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No. 00095
DATE: 1999/02/12 10:18:47
NAME: カミル
SUBJECT: 冒険談、過去編1<前編>
いつものように、俺はきままに亭に居た。
それでもって、スパゲティを食していた。
「今日はのどかやなぁ」
西方語が訛った言葉でポツリと呟くカルケミッシュ(通称カル)が俺の隣で窓から見える景色を楽しんでいる。
俺はというと、はっきり言ってそんな時間はない。
バイトの時間が迫っているから。
「なんでそんなにバイトするの?」
と、姉さんに言われた事がある。
生活の為、と言っても信じてもらえなかった。まぁ、それが全ての理由じゃないことは確かだけれど、言えないよ。姉さんがいつか、幸せになる時の為だ・・・なんて。
俺はそんなことを思い出しながら食事に精を出していた。
「うっ、わぁ!!」
聞きなれた声が店内に響く。
俺とカルは何事かとそちらに目を向ける。
そして。信じられないものを見た。
パーティを組んでいるキーサさんとクレアさんが俺達のほうに飛んできた!
「げっ!」
フライの呪文で飛んでいるのかと思ったが、どうやらそんなんじゃないらしい。魔法使いであるキーサさんでさえ制御出来てないみたいだから。
そして、二人は勢いよく俺に突っ込み、二人が持っていたものにくっついてた紐に首を巻かれ、
「ぐえっ」
俺は情けない声を上げて、二人についていった。
「カミルっ!」
カルが盗賊らしい俊敏な動きを見せ、飛んで行く俺のマントをはっしと握る。
そして、彼も飛ばされる。
俺はなんとか、紐から抜け出す。が、紐は離さず、彼女等についていく。
「前っ!」
二人が叫んだ。
何事かと見上げると、扉が迫っているのが見える。
「げっ!」
俺は青ざめる。
このままいくと、外に出るあの扉にぶつかってしまう。
と、そのとき。
天の助けか、扉が開いた。
「ますたぁっ!」
キーサさんとクレアさん、そして俺が叫ぶ。
そう、扉を開けて入ってきたのは買い物に出ていたマスターだった。
マスターは並ならぬモノを感じたのか、扉を開けたまま上半身をそらす。
俺達は開いた空間からうまく出て、事無きを得た。
「あっ、マスターすまんっ」
カルがマスターを蹴飛ばしたらしい。
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どこまで飛ばされただろうか。
突然、浮く力が消えて、ぼとぼとと地面に叩きつけられた。
「あっ、つつつ・・・」
頭を押さえながらうめくカルの姿が見える。
草マミレになった自分を綺麗にし始めるクレアさんの姿、手のひらを見つめているキーサさんの姿も。
「?」
俺は気になって、キーサさんに寄った。
「なに見てるんですか?」
そして彼女の手のひらを覗き込む。そこには割れた金貨があった。
「・・・・・・ここに連れてきたの、あたしじゃなくてこいつなんだ」
キーサさんが呟く。
やはり・・・か。
まぁ、彼女の仕業なら、自分は巻き込まないだろう。他人の不幸(?)を見るのはいいけど自分は可愛い、と思っているらしいから。
「これを・・・くっつけたら、ここまで来た。落ちたのは、離したからだ」
「なるほど・・・」
金貨に魔法がかけられていると思ったほうが妥当だろう、この場合。
かけたのは彼女じゃない。他の誰か。
「・・・またくっつけたら飛んで行くんじゃないですか?」
「そうだろうとは思う。・・・だから今度は、ちゃんと配列決めてやろうかと思って」
この場合、一番後ろは痛い思いする。それはカルの様子で判る。彼はここにたどり着くまでの間、曲がるたびにどこかをぶつけていたから。
「先頭はカミルだな。で、あたし、クレア、カルの順か」
・・・それは戦闘配列のような・・・
「わい、もう嫌やぁ」
涙声でカルが講義する。
「・・・・・・もう決まった。観念しろ、カル」
俺の一言で、決断は下った。
キーサさんもクレアさんも、戦士である俺がリーダーだとカルに説得していた。
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それからしばらくして。
俺達は、またも飛んでいた。
キーサさんが握っていた金貨を、今度は俺が握って。
「わっ」
かくんと、突然下に方向を変える。
その瞬間、引っ張られる感覚を失ったが、俺は構わず金貨を握り締め、気がつくと洞窟に入り込んでいた。
「?」
俺は後ろを振り向く。
「げっ」
誰も居ない。さっきのは気のせいじゃなかったのか。
俺は慌てて金貨を離す。そして今来た道を歩いて戻る。
入り口付近に、皆はいた。
・・・・・・まぁ、いいけどさ、べつに。
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そしてまた、俺達は飛んでいた。
触れるほど低く、そして落ちたら怪我するなぁと思えるほど高く。
曲がるたびにカルの悲痛な叫びが聞こえたのは、言うまでもない。
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とりあえず、後編に続く。
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