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No. 00092
DATE: 1999/02/08 22:49:43
NAME: レドウィック・アウグスト
SUBJECT: 夏の終わり(前編)
9月はじめ。
「アウグスト導師、面会の方がいらしゃってますが?。」
深い茶色の机に腰掛けて、研究資料である十数枚の白い羊皮紙を眺めていると、不意にドアが小さく二回叩かれ、そう告げられたのであった。
いったい誰が来たのだろうと、1、2秒考えたのだが。
どうやらドアの向こうで返事を待ってる様子だったので、
取りあえず通してやってくれと返事をした。
約二分後。
部屋に入ってきたのは30代半ばの夫婦だった。
私の顔を見て意外と若いと思ったのか、怪訝そうな顔をしていたのだが。
黙っているのも意味がないと思ったのか、男の方が意を決したように話し出した。
その時、私には男が言い出すだろう用件の見当はついていた。
「無料で身体の不自由な人をなおしてくださると言うのは 本当ですか?。」
すがるような男の声を聞きながら、
私は、何人かの実験台の顔を思い出していた。
さて今までの5人の内、誰がしゃべったのか・・・。
そんなことを考えながら、目の前の男を見る。
そして 一言。
「実験台、と言うことになるのだが良いのかな?。」
実験台という言葉にピクリと反応した様子だったが、
夫婦で顔を見合わせた後、しっかりと頷いた。
「で?、お二人とも健康なようだが?。」
返事が重なる。「実は娘が・・・。」
詳しく話を聞いた後、夫婦を帰し。
近い内に家を訪ね、月末にはなんとかすることになった。
その夜、私は一人の男を待っていた。
机に肘をつき、組んだ手の親指の上に顎をのせて呟く。
「さて、おしゃべりな男はどうするべきかな?。」
一瞬、目の中を暗い光がよぎる。
「始末・・・するか・・・。」
明け方近くになって、男は家に帰ってきた。
「ういっ、ひぃっく。畜生、あの野郎。」
酔っている様だ。
足下がおぼつかない。
「おりぇの、俺の腕を、こんなにしやがって・・・。」
暗い部屋の奥に身を隠していた私は、ゆっくりと机から立ち上がり・・。
「動かぬ腕に失望し、飲んだくれていた貴様が。」
男の足が止まる。
「自信で望んだのだろう?。」
恐怖と困惑の入り交じった顔で私を見る。
「腕と、・・・力を。」
私の顔が小さな明かりの下に出る。
男の足が一歩二歩と後ずさる。
「違う!、俺じゃない。喋っちゃいねえ!」
「よく喋る口だ・・。」
と言いながら静かに微笑みを浮かべる。
「しょうがなかったんだ!、あいつには借りがあったし・・・。」
「覚悟はいいか?。」
「ま、まて。いや、待ってくれよぉ。」
泣きそうな声を上げる、男。
「何でも言うこと聞くからよぉ。」
ほう。なんでも、ね。
それを聞いて私は気が変わった。
「じゃあ、お前が喋った人間を全て始末してこい。」
その腕なら簡単だろう?、と小声で付け加える。
ほっとした様子で薄ら笑いを浮かべる、男。
「わかった。しばらく待ってくれ。」
「1日だ、24時間やろう。」
再び、青ざめる男。
「む、無理だ・・・。」
「出来なければ。・・・・・・しね。」
沈黙する男。
私は振りかえり、その場を立ち去ろうとした。
「うおぁぁぁぁっ!!」
奇声とともに襲いかかる男。
しかし、当たったかに見えるその腕は、扉を殴っていた。
結果、30cmずれたその腕は。
見事に厚さ5cm程の鉄で補強された扉をぶち破っていた。
「・・・せっかくオーガーの腕を付けてやったんだ。」
一瞬、刺すような視線で相手の目を睨み。そして微笑む。
「もっと有効に使え、次は無いぞ。」
何事か呟きながら座り込む男に向かい。
私は去り際に言い残す。
「24時間だぞ?。」
町中で何人かが惨殺される事件が起こったと聞いたのは、
その翌日だった。
後編へ続く。
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