしそうに微笑んだ。
その微笑みに思わず笑顔を返すと、店の扉を開ける。
店は20歩歩けば店内を一周できるくらいの小さな店であるが、綺麗に小物類が並べられている。
小さい物だけに普段見落としそうなものだが、改めて店内を見るとその種類と個性に驚いてしまう。
奥の小さなカウンターには店主らしき人の良さそうな初老のおばさんが、2人をほほえましくみていた。おそらく先ほどの一部始終を見ていたのだろう。
「いらっしゃい。ゆっくり見て行きなさいな。」
「はいっ☆ありがとうございますっ☆」
その声にプリムは嬉しい声で礼を言う。
「すみません。」
フェイも軽く会釈する。その姿を見ておばさんはまた嬉しそうな笑顔をする。
プリムは、まじまじとみるように中腰の姿勢で先ほど見ていた小箱を眺めていた。その目は何かを思い出すかのような視線ではあった。
(思い出せない・・・でも、どこかで・・・)
頭の中でそういう声が繰り返している。
少し時間をおいてカウンターからおばさんが出てきてプリムの隣に立つ。
「あっ☆」
軽く驚いて姿勢を元に戻す。
「さっきから熱心に見ていますね。」
「いえっ☆うーん・・・どういえばいいのだろう?・・・えーっと・・・・」
答えに詰まるプリムに、おばさんはそっと右手をあげて
「せっかくだから、紅茶でもどう?隣にいらっしゃるお姉さんも」
フェイにも視線を合わせる。
「いえ、結構です。それに」
「まぁまぁ、そう堅いことを抜きにして・・・ちょっとお湯を入れすぎちゃってね。」
おばさんの対照的な答えに、フェイはさらに恐縮してしまう。
「はぁ・・・しかし」
「見てるだけで結構よ。あなた達が見に入っただけでも私は満足だわ。」
と、いいながらおばさんはカウンターに戻りはじめる。
その姿にプリムとフェイはお互い顔を見合わせて、おばさんの後についていく。
「どうぞ」
2つの木の丸椅子に赤やクリームの生地をチェス板のようにちりばめられたクッションを置いて2人に席を勧める。
言われるまま2人は椅子に座った。
「お嬢さん達はこの界隈に来たのは初めてかな?」
シルビアが紅茶を飲む時につかうのと似ているティーカップを2つ取り出しながら話しかけられる。
「あ・・はいっ☆・・・どうして判りますか?」
「どうしてって・・・さぁ、勘・・・かなぁ〜」
「勘ですか・・・」
感心したようにプリムは言葉を漏らす。
「何となく判るのよ。」
「ふぅ〜んっ☆」
相づちをしているプリムの前に紅茶が出される。
「あ、ありがとうございますっ☆」
「どうぞ。」
続いてフェイの前にも紅茶が出される。
「すみません。」
「いえいえ、こちらこそ無理に御願いしちゃったかな?」
「とんでもないです。こちらこそ、紅茶をごちそうになるなんて・・・」
ふと、おばさんとフェイの目が合う。
フェイはすぐ逸らすが、おばさんはにっこりわらって
「いろいろと礼法を知っていらっしゃると思いますけど、そんな肩に力を入れないで楽にして下さい。」
「あ・・・はい」
2人のやりとりを見てプリムも思わず微笑む。
「くすっ☆・・・でも、こんなに小物があるなんて私知らなかったですっ☆」
「そうねぇ・・・・・私も最初はこんなにあるとは思っていなかったのよ。」
「えっ☆」
「元々、私は冒険者だったんだけど、ある時小物屋をやろうとおもって店を開いたの」
「そうだったんですかっ☆」
「きっと、さっきの勘もそのときの名残かな。」
そういうと、ゆっくりと紅茶を飲む。
「しかし、これだけ集めるのも大変だったのでは?」
フェイも尋ねる。
「昔一緒にいた仲間・・・あ、もちろんドワーフですけどね。彼が作ってくれているんですよ。」
「なるほど。」
フェイもゆっくりとティーカップを口に移す。
「じゃぁ・・・あの箱もそうですか?」
プリムは先ほど見ていた小箱に目を向ける。
「あ、あれは頂いたものですけどね。・・・せっかくだから、さわってみたら?」
「えっ!・・・でも大切な売り物を・・・」
「いいの、あれは私の小さな自慢の物なの。それに売り物じゃないから、安心して」
そういいながら、おばさんは席を立ち、先ほどの小箱を持ってくる。
「ここはご好意にしたらどう?」
フェイもそっと話す。
「え・・ええ・・・じゃ、お言葉に甘えてっ☆」
おばさんが持ってきた小箱の蓋にそっと手を置き、ゆっくりとあけた。
ゼンマイ仕掛けのオルゴールが動き出し、小さな妖精のように可愛らしい音を奏でた。
「・・・この小箱は、いまから5年前にもらったものよ。」
「大切になさっていますね。」
フェイは手入れの良さに少し感心した。
「ええ、小さな想い出が入っていますから」
おばさんは嬉しそうに話していると、徐々に音楽のテンポが遅くなってきた。
それにさっきまで夢中になっているように聞いていたプリムは我に返った。
「どう?」
「うーん・・・何か聞いたことあるけど、どういうときだったのか思い出せないです。」
フェイに明確な答えを言えないのが悔しいのかプリムはちょっとしかめっ面をしていた。
それをみながら、おばさんは蓋を閉めて、オルゴールのゼンマイを巻き始める。
「あなた方は冒険者かな?」
「あ、はいっ☆そうですけど・・・」
「じゃぁ、いろんな経験をしているのね。野宿やモンスターとの戦闘や洞窟探索とか・・・私も、あのときはごく当たり前の感じだったけど・・・」
そういいながら、ゼンマイを巻き終わると、そっと2人の前に置いて蓋を開けた。
「・・・でも、ここに店を構えて8年が立つけど、街(ここ)に住むとそういのってまるで夢だったように感じるの」
「夢・・・ですか?」
プリムの不思議そうな言葉にオルゴールの音楽がそっと被さる。
「ええ、現実だったかもしれない・・・そんな気がする夢。もちろん現実だったのを夢と勘違いしているわよ。」
「くすっ☆今でも忘れられないような想い出がいっぱいあるんですねっ☆」
「うん・・・このオルゴールは、昔一緒にいた仲間がパティーを解散するときにもらったのよ。色々とみんなと一緒にやってきた想い出としってね。」
目線を遠くに向け懐かしむかのようにおばさんはいう。その言葉に二人はなんとなくぬくもりを感じた。
その後さらに小一時間、2人は午後のひとときを過ごした。
かつて2人と同じ立場でいろんな所を歩いたり、または経験したその昔話を、オルゴールの音色と共に・・・
「ごちそうさまでしたっ☆」
にこやかな笑顔をしながらプリムは頭を下げる。
「ありがとうございました。」
プリムの隣で丁重な礼をフェイはする。
「いえいえ、こちらこそせっかく時間をとらせてしまって・・・でも楽しかったわよ」
にこやかにおばさんは2人に言葉を返した。
「また遊びに来ますねっ☆」
「ええ、楽しみにしているわ。お2人さんも、道中気をつけて下さいね。」
「ありがとうございます。」
フェイはそう言って頭を下げると、プリムも一緒に頭を下げる。
「それでは、失礼します。」
と、フェイの言葉を残し2人は店を出た。
「いい方でしたねっ☆」
日が傾くメインストリート歩きながらプリムは微笑えんだ顔でフェイに向ける。
「ええ、そうでしたね。・・・ところで、何か思いだしたの?あの箱??」
「ごめんなさい・・・結局何も思い出さなかったんです・・・」
少し悲しそうな声でプリムはうつむく
「そう・・・でもきっと、おばさんのような想い出がプリムもあると思うわ。」
「うん・・・きっとね・・・」
そう言うとプリムはもう一度顔を見上げてフェイを見た。
フェイも少し微笑む、一拍置いてプリムは笑顔を返して、
「あっ☆せっかくだから一緒にきままに亭にいこうっ☆」
「そうですねっ。いきましょうかっ」
そう言いながら2人は夕日でオレンジ染まるメインストリートを気ままに亭の方へと歩いていった。
 |