No. 00089
DATE: 1999/02/08 14:13:38
NAME: ルクレツィア
SUBJECT: 来たるべき日
日曜の夕刻、オランの一角の建物に馬車が止まった。
馬車の中には身なりのいい貴族。
窓から見下ろすシシリーの気分は、多くの意味で複雑であった。
何故ならば、実の妹が、とうとう婚約するのだという事。
『ルク・・・。小さかったルク・・・。』
もう一つは、よもや妹の縁談相手がこれほどの大貴族だったとは・・・。
『ごめんな。ルク・・・。魔術師の俺は、出て行けないんだ・・・。
送ってあげられないんだよ。ごめんな・・・・・・。』
ルクレツィア・クレンツ・・・、ベルダインの司祭家であり大貴族の一人娘の正式な婚約発表が、近いうち、宮廷で行われる予定である。
まさか、ゼルベイグ侯爵家が司祭家にその嫡男を婿入りさせるなどとは有り得ないと、貴族たちは囁いてる。
シシリーは舌打ちした。
『予想外だった・・・。ルクを追ってくるなんて。ゼルベイグ侯爵家・・・。予想してなかったな。
カールに・・・、なんて言おう・・・・・・。』
カールは現在、何かとカルナの身の回りの事に走り回っており、不在であった。
『ゼルベイグ・・・か・・・、追ってくるわけだな。婚約相手が亡命したとあっては、嫡男差し出す面子が立たない・・・。』
窓から見下ろし、ルクレツィアが今一度、シシリーを見上げる。
『ああ、たまたまいてよかったよ・・・。いや、居ない方が良かったのかも。誰も居なければルクはもう少しここで待って・・・・・・。』
後押しするように微笑む自分にシシリーは嫌悪した。
『・・・・・・。ゼルベイグの次男・・・。結局、名前も聞かなかったな(苦笑)。彼は、ルクを追ってきたのだろうか・・・。
それとも、「クレンツ家の女」を追ってきたのだろうか・・・・・・。』
馬車の扉の閉まる音。
人生において何度も見てきたお決まりのシーンに、シシリーは動揺を隠せなかった。
新王国歴511年、二の月七日、オランの出来事。